アニメ『ドラえもん』で「ばくはつこしょう」と「バランストレーナー」放送

 3月25日(土)午後5時から放送された『ドラえもん』で、次の2エピソードがアニメ化されました。

 

・「ばくはつこしょう」(てんとう虫コミックスドラえもん プラス』3巻などに収録)

・「バランストレーナー」(てんとう虫コミックスドラえもん』44巻などに収録)

 

 どちらの作品も、ドタバタ感とシュール感漂うギャグエピソードです。

 

 今回「ばくはつこしょう」が放送されると知ったとき、私はこのタイミングでこのエピソードを選ぶとはやってくれるじゃないか!と思いました。

 この時季は花粉症シーズン真っ盛り。私も鼻水とクシャミの症状にさいなまれているところです。

 そんな季節に、クシャミシーンが連発する「ばくはつこしょう」を放送するとはなんと狙いすましたチョイスでしょう。ある意味、季節感をじつに重んじたチョイスです。

 少なくとも、この時季クシャミが連発して止まらなくなることがよくある私にとっては、良くも悪くもタイムリーに感じました(笑)

 

 原作の「ばくはつこしょう」は、冒頭でドラえもんのび太への当てこすりのように鼻をかむところからすでに面白いです。鼻をかむ必要がないのにわざわざのび太の前で鼻をかんでみせて、今回は助けてあげないよという意志を遠回しに示すドラえもん。その皮肉っぽい態度が面白いのです。

 が、結局はのび太に泣きつかれ、いつものように手助けしてしまうことになるのでした(笑)

 今回のアニメでも、冒頭の同じシーンでドラえもんが鼻をかみます。かむのですが、そのニュアンスが原作とはちょっと違っていました。原作では、鼻をかむ必要がないのにわざわざ鼻をかんでみせていたのですが、アニメではドラえもんに鼻をかむ必要性があったのです。なぜなら、ドラえもんは鼻水とクシャミに悩まされていたからです。

 原作では健康体で登場したドラえもんが、今回のアニメでは、花粉症なのか風邪なのか、ひどい鼻水とクシャミにみまわれていたのです。

 そのため、ドラえもんの「鼻をかむ」という行為が、わざわざやらなくてもよいのにあえてやってみた行為ではなく、そうする必要があった行為に変わったわけです。その変化によって、冒頭のドラえもんの鼻かみ行為が、のび太への当てこすりというニュアンスを失ったように感じられました。(ただし、原作冒頭のドラえもんが鼻をかむ行為に近いニュアンスのシーンが、今回のアニメではストーリーの途中で出てきました)

 と、そんな変更はあったものの、この季節に「ばくはつこしょう」を放送してくれたことのタイムリーさを楽しめたことに変わりありません。

 

 ところで、このタイミングでの「ばくはつこしょう」放送に、先日開催された野球の世界一決定戦「ワールドベースボールクラシック」(WBC)で日本代表チーム“侍ジャパン”のメンバーが見せた“ペッパーミルパフォーマンス”を思い出した人もいたようです。

 ペッパーミルパフォーマンスとは、もともとメジャーリーグカージナルスに所属するラーズ・ヌートバー選手が行なっていたものです。このヌートバー選手がWBC日本代表に選出されたことで、チームの団結力を高めようと選手たちがみんなでペッパーミルパフォーマンスをするようになったのです。

 WBCのすさまじいフィーバーっぷりとともに、このパフォーマンスも大いに注目を浴び、真似する人もたくさん出てきましたし、ペッパーミルの売上が急に上がるという現象も起きました。ヌートバー選手がみんなに愛される性格だったことも、ペッパーミルパフォーマンス人気に拍車をかけたことでしょう。

 日本時間の3月22日にWBCの決勝戦が行なわれ、日本がアメリカに勝利してめでたく世界一に輝きました。WBCが終わって最初に放送されたアニメ『ドラえもん』が3月25日の回でした。そこで「ばくはつこしょう」をやったため、「ペッパーミルパフォーマンスとコショウつながりだ!」と共時性を感じた人が出たのです。アニメ制作者がペッパーミルパフォーマンス人気の高まりを見越してこのタイミングで「ばくはつこしょう」をチョイスしたわけではないでしょうけど。

 

 「ばくはつこしょう」と同じ放送回でもうひとつ放送されたエピソードが、先述のとおり「バランストレーナー」です。

 「バランストレーナー」と「ばくはつこしょう」、この2エピソードの原作マンガを読み返してみると、どちらにも猫が登場します。

 「バランストレーナー」では、その猫はシロちゃんと呼ばれています。名前のとおり、白くてかわいらしい猫です。シロちゃんは、猫仲間のタマちゃんがクロにいじめられていることをドラえもんに伝えにきました。ドラえもんに助けを求めたのです。ドラえもんのび太の部屋の窓からタケコプターをつけて飛び立ったとき、シロちゃんは一緒に窓から飛び降りるのですが、そのときのシロちゃんのダイビングポーズがそこはかとなく愛くるしいです。

 そして、「ばくはつこしょう」に登場する猫は、寝ているところをのび太にばくはつこしょうを振りかけられ「ニャクション」とクシャミをさせられます。その猫の見た目が、「バランストレーナー」のシロちゃんにとてもよく似ています。こちらの猫もシロちゃんではないか、と思えるほど似ているのです。

 どちらもシロちゃんだとすれば、今回のアニメ『ドラえもん』では、シロちゃんの登場する原作エピソード2本を放送したことになります。たぶん偶然そうなったのでしょう。アニメでは、どちらのエピソードにもシロちゃんが登場しませんでした。

 

 さて、原作の「バランストレーナー」のなかで、ささやかながら個人的に注目したい点があります。

 次のコマをご覧ください。

・『ドラえもん』の「バランストレーナー」のひとコマ(てんとう虫コミックスドラえもん』44巻、127ページより引用)

 

 座布団型のひみつ道具“バランストレーナー”を「牛」モードにしてバランス感覚を身につける練習をするスネ夫です。そのゆったりのんびり動くさまに藤子・F・不二雄先生は「ノタリノタリ」という擬態語をつけています。

 私が注目するのは、その「ノタリノタリ」です。

 

 「ノタリノタリ」という擬態語が効果的に使用された作品といえば、与謝蕪村の俳句「春の海ひねもすのたりのたりかな」が最も有名でしょう。私もその俳句を真っ先に思い出します。

 個人的には、その与謝蕪村の俳句と「バランストレーナー」のこのひとコマを世界2大「ノタリノタリ」に認定したい気分です😆

 そんな、じつに個人的な気分をある場所で語ったところ、ある方から「『チンプイ』に出てくるノタリヒネモスが好き」という言葉をいただきました。

 ノタリヒネモス! 

 ああ、いましたね!! 星から星へとさまよう宇宙クラゲの一種!! 絶滅の危機を迎えた稀少生物でもあります。

 このノタリヒネモスという生き物は、人の耳には聞こえない超音波の歌をうたい、その歌声が人の心を和ませポワ~ンとのんびりした気持ちにさせます。(ノタリヒネモスは『チンプイ』の「エリさまは幸運の女神!?」に登場)

 そこで私は思いました。「ノタリノタリ」と同じ語を反復するかたちではなく「ノタリ」の語が一つでも入っていればよいという括りならば、与謝蕪村の俳句と「バランストレーナー」のひとコマにノタリヒネモスを加えて、個人的な3大「ノタリ」に認定したいなと😆

 というわけで、3月25日は「ノタリノタリ」というオノマトペに人生でもっとも思いを寄せる日になったのでした。