NeoUtopia 第9回藤子アニメ上映会

 17日(日)、東京の大塚で藤子不二雄ファンサークル「ネオ・ユートピア」主催の会員限定「第9回藤子アニメ上映会」が開催された。一度もソフト化されたことがなく再放送の可能性も低い貴重な藤子アニメの映像を入場無料でたくさん観られる、ありがたいイベントだ。


 最初に上映されたのは『新オバケのQ太郎』(昭和46年9月1日〜47年12月27日/日本テレビ系)だ。「ブルトラマンよたのんだぞの巻」と「オバQ騎士道の巻」が上映された。手放しで面白かった。幼いころの記憶が曖昧だが、私の藤子アニメ初体験はこの『新オバケのQ太郎』だったはずだ。子どものころはよく再放送されていて非常に馴染み深いアニメだった。ところが今ではCSでも地上波でもまるで再放送がなく、これまで一度もソフト化されていないため、幻のアニメと言ってよい状態にある。
 こんな面白いアニメが自由に観られないなんて切なすぎるが、だからこそ今回観ることができて幸せだった。
オバケのQ太郎』は、昭和40年〜、46年〜、60年〜と、これまで3度テレビシリーズとしてアニメ化されているが、私は世代的に『新オバケのQ太郎』への愛着が強い。



 モノクロ『怪物くん』(昭和43年4月21日〜44年3月23日/TBS)は、シンエイ動画のカラー版と比べ原作絵のテイストに近いのがまず嬉しい。昭和40年代に放送されたモノクロ藤子アニメはことごとくソフト化されていないため、こういう機会でもないとなかなか観られない。
「怪物学校の巻」で、怪物くんがいろんな怪物たちの名前を点呼していくなか、映画評論家・淀川長治さんの名前を呼んだらいきなり本人が実写で登場する、というシュールな場面が可笑しかった。淀川長治さんによる解説コーナーは、モノクロ『怪物くん』の名物コーナーだった。当時の子どもはどんな気分でこのコーナーを観ていたのだろう(笑)



 平成19年3月、ネオ・ユートピアが藤子A先生のお誕生会を開いたときの映像も流れた。ある会員さんのお子さんも参加したため、藤子A先生が小さな子どもと触れ合う様子が観られて新鮮だった。もちろんお子さんはかわいかったのだが、その子どもと接する藤子A先生の口調や動作もやけにかわいらしかった(笑)



 上映会のメインは、日本テレビ版『ドラえもん』(以下、日テレドラ)だ。私は2年前に開催された前回の上映会で初めて日テレドラを観た。日テレドラは昭和48年に全52話(26回)が放送されたのだが、昭和54年から始まったテレビ朝日版『ドラえもん』が国民的アニメになっていくなかで影に埋もれてしまった幻のアニメだ。長いあいだ再放送がなく映像ソフトにもなっておらず、『ドラえもん』の黒歴史的な扱いを受けてきたため、自分が生きているあいだに果たして観られるのだろうか、とすら思っていた。
 そんななか、日テレドラの制作主任だった真佐美ジュンさんが当時のフィルムの一部を保管されていて、真佐美さんのご厚意で日テレドラをネオ・ユートピアの上映会で観られることになったのだ。それが2年前のこと。奇跡が起こったような気持ちだった。そのときは、「男は力で勝負するの巻 」と「潜水艦で海へ行こうの巻 」が上映された。レポートはこちら。
 ●「旧ドラ鑑賞記」 http://d.hatena.ne.jp/koikesan/20060215



 そして今回上映されたのが、「ねがい星ながれ星の巻」と「お天気ボックスの巻」である。それに加え、アンコール上映として「潜水艦で海へ行こうの巻」も再び観ることができた。
 昨年、雑誌「映画秘宝」に掲載された日テレドラ封印の真相に迫る記事を読んで、本作のソフト化や再放送の難しさをますます強く認識したので、そんな幻の作品を今また観ることができて感激だった。
 

 日テレドラでは、ドラえもん役の声優が途中で富田耕生さんから野沢雅子さんへと交代している。「ねがい星ながれ星の巻」が富田さん、「お天気ボックスの巻」は野沢さんの声によるお話で、両者の声を聴き比べられる趣向だった。
 富田さんによるおっさん声のドラえもんは、初めて聴いたときたいへんな衝撃を受けた。衝撃とともに、可笑しくて笑いをこらえきれなかった。今回聴いても、やはり独特の衝撃が走った。と同時に、富田ドラを味わい深く、いとおしく感じるようにもなった。
 富田版・野沢版問わず、日テレドラのドラえもんは下町的な口の悪さみたいなものを持っていて、それがとても面白い。「本当に困った奴だなぁ、のび太はぁ」と実感を込めて愚痴ってみたり、「のび太なんかと親友になるんじゃなかった」と思い切り後悔したり、しずかちゃんに「弟が欲しい」とせがまれたしずかちゃんのパパとママが互いに顔を見合わせて照れているところを冷やかしたり…  そんな不躾なドラえもんの言動に笑いを誘われるのだ。
 日テレドラは、ドタバタナンセンスのなかに下町的な人情や活気やユーモアが漂い、しかもひみつ道具で引き起こされる不思議な世界がそこにブレンドされて、屈託なく楽しめる。


 日テレドラ制作主任の真佐美ジュンさんも上映会に参加されていた。真佐美さんがお帰りになるとき、「真佐美さんのおかげで幻の日テレドラえもんを観られました! 自分が生きているうちに観られるかどうかと思っていたので、こうして現物を観られて大感激しています。本当にありがとうございます」とお礼を言わせていただいた。私が「握手していただいてもよろしいですか」と頼むと、真佐美さんは快くこちらへ手を差し出してくださった。



●藤子情報
現在発売中の「コミックチャージ」NO.5(2008年3月4日号)掲載の『ラーメン王子』第9回は、藤子不二雄A先生とのコラボ企画。『ラーメン王子』本編のなかに、藤子A先生が小池さん、怪物くん、満賀道雄のイラストを寄稿している。また、『ラーメン王子』の主人公たちが哲学堂公園や松葉を訪れているのも見もの。マンガ本編のあとには、藤子不二雄A先生と『ラーメン王子』の作者・阿部潤さんによる「THEラーメン対談」も掲載。(アナタ・ドナタさん、Kさん、Sさん、情報ありがとうございます!)