藤子不二雄Ⓐ先生に感謝をの念を捧げるゆでたまご先生

 いろいろな雑誌に藤子不二雄Ⓐ先生の追悼記事が掲載されるなか、集英社の「プレイボーイ」5月2日号(4月18日発売)で実に印象深い追悼企画を読むことができました。

・Ⓐ先生の追悼記事が掲載された週刊誌

 

・「プレイボーイ」5月2日号の表紙

 

 「プレイボーイ」で大人気マンガ『キン肉マン』を連載中のゆでたまご先生が、Ⓐ先生の『まんが道』から受けた絶大な影響を語っておられ、その内容は、Ⓐ先生への尊敬と感謝の念がひしひしと伝わってくるものでした。

 ゆでたまご先生が全『まんが道』シリーズのなかで初めて出会ってむさぼるように読まれたのは、「少年チャンピオン」で2ページずつ連載されていた、のちに「あすなろ編」と呼ばれるシリーズだったのですね。「あすなろ編」を初出の雑誌連載で読まれていたそうです。

 

 「あすなろ編」は、「少年チャンピオン」連載時にはⒶ先生(当時は「藤子不二雄」名義)によるマンガの描き方コーナー『チャンピオンマンガ科』の一部分として『マンガ道』のタイトルで掲載されていました。『チャンピオンマンガ科』のページ数は1回につきたいてい5ページあって、そのうちの2ページ分が『マンガ道』にあてられていました。(そうじゃない例もあります)

 ゆでたまご先生は、そういう形態で連載されていた『マンガ道』(のちの『まんが道 あすなろ編』)をリアルタイムで読まれていたのです。

 

 ご存じのとおり、ゆでたまご先生は原作担当の嶋田隆司先生と作画担当の中井義則先生の2人組漫画家です。

 お2人は小学生4年生のとき出会い、プロの漫画家になりたいと心のどこかで思っていたものの、どうしたらなれるのかよくわからなかったといいます。そんなとき、「少年チャンピオン」で『マンガ道』に出会われました。自分らもこのとおりにやればプロの漫画家になれるのか!と『マンガ道』に描かれていることをどんどんマネしていったそうです。

 嶋田先生と中井先生がコンビを組んでプロの漫画家を目指そうというときの、最大のお手本が『マンガ道』だったわけですね。

 

 今回の記事でゆでたまご先生は、『マンガ道』以外にも2人の藤子先生(Ⓐ先生とF先生)から受けた影響を熱く語られており、その言葉のはしばしから藤子先生への感謝の気持ちがあふれています。

 

 中井先生は、「あすなろ編」が初めて一冊にまとめられた記念すべき単行本(1972年、秋田書店発行)をバイブル的な一冊として今も机から一番近い本棚に差しておられるそうです。

 この単行本、ハードカバー・箱入りの豪華な仕様で、装丁・造本の観点からもバイブル扱いされるにふさわしい格調を有していると思います。

 

 ビッグなゆでたまご先生の話から急に自分のことに引き寄せて恐縮ですが、私が『まんが道』を初めて読んだ単行本は、ヒットコミックス(少年画報社、全19巻)の第1巻(1978年発行)でした。「少年キング」連載中だった『まんが道』を一番初めに単行本化していった新書判のコミックスです。

 すなわち私は、「あすなろ編」より先に「立志編」を読んだわけです。

 

 『まんが道』はいつ何歳のときに読んでも心を動かされる不朽の名作ですが、なかでも自分が中高生のころ繰り返し読んだ「立志編」への感情移入度は格別に高かったです。

 「立志編」には、学生生活を送っていた満賀道雄才野茂がその生活に別れを告げ、いよいよ社会へ出ていこうとする年代の出来事が描かれています。「立志編」を初めて読んだ当時の私は、作中の主人公2人より少し年下だったのですが、自分にも間もなくそういう時期が嫌でも訪れるんだな……とわがに身に迫ってくるような切実な感覚を抱かされました。

 それまでは完全な子どもだったのにこれからは否が応でも子どもから大人になっていかねばならない……そんな年ごろで出会って読んだ「立志編」は、当時の自分の置かれた状況や心理とリアルに重なり合ったのです。

 

 偉大なる2人の藤子先生をモデルにした満賀道雄才野茂と凡庸なこの私をリアルに重ね合わせるなんて、まことにおこがましい所業だとも思うのですが、当時の私は私なりの次元で、あのころの私より少しお兄さんである満賀と才野の歩む道に心を重ね合わせていたのです。

 

 『まんが道』は「漫画家をはじめクリエーターを目指す人、夢を持ってがんばっている人のバイブル的な作品だ」とよく言われ、それはまさにそのとおりだと思うわけですが、漫画家やクリエーターになるとか何か特別な才能があるとかそういうわけじゃない私のような人間にも、人生の味わいや喜びや厳しさを親切に教えてくれる、普遍性をもった青春物語なのです。

 

 読者の多さという点では比較的地味な作品だった『まんが道』が一躍大勢の読者を獲得したのは、中央公論社から刊行された分厚い愛蔵版によってでした。1986年のことでした。

 この単行本はNHKでのドラマ化に合わせて刊行されたもので、幅広い世代に読まれてベストセラーになりました。

 愛蔵版には「少年キング」連載のシリーズに加え、ゆでたまご先生がむさぼり読まれた「少年チャンピオン」連載の「あすなろ編」も収録されています。

 いま私が『まんが道』を読み返したり内容を確認したりするときは、この愛蔵版を開くことが多いです。