『俺はまだ本気出してないだけ』の作者と『ドラえもん』

 12日、13日と静岡県浜松市へ行ってきました。浜松といえば、政令指定都市に移行したのを機に、先日亡くなった赤塚不二夫先生の「ウナギイヌ」をマスコットキャラクターに採用した市です。赤塚先生の告別式に参列した友人によると、式中に浜松市長の弔電が読み上げられたということです。



 16日朝5時ごろ、目が覚めてみると部屋の壁にヤモリが張りついていました。ヤモリは「屋守」と書いて家を守ってくれる縁起の良い動物とされていますし、実際に害虫を食べてくれる有益な動物でもあるのですが、私の家族が大の爬虫類嫌いなので、やむをえず捕まえて外へ逃がそうとしました。それでヤモリの尻尾をつまんだら、トカゲと同じように尻尾を切断してすばしっこく逃げ出したのです。胴体から切り離された尻尾はしばらくのあいだ、まるでそれ自体が生き物の本体であるかのようにクネクネ動いていました。トカゲの尻尾では何度も何度も目撃している光景ですが、ヤモリの尻尾切り(自切)は初めて見たので、ちょっと面喰らいました^^
ドラえもん』には、「動物がたにげだしじょう」(てんとう虫コミックス10巻収録)や「トカゲロン」(ぴっかぴかコミックス2巻収録)といった、トカゲの尻尾の自切をアイデア源にした話がありますね。「動物がたにげだしじょう」ではトカゲの自切が敵から身を守る手段であることに、「トカゲロン」では一度切れた尻尾が再生することに着目しています。

 部屋に出現したヤモリ



 さて今日は最近読み返してみて改めて面白いなと思ったマンガや、初めて読んで印象的だったマンガを3作品だけ簡単に紹介してみます。毎日のように何かしらマンガや活字本を読んでいるのですが、なかなか感想を書けません。今日は気まぐれで書いてみます^^


逆境ナイン』(島本和彦サンデーGXコミックス全6巻/1989〜91年「月刊少年キャプテン」連載)
 校長からいきなり廃部を宣告された野球部が、逆境をエネルギーに甲子園を目指す、超熱血青春野球マンガ。こんなことありえないって展開が疾風怒濤の熱血描写や格言風の言葉を駆使しながらぐいぐい描かれていきます。島本和彦以外の人が描いたらただ嘘くさいだけの、破綻したスカスカな作品になりそうなところを、独自のパワフル筆致によって得体のしれない説得力や魅力を獲得しています。
 読んでいると、ふつふつと元気がわいてきます。その猛烈な熱さは、ギャグと紙一重のスレスレ感も持っています。暑い夏だからこそ読み返したくなる熱いマンガです^^


いがらしみきおモダンホラー傑作選 ガンジョリ』(いがらしみきお/ビッグ スピリッツ コミックス スペシャル)
 2005年から07年のあいだに発表されたホラー短編『ガンジョリ』『観音哀歌』『みんなサイボー』『ゆうた』を収録。私は特に『観音哀歌』が気に入りました。バブル時代に建造された巨大観音像が急に動き出し大移動を始めてしまうのです。観音様の大移動は甚大な被害を生む大事件でありながら、マスメディアや行政、自衛隊、一般市民を巻き込んでの国民的お祭り騒ぎにもなって、それにかかわるさまざまな人間模様が描き出されます。
 あるテレビプロデューサーは、浅間山荘以来のテレビ的大事件だと感じてわくわくするのですが、私はその表現にとてもピンと来るものを覚えました。巨大観音様が最終的に行き着いた先の光景がシュールで鮮烈。
『みんなサイボー』では、人間誰もが細胞でできていることを初めて学んだ少年が、人間=細胞のイメージに過度にとらわれ続けます。少年の脳内で細胞化した人間のイメージがグロテスクだけど、少年の家庭で実際に起こってることのほうがもっとうすら寒いのです。


『俺はまだ本気出してないだけ』(青野春秋IKKI COMICS 現在2巻まで/「月刊IKKI」連載中)
 不満足な自分の現状に対する言い訳として「俺はまだ本気出してないだけ」のような言い回しは常套句だと思いますが、本作の主人公シズオは、40歳にして自分探しのため会社を辞めてしまいます。高校生の娘までいるというのに。
 会社を辞めて一ヶ月が経過してシズオが見つけた答えとは、「俺、マンガ家になるわ」でした。当然ながら、そう簡単にマンガ家になれるはずがなく、シズオの情けない生活がユーモアと哀感をこめて綴られます。バイト先で知り合った26歳の友人に、将来のことを考えないんですかと問われ、「怖くて考えらんないよ」と返事したあと、ふと「来ちゃってない? 将来…… 俺、将来中じゃん…… 今」と身も蓋もない真実に気づいてしまう場面など、くすっと笑ってしまいつつ、切実に胸に響いてきます。


 作者の青野春秋氏は、「このマンガがすごい!SIDE-B」(宝島社/2008年8月発行)のインタビューで、「青野春秋が選ぶ「このマンガがすごい!」」として、藤子・F・不二雄先生の『ドラえもん』を挙げています。そこで青野氏はこんなことを語っています。

人生で、唯一泣いたマンガです。子供のころ『さようなら、ドラえもん』を読んで号泣しました。『ドラえもん』というと、どうしても道具の話になってしまうけど、あれはあくまでも子供を喜ばせるための隠れ蓑であって、藤子・F先生が本当に言いたかったのは「友達を大事にしようね」ってことだったんでしょうね。

『俺はまだ本気出してないだけ』を読みだした時点では作者が『ドラえもん』好きだと知らなかったのですが、この事実をあとで知ってよけいに本作への愛着がわきました^^