「コロコロコミック」のサイズについて

 3月15日(水)に発売された「コロコロアニキ」第8号には、デジタルふろくとして「コロコロコミック創刊号」全ページを読めるシリアルコードが付いてます。これは「コロコロコミック」生誕40周年を記念した企画です。
 
 そこで、40年前の「コロコロコミック」創刊時のエピソードをちょっと紹介してみます。
 「コロコロコミック」は、当時のマンガ雑誌としてはかなり厚い本でした。その厚さの裏には、モデルとなった本があります。
 「コロコロコミック」初代編集長・千葉和治氏はこう述べています。

困ったのは器なんですね。『譚海』という少年向けの厚い読み物雑誌が昔ありまして、子供心に強烈に覚えていたんですね。それを思い出して、子供の頃は中身ももちろんだけど“厚さ”が重要だと。ただその頃は、マンガ雑誌と言えばB5サイズ(18.2×25.7cm)が主流でそれ以外のものがなかなかないんですね。そのサイズで厚みを求めるとコスト計算が合わない。そこでA5サイズ(14.8×21.0cm)の判型に小さくして(B5サイズとの差で)余った部分をそのままページ数に回すことができないか。つまりページの厚みに付加できないか、と考えたんです。そうすれば当時なかった“厚い”子供向けマンガ雑誌が成立するんじゃないか、と。(「リラックス」2003年4月号)

 今でこそ「コロコロコミック」くらい厚いマンガ雑誌は数々出ていましょうが、当時の感覚では「コロコロコミック」の厚さには他にはないような特別感がありました。その厚さのモデルとなったのが、昔の児童雑誌「譚海」だったわけです。
 ただし、「コロコロコミック」の判型がA5判になったのは「譚海」がモデルというわけではないようです。千葉氏が語ったとおり、ページ数を増やし本を厚くすることによって生じるコストの問題が大きかったのです。その結果、A5の判型が選ばれ、当時のマンガ雑誌としては小型かつ厚い本ができあがったのです。


 小型で厚いところがコロコロッとした感じだったから「コロコロコミック」と名づけられました。最初からコロコロッとした本を目指したわけではありません。まず「譚海」をモデルにページを厚くしようというアイデアがあり、厚くすることで生じるコストを考えてサイズを小型化したため、結果としてコロコロッとした感じの本になったのです。


 ある本のサイズを決めるさい別の本がモデルになった、という話題をもう一例紹介します。
 宮崎駿氏のマンガ『風の谷のナウシカ』の単行本(徳間書店)のサイズは、B5判でページ数が比較的少なめです。このサイズのモデルになったのは、じつは、藤子先生の本でした。
 スタジオジブリ鈴木敏夫氏は、文春ジブリ文庫ジブリの教科書1 風の谷のナウシカ』(2013年)でこう語っています。

通常漫画の単行本は二〇〇ページくらいなのに、僕はまだ一二〇ページしかない連載十回目に、もう単行本にしたくなりました。早く映画が作りたくなったんですね。『ドラえもん』の映画が上映された時、藤子不二雄さんが百何ページかのB5判の原作本を出していたので、この形ならいける、ページを薄くすれば売れるだろうと読んで、いきなり七万部を出したんです。ところが五万しか売れなくて、大失敗です。

 鈴木氏が「『ドラえもん』の映画が上映された時、藤子不二雄さんが百何ページかのB5判の原作本を出していた」と言うその本とは、カラーコミックス『映画まんがドラえもん』のことだと推定できます。『映画まんがドラえもん』とは、映画ドラえもんの原作マンガ、つまり大長編ドラえもんのことです。
 
 『風の谷のナウシカ』の単行本1巻の初版は、1982年(昭和57年)9月25日に発行されています。その時点ですでに刊行されていたカラーコミックス『映画まんがドラえもん』シリーズは、『のび太の恐竜』から『のび太の大魔境』までの3冊でした。『のび太の大魔境』が1982年の3月ごろ発売され、その半年後くらいに『風の谷のナウシカ』1巻が世に出たかたちです。
 鈴木敏夫氏が『風の谷のナウシカ』の単行本のサイズを決めるさい直接的なモデルとしたのは、カラーコミックス3冊のなかでも、特に『のび太の大魔境』だったのかもしれません。あるいは、『のび太の恐竜』から『のび太の大魔境』まで同じサイズで出続けている状況を見て影響を受けたのかもしれません。
 『風の谷のナウシカ』の単行本は、ロングセラーとなっている現在のバージョンはカバー付ですが、1巻の初版にはカバーがありませんでした。B5判でページ数が通常のコミックスより少なめ、という特徴に加え、カバー無しというのもカラーコミックス『映画まんがドラえもん』と同じです。


 鈴木氏が『風の谷のナウシカ』の単行本刊行を急いだのは、早く映画化したかったからとのことです。最初に出した単行本は予想より売れなくて失敗したと語られていますが、その後まもなく『風の谷のナウシカ』の映画化が決まったようで、1984年3月11日に劇場公開されました。