劇場で『少年期』を聴いて感動

 私は、11月23日、28日、12月1日と計3回『のび太の宇宙小戦争』リバイバル上映を鑑賞しました。

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 1985年3月以来となる、久しぶりの劇場鑑賞でした。

 劇場のすぐれた音響で『少年期』を聴けて、3回とも感動を誘われました。

 

 私が、今回のリバイバル上映より前に「ああ僕はいつごろ大人になるんだろう♪」の歌声を聴いたのは、まだ少年ながら、しだいに大人の足音が聴こえかけていた16歳の春のことでした。この歌詞が切実な感覚として胸に沁みました。胸に刺さった、と言ってもよいでしょう。

 「ああ僕はいつごろ大人になるんだろう♪」は武田鉄矢さんが作って歌った言葉ですが、自分の心からわいてきた言葉であるかのような切実さにみまわれたのです。

 そうして今、すっかり大人としか言いようのない年齢になって久しぶりに劇場で『少年期』を聴いたら、今の私の胸にもしっかり沁みたのでした。あのころの切実な感覚はもうないのですが、『少年期』ってほんとうにいい曲だなあ!と心を動かされたのです。

 この歌は、大人になったらなったで、その年齢なりに感動させてくれる本質的な何かを歌っているのでしょう。年齢を超えて届く普遍性を備えているのでしょう。

 それとともに、私が大人になってこんなにも『少年期』に心を動かされるその根底には、少年のころこの曲を聴いて我が事のように心揺さぶられた体験が確実にありましょう。

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 映画本編で最初に『少年期』が聴こえてくるのは、のび太らが会議を招集するシーンです。歌詞のないインストBGMとして流れてきます。

 その会議の招集シーンから、ラジコン戦車初出動→しずかちゃん帰宅→しずかちゃん牛乳風呂の準備という連続した各シーンで『少年期』が立て続けに流れ、その各シーンごとに使っている楽器やアレンジが違っているのを劇場でクリアに体感できてグッときました。

 

 劇中で『少年期』が流れるシーンはいくつかありますが、その最高峰のシーンは、やはり地下アジトです。危機や緊迫や戦闘の連続のなか、つかの間の穏やかな時間、憩いのひととき……。その場所でじっくり歌われる『少年期』……。ぐっすり眠るロコロコ、疲れて眠るのび太……。ああ僕はどうして大人になるんだろう……。いつのまにやら、気づいてみたら、目頭が熱くなっていました。

 このシーンは、『少年期』のポテンシャルが最大級に発揮されるところです。

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 『少年期』が映画本編のなかでこんなにも目立った使われ方をしたのは、『少年期』が名曲であること、その名曲を武田鉄矢さんが歌ったことが大きな理由でしょう。

 『のび太の宇宙小戦争』より前の時点で、映画ドラえもん4作の主題歌を作詞してきた武田鉄矢さん。その武田さんがついに作詞だけでなく歌う!というのは、当時のトピックでした。

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・「コロコロコミック」1985年1月号より

 

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コロコロコミックデラックス13『映画アニメ ドラえもん・忍者ハットリくん+パーマン』(1985年4月16日発行)

 

 「武田さんの作る歌詞は、いつもドラえもんを本当によく知って作られているので大満足です。今度も期待しています」と藤子先生が武田さんの詞を称賛されています。

 藤本先生が武田さんの詞を非常に気に入っていて、武田さんにずっと映画ドラ主題歌の作詞を手掛けてもらいたがっていたと伝えられていますが、すでにこの時点で武田さんの詞への高評価を表明されているわけですね。

 

 当時、武田さんがドラえもんと無関係の番組(フジテレビ『夜のヒットスタジオDELUXE』)で『少年期』を歌ってくれたとき嬉しかったのを憶えています。『のび太の宇宙小戦争』の公開が始まって2か月ほど経ったころのこと(1985年5月22日)でした。番組内で『ドラえもん』への言及はたぶんなかったと思いますが、一般の歌番組で『少年期』を歌ってもらえたことに歓喜したのです。

 

 また、『のび太の宇宙小戦争』公開時に藤本先生が武田鉄矢さんのラジオ番組『夢工場 武田鉄矢商店』に出演したことも思い出します。当時は「二人で一人の藤子不二雄」時代で、藤子先生がメディアに出演するさいは、たいていお二人揃ってでした。安孫子先生だけが出演するパターンもありましたが、当時の私の感覚としては、藤本先生がお一人でしっかり出演していっぱいお話するというのは実に稀なことでした。

 

 このラジオ番組で武田さんが「今度のドラえもん(宇宙小戦争)の出来はいかがですか?」と質問すると、藤本先生は「周りの人の評判はいいようです。つまりね、しち難しい部分がまったくなくて、話がシンプルで、けっこう見せ場も盛り上がっているという」とお答えになりました。このご発言は、前作『のび太の魔界大冒険』がパラレルワールド、時間移動、序盤に張った伏線を終盤になって回収、フェイクエンディングなど、いろいろと凝ったことをしていてやや複雑性のある内容だったことを念頭に置いてなされたのかもしれません。

 

 続けて、藤本先生はこんなことを語られました。

 「少なくとも原作の漫画は試行錯誤でいきあたりばったりに描いてるんです。それからシナリオにして絵コンテを切っていく段階で演出家に僕が後でいろいろ気がついたことをダメを出していくんです。今度のは特に原作よりはずっと面白くなっています」

 ここで藤本先生は、大長編ドラえもん&映画ドラえもん独特の制作スタイルを少し明かされていますね。

 

 とまあ、そんなことを回想したくなるくらい、今回のリバイバル上映で『少年期』を劇場体験できたことに感銘を受けたのです。

 ありがとう、リバイバル上映!