今年1月中旬から2月上旬にかけて開催された「シリーズ45周年記念!映画ドラえもんまつり」のおかげで、過去の映画ドラえもんをふたたび劇場で観られて心躍ったわけですが、この企画でリバイバル上映された6作品のうち私が唯一2回観に行ったのが『新・のび太と鉄人兵団〜はばたけ天使たち〜』(以下、「新・鉄人兵団」)でした。
「新・鉄人兵団」の公開年は2011年。この年の3月5日から公開されました。私は初日に観に行って非常に感銘を受け、劇場であと3回は観たい!と思ったものの、結局あと1回しか観られませんでした。劇場で4回は観たかったのに、実際に観られたのは2回だったのです。
それが、このたびの「映画ドラえもんまつり」で2回観たことで、この映画を劇場で4回は観たい!という望みを14年越しにかなえられることになったのです。じつに感慨深いです。
今回「新・鉄人兵団」を2回劇場で鑑賞して、あらためてピッポというキャラクターに心を動かされました。ピッポは、『のび太と鉄人兵団』の原作マンガや旧映画に登場しないキャラクターです。藤子・F・不二雄先生が生み出したキャラクターではありません。正直言って、「新・鉄人兵団」公開前の情報でピッポなんて新キャラクターが登場すると知ったときは「やめてくれ〜」と思ったものです。『のび太と鉄人兵団』という作品に強い愛着をもつ私には、ピッポがよけいなもの、この作品の世界観にふさわしくないノイズに感じられたのです。とくに、ヒヨコのようなマスコット的な姿が『のび太と鉄人兵団』とは水と油のように思えました。
ところが、実際に「新・鉄人兵団」を観てみたら、印象が大きく変わりました。ピッポのイメージが180度逆転したと言ってもよいでしょう。
私は「新・鉄人兵団」公開当時、この作品の感想として次のようなことを書きました。
鑑賞前の不安材料だった新キャラクター“ピッポ”の扱い方が思いのほか悪くなかったのも、本作成功の見逃せない因子だろう。事前情報の中で、いかにもかわいらしくデザインされたピッポの姿を目にしたとき、そして、ジュドの電子頭脳がマスコットキャラクター化されるという設定を知ったとき、私は落胆した。ピッポは名作『鉄人兵団』の世界にはそぐわない異質な存在に見えたし、作品のストーリーやテーマやムードを損なってしまう負のパワーをみなぎらせているように感じられた。
それがどうだろう。実際に作品を観ると、不安材料でしかなかったピッポがけっこう巧みに作品世界に溶け込んでいたのである。作品のテーマを補強することにも貢献していたし、鑑賞者の感情移入を誘う働きもしていた。映画を観る前と後とで、ピッポに対する印象が大きく変わった。私にとって、これほど鑑賞前後で印象がガラリと変わったキャラクターは珍しい。鑑賞前は、ピッポのぬいぐるみなんて要らない、と思っていたのに、後になって何だか欲しくなり、結局劇場の売店で買ってしまったほどだ(笑)
ピッポという新キャラクターを投入して本当によかった、と手放しで礼賛することはできないけれど、「ピッポを加える」ということが(大人の事情などで)不可避な前提条件だったと考えれば、異質に見えるピッポを見事に『鉄人兵団』の世界に融合させたスタッフの手腕に感嘆するばかりである。鑑賞前ピッポに抱いていた抵抗感や嫌悪感はおおむね拭われ、なかなか良いキャラクターだったな、と素直に感じられるようになった。
というように、「新・鉄人兵団」を観てまもない私は、ピッポへの印象が逆転したことを熱く記しています。それは、良い意味での“ピッポ・ショック”だったのです。
とはいえ、その好印象は、当時の記述のとおり「ピッポという新キャラクターを投入して本当によかった、と手放しで礼賛することはできないけれど」「鑑賞前ピッポに抱いていた抵抗感や嫌悪感はおおむね拭われ、なかなか良いキャラクターだったな、と素直に感じられるようになった」という温度感でした。
ところが、今回の再鑑賞でピッポにますます胸をうたれ、「新・鉄人兵団」にピッポを加えてくれたことを手放しで礼賛したい気持ちが高まりました。ピッポという新キャラクターを『のび太と鉄人兵団』の作品世界に見事に溶け込ませ引き立たせ活かしきった制作陣にいっそう敬意を表したくなりました。それほど、ピッポに心を揺さぶられたのです。
「新・鉄人兵団」公開初日にテレ朝チャンネルで「映画ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 〜はばたけ 天使たち〜 みどころ ぜ〜んぶ見せますスペシャル!」なる特番が放送され、そこで水田わさびさんがこの映画の見どころとしてこんなことをおっしゃっていました。
「本当にいとおしくなる、ピッポのことが!」
この特番を観たのが「新・鉄人兵団」を鑑賞する前のことだったら、私はわさびさんの言葉に拒否感を抱いていたことでしょう。自分はわさびさんと同じ気持ちになれないだろう、なれるはずがないと。
しかしこの特番を観たのが映画鑑賞後のことだったので、まさにわさびさんのおっしゃるとおり!とあっさり共感したのでした。
そうして、あれから14年たった今、わさびさんのこの言葉にもっと強く共感する心持ちになっています。
本当にいとおしいよピッポ!