11月に発売された本2冊で見つけた藤子ネタ

みなもと太郎先生の名エッセイ集『お楽しみはこれもなのじゃ』の文庫新装版が11月8日に発売されました。

f:id:koikesan:20211111163921j:plain

 このエッセイの初出は、1970年代後半の「マンガ少年」(朝日ソノラマ)です。この雑誌で連載されていたのです。

 「マンガ少年」といえば、藤子ファン的には藤子・F・不二雄先生が少年向けSF短編の数々を発表した雑誌として名高いです。そんなマンガマニア向け雑誌を舞台に、みなもと先生が楽しく鋭く軽快にマンガ語りを展開していたのです。

 

 本書で取り上げられた藤子作品は『モジャ公』と『黒イせぇるすまん』です(タイトルが出てくるだけの作品なら、ほかにもありますが…)。このエッセイは1970年代後半ごろ書かれています。その時点で、ヒットした藤子作品ではなく、この2作品に注目し話題にしているのはみなもと先生の慧眼ですし、掲載誌がマンガマニア向け雑誌ならでのセレクトだな、と思わせてくれます。

 藤子不二雄コンビ解消よりだいぶ前に書かれた文章ですが、『モジャ公』は藤本氏メイン、『黒イせぇるすまん』は安孫子氏メインというふうに分担を区別して論じているのも印象的です。(この文章が初出からそういう書き方をしていたかは未確認ですが…)

 1979年の『ドラえもん』ブーム以降からコンビ解消までの期間は、マスメディアにおいて藤子不二雄の二人の分担は「企業秘密」として隠されるのが当たり前だった…との印象を私は抱いています。ところが、その直前の時代は、こうして不意に分担が明かされることが1979年以降よりは多かった気がします。あくまでも印象であって、実証的なデータは用意できませんが…。

 

 

●11月10日に『手塚治虫アシスタントの食卓2』(堀田あきお&かよ著/ぶんか社)が発売されました。

f:id:koikesan:20211118184101j:plain

f:id:koikesan:20211118151720j:plain

f:id:koikesan:20211118151729j:plain

 同作の1巻は2019年に出ました。読んでみたら、アシスタント目線から手塚先生の実に興味深いエピソードがいろいろ描かれていて面白かったので、2巻が出ると知ったときは「ぜったい読みたい!」と思いました。

 堀田先生が描く人物は、シンプルなタッチでありながら実在感がにじんでいます。一人一人の人物がまさにこんなたたずまい、こんなお人柄だったのだろう、と思えます。終盤は泣けました。

 

 当ブログ的な注目点は、本書の著者である堀田先生が第1回藤子不二雄賞で佳作を受賞したときのエピソードです。

f:id:koikesan:20211226140901j:plain

 授賞式のシーンには、二人の藤子先生が登場します。藤本先生がスピーチするところ、二人の藤子先生が賞状や記念品を授与されるところなどが描かれています。堀田先生がトイレでたまたま安孫子先生と隣り合って声をかけられる、というエピソードもあったり。

 第1回藤子不二雄賞の発表については、当時「コロコロコミック」の誌面で見ていました。あのときのオムライス先生がこの堀田先生なのか!と思うと、まことに感慨深いです。

 堀田(オムライス)先生と同じ佳作受賞者として本書に登場するTさんとは、田中道明先生のことでしょう。堀田先生と田中先生は授賞式会場で言葉を交わし、帰りには新宿駅まで一緒で電車に乗っていきます。

 

 巻末には「アシスタント時代の貴重な思い出たち」という写真資料コーナーがあり、堀田先生が第1回藤子不二雄賞で佳作を受賞した作品の扉絵や、同賞の賞状・盾・メダルの写真などが掲載されています。