9月19日恵那へブドウ狩りに行きました。そのことはこちらでレポートしています。
https://koikesan.hatenablog.com/entry/2026/09/25/120751
この日のことです。岐阜県の恵那で茂みにアケビがなっているのを見つけ、一緒にいた藤子仲間2人と“アケビが出てくる藤子マンガ”として藤子・F・不二雄先生の『T・Pぼん』「古代人太平洋を行く」と、藤子不二雄Ⓐ先生の『少年時代』「秋の章」の話で少し盛り上がりました。



F作品にもⒶ作品にも印象的な採り上げ方で登場するアケビ。その藤子マンガへの貢献度にあらためて思いを致しました。



“主人公がアケビを見つけ、このあと採って食べる”という瞬間が描かれたコマです。2作品のアケビ描写を比べて鑑賞すべく引用してみました。2作品の画風の差異にともなって、アケビも『T・Pぼん』ではシンプルに、『少年時代』ではリアルに描かれています。ただ『T・Pぼん』のアケビは的確にポイントをしぼって特徴がとらえられていて、シンプルながらほどよいリアリティが感じられます。『少年時代』のほうはかなり写実に接近していて、リアリティというよりリアリズムを志向しているようです。
2作品におけるアケビのリアルさの表現手法にそんな差異を見いだしながら、どちらも見たら採りたくなるンマそうな絵になっていると思うのです。
『T・Pぼん』「古代人太平洋を行く」でアケビを食べた主人公・ぼんは「あまいや」と言い、『少年時代』でアケビを食べた主人公・進一は「あまーい!!」と反応します。その反応をここで確認してみましょう。


2人の少年はアケビを食べて即座に“甘い”と声に出しています。アケビは甘いんだから“甘い”と反応するのは当然すぎるくらい当然の反応なのですが、私はこの描写から、次のようなことを想像しました。
きっと、少年のころの二人の藤子先生にとって、甘いものに飢えやすい時代状況のなか、アケビというのはとても貴重でありがたい甘味の摂取源だったのだろう。野生のアケビを食べて“甘い”と感激した昔の記憶が、ぼんや進一の反応に投影されているのだろう、と。
この2作品の初出を確認すると、『T・Pぼん』「古代人太平洋を行く」は「少年ワールド」1978年11月号で発表されています。『少年時代』の該当エピソードの初出号は未確認ですが、『少年時代』は全体として「週刊少年マガジン」1978年37号〜79年39号で連載され、その中で「秋の章」は連載全体を前半と後半に分ければ前半にあたります。つまり、藤本先生と安孫子先生がアケビを描いたのは“おおよそ1978年の終盤ごろ”ということになり、けっこう近いタイミングなのです。これは単なる偶然のシンクロなのか、それとも、このころ二人の藤子先生が二人そろってアケビに注目するような何かがあったのか!?
『少年時代』に関しては、原作小説の『長い道』(柏原兵三・作)にアケビが出てくる可能性がありますね。そのことを『長い道』を再読して確認すればよいのですが、今は手をつけられずにいます。(『長い道』は既読なのですが、アケビが出てきたかは憶えていません)
と、こんなことを語っていたら、藤子ファンの知人Hさんから、
「スカンポ(イタドリ)も『少年時代』と『宇宙船製造法』(1979年初出)両方登場しますね」
と補足情報をいただきました。ありがたや。
1978〜9年は、アケビだけでなくスカンポでもF作品とⒶ作品がシンクロしていたのですね!しかも、アケビもスカンポも『少年時代』絡み。
アケビとスカンポ、どちらの雑草も、二人の藤子先生が少年時代に野生のものを食したのではないかと思います。そういう共通体験があるのでしょう。
と思いつつスカンポに興味を抱いて調べてみたら、俗にスカンポという別名をもつ植物はイタドリのほかにもうひとつ、スイバがあるようです。
スカンポと呼ばれる植物はイタドリだけじゃない!?と知ったところで、その確認のため、2作品からスカンポの描かれたコマを引用しましょう。


これらのコマを見る限り、『少年時代』のスカンポはイタドリと明示されているとおりですが、『宇宙船製造法』のほうは形状からして、『少年時代』で描かれた植物と異なるように見えます。
そして、『宇宙船製造法』の当該コマを見ると「この葉をかむとちょっとすっぱくて」というセリフがあります。イタドリの場合だと食べる部位は主に芽や茎で、通常、葉は食べないようです(調理法によっては葉も食べられるのかもしれませんが)。一方、スイバは漢字で「酸い葉」と書くとおり、酸っぱい葉を食べるようです(茎も食べます)。「この葉をかむとちょっとすっぱくて」というセリフに当てはまるのは、イタドリよりもスイバと考えるのが妥当でしょう。
したがって、『少年時代』に出てくるスカンポは確実にイタドリで、『宇宙船製造法』のスカンポはおそらくスイバだろう、というのが現時点での結論になります。
『少年時代』と『宇宙船製造法』はスカンポという食べられる雑草でシンクロしながら、そのスカンポという名が指し示す植物は異なる種なのです。そういう、ちょっとねじれたシンクロの仕方をしているところが面白いですね。
Hさんのご指摘からこんな面白さにたどり着けて、一種の知的好奇心が満たされた気分です。