この1年間で、藤子作品に関わった方々が何名も旅立たれました。
そのお一人お一人についてしっかり追悼したいところですが、精神的にも物理的にもその余裕がなく、また当ブログではあまり訃報に触れたくない(更新の頻度から言って訃報メインのブログになるのが怖くて)という意向もありまして、ブログで記事にすることはなかったとしても、私個人として胸のなかでお一人お一人を悼み、偲んでおります。
そういうわけなのですが、ここでお一人のみ触れさせていただきたいと思います。
4月24日、作曲家の菊池俊輔さんが逝去されました。私は28日に訃報を知り、寂しい気持ちにみまわれました。
「ドラえもん」や「仮面ライダー」など、数多くのテーマ曲を手がけた作曲家の菊池俊輔(きくち・しゅんすけ)さんが24日、誤嚥(ごえん)性肺炎で死去した。89歳だった。葬儀は近親者で営んだ。喪主は長男竜輔(りょうすけ)さん。
幼いころから、菊池さんの曲には(ある時期まではそれが菊池さんの曲だと知らないまま、意識しないまま)ほんとうにたくさん親しんできました。いつも身近にあって、楽しさやワクワクや感動を親切に耳もとへ届けてくれた気がします。
菊池さんの曲には、好きなものがいっぱいあります。
いっぱいありすぎて、劇伴のお仕事を除いた主題歌や挿入歌のみに絞ってもどの曲が好きか選ぶのがたいへんです。
そんななか、やはり『ドラえもん』や『忍者ハットリくん』をはじめとした藤子アニメの曲には格別の親しみと愛着を今も抱き続けています。私の思春期に潤いや憩いや活力を与えてくれた、ありがたい曲たちですから。
好きな曲を選ぶのがたいへん、と言いながら、それでも特に好きな曲をここにあげてみましょう。
「青い空はポケットさ」(『ドラえもん 』エンディングテーマ)
「まる顔のうた」(『ドラえもん 』エンディングテーマ)
「サンタクロースはどこのひと」(『ドラえもん 』エンディングテーマ)
「ぼくたち地球人」(『ドラえもん 』エンディングテーマ)
「ぽかぽかふわふわ」(『ドラえもん 』挿入歌)
「ポケットの中に」(『のび太の恐竜』主題歌)
「心をゆらして」(『のび太の宇宙開拓史』主題歌)
「だからみんなで」(『のび太の大魔境』主題歌)
「わたしが不思議」(『のび太と鉄人兵団』主題歌)
「忍者ハットリくん」(『忍者ハットリくん』オープニングテーマ)
「シシ丸のちくわのうた」(『忍者ハットリくん』後期エンディングテーマ)
「忍者体操一、ニン、三」(『忍者ハットリくん』挿入歌)
「ぼくはオバQノンキなオバケ」(『オバケのQ太郎』オープニングテーマ)
特に好きな曲のみに絞ったにもかかわらず、結局こんなにたくさんにあげることになってしまいました。ぜんぜん絞れていませんね。
そのうえ、まだあの曲もこの曲も入れたかった…との思いが強いのです。
藤子アニメ以外にも、私が未就学児から小学生のころ観ていたTVアニメや特撮番組の曲にもたいへんお世話になりました。
こころのふるさと、みたいな感覚です。
訃報を知った数日後、菊池俊輔さんの曲が収録されたシングルレコードを実家で少し探してみたら、(他にもまだ持ってるはずですが)これだけ見つかりました。
こられのアニメ作品が放送・公開されている当時にリアルタイムで買った、思い出のレコードたちです。
今は家にレコードプレイヤーがないので聴けませんが、こうしてジャケットを眺めることで菊池さんを偲びました。
(曲はCDで聴き返しています)
菊池さんは「ドラえもんのうた」の曲を作るさい「覚えやすいこと」「軽快であること」を意識したといいます。
そして、子どもたちが喜んで歌うのはもちろん、大人たちも小さいころの楽しかったことを思い出して心を躍らせる、そんな曲を作りたかったそうです。
できあがったこの曲の軽さと楽しさは、菊池さんご自身も大好きだとおっしゃっています。
藤子・F・不二雄先生もこの曲をすごく気に入って、映画ドラえもんの試写会で菊池さんに会ったとき「このテーマソングは傑作ですね〜」としみじみ誉めてくださったとか。菊池さんはそのことを忘れられなかったそうです。
『ドラえもんのうた』のレコードジャケットを開いたら出てくるのがこのイラスト。
ママのほうに向かって大量の海水が押し寄せてくるんじゃないかと心配になります(笑)
と、あるところで言ったら、以下のようにいろいろな知見をいただきました。ありがとうございます。
●「海底と野比家の二階では位置関係が違う=野比家の二階の方が標高が高い位置にあるため海底の水は流れ込んでこない。とSF作家・山本弘さんがおっしゃっていた」
●「気圧が違うとドアが開閉できないことがあるので、調整する機能があると思われる」
こうしてひみつ道具の機能について考察・想像するのも楽しい営為ですね。
菊池さんは、二人の藤子不二雄先生とプライベートな親交もお持ちでした。藤本先生、安孫子先生がそろってご夫婦で菊池さんのお宅に遊びにこられたことがあるそうです。
ドラハッパー会という集まりがあって、二人の藤子先生とゴルフをされたこともあるとか。
そして、菊池さんと藤子F先生にはこんなエピソードもあります。
菊池さんは子どものころお母さまから雑誌「少年倶楽部」のある号の古本を買ってもらって、何度も夢中で読み、思い出の本として大切にしまっておいたそうです。
ところが何年もたって久しぶりに読み返そうとしたら見つからず、行方不明になってしまいます。あきらめざるをえませんでした。
菊池さんは藤子F先生と会ったとき、たまたまそのことを話しました。すると後日、同じ雑誌が菊池さんの自宅に届いたのです。
「それほど思い出深い本でしたら、わたしより菊池先生が持っていらっしゃったほうがいいでしょう!」と藤子F先生が送ってくださったというのです。
藤子F先生は何冊か「少年倶楽部」をコレクションされていて、菊池さんが失くした号もお持ちだったわけです。
菊池さんにとってその「少年倶楽部」は、お母さまに買ってもらった思い出の本であるとともに、藤子F先生に譲ってもらった思い出の本にもなりました。
とてもとても心に沁みるエピソードですね。
菊池さんのご冥福をお祈りします。
すてきな楽しい曲をいっぱいありがとうございました!
※参考文献
・コロコロ文庫デラックスドラえもんテーマ別傑作選『ドラえもん[わくわく自然編]』(藤子・F・不二雄著、2000年、小学館発行)
・月刊ぽけっと別冊『菊池俊輔インタビュー』(菊池俊輔ホームページ・編、2002年、月刊ぽけっと編集部発行)
・菊池俊輔さんに関しては、こちらのホームページがとてもが充実しています。