「勉強べやの大なだれ」「化石大発見!」「宇宙ターザン」放送

 3月24日(金)放送の「わさドラ」は、「ドラえもん1時間 春の特大スペシャル!!」。本編3本に加え、映画『のび太の恐竜2006』こだわりの見どころ紹介があった。『のび太の恐竜2006』の映像から、記憶力クイズも出題された。



●「勉強べやの大なだれ」


【原作】

初出:「小学四年生」1972年1月号
単行本:「てんとう虫コミックス」2巻などに収録

 苦手なスキー(の訓練)をする羽目になったのび太が、「で、でも さいわい いや、あいにく雪がふらないとすべれない」「はじはかきたくないけど、いたいのはもっといやだ」「この雪つめたくない。気ぶんでないからやめる」「ぼくいっしょうけんめいころぶ……、いやすべるね」などと、スキーをめぐるマイナス思考発言を連発する。そんなセリフが、読む側からすればいちいち気が利いていて面白くて、のび太の言語センスをたっぷりと堪能できる。


 のび太にとって最も日常的な空間である勉強部屋で、スキー、雪崩、遭難という非日常的な事象が繰り広げられる。そのズレたシチュエーションも本作の面白さだ。停電でおざしきゲレンデが停止してもまだパニック状態ののび太と、ふとんの下敷きになったドラえもんに、ママが「なにやってんの、あんたたち」と冷静にツッコミを入れるオチはかなり笑える。



わさドラ】(のび太の部屋でスキー猛特訓! 勉強べやの大なだれ)
 天気予報が聞こえるタイミングがよかった。
 ドラえもんの説教に感動し「ぼく、一生懸命転ぶ! いや、滑るよ」と清々しく宣言するのび太の姿もいい。


わさドラ」では最後のシーンが、停電によってではなく、のび太の部屋にかけつけたママがドアを開けた拍子にコンセントからプラグが抜けて立体映画が消える、というふうに改変された。しかも、コンセントからの電源が必要なのはおざしきゲレンデ本体でなく、オプションサービスの立体映画のみだということが明確に描かれた。この改変によって、ママが部屋に来た時点でのび太がまだパニック状態にあることが自然になったし、電源の供給がなくなって停止したのは立体映画だけだということがはっきりした。実に適切な変更だったと思う。
 最後のママのツッコミは、アニメで観ても可笑しかった。



●「化石大発見!」
【原作】

初出:「小学六年生」1976年4月号
単行本:「てんとう虫コミックス」11巻などに収録

 エイプリルフールになると必ずといってよいほど騙されている感のあるのび太。本作ではスネ夫たちから偽の宝の地図を渡され、それを信じて大真面目に宝探しに勤しむのだった。そんなのび太のお人好しぶりがまず可笑しい。


 のび太ドラえもんは、昼食の残りであるアジの骨や貝殻をタイムふろしきで化石化し、化石堀りのおじさんを騙して無邪気に笑っていたが、インチキ化石を発見したおじさんの喜びようが尋常でなく、だんだんシャレにならない空気を感じとっていく。そんな2人の心理の変化が見事に活写されている。
 

 インチキ化石には、そんなジャンクなものまで化石にするか! という楽しさがある。化石堀りのおじさんが、壊れたコウモリ傘の化石を見て「こうもりそっくりだ!始祖鳥以前にこんなのがいたんだ!」と驚嘆し、缶ジュースの空缶を「オーム貝の一種」、ただのほうきを「巨大な海ユリ」と立て続けに誤認していくくだりは、とくに笑いのツボを刺激される。


 騙されたことを知ったおじさんの落胆が深い分、生きた新種の三葉虫の発見が感動的な出来事に感じられる。

 

わさドラ】(エイプリルフールだからって… 化石大発見!)
 アジの骨や貝殻の化石でおじさんを騙したのび太ドラえもん、原作では無邪気に笑うばかりだったが、アニメでは、ちょっと悪いことをしたかな、とこの段階で罪の意識を感じつつあった。その後、原作の2人は調子に乗ってさらにおもしろい化石を作るのだが、アニメでは罪の意識を感じた2人がおじさんに本当のことを打ち明けやすいようバレバレのインチキ化石を作る、というふうに、動機の面で変更が見られた。ここはやはり、原作の心理描写のほうに説得力がある。不必要な変更だったような気がする。


 おじさんと娘さんが抱き合って喜ぶ様子が、ちょっと大げさに演出され、コミカルな印象すら漂ったが、この部分はもう少し抑えた真剣みのある演出のほうがよかったかな、と思う。そのほうが、おじさんを騙したのび太ドラえもんの心苦しい立場がより際立って、本当のことを打ち明ける場面の重みが増したはずだ。アニメではこの場面があまり重くならないよう配慮したようだ。


 おじさんが新種の三葉虫を水槽に入れて飼育し、観察日記のようなものをつけている最後の追加シーンが好印象だった。三葉虫の発見によって、さらなる生き甲斐を見出したおじさんの姿が生き生きと感じられたのだ。

 おじさんを騙すのび太ドラえもんの心理の変更点などについては、下記のブログで具体的に言及されているのでご参照ください。
・TheSkyBeans「わさドラ 03.24 SPまとめ」
 http://gummiball.exblog.jp/3699938/
・commonplace days「わさドラ03/24『春の特大スペシャル!!』」
 http://commonplacedays.blog45.fc2.com/blog-entry-80.html

●「宇宙ターザン」
【原作】

初出:「小学五年生」1978年8月号
単行本:「てんとう虫コミックス」16巻などに収録

 読者がテレビ番組なり芸能人なりマンガ作品なり何らかの熱狂的なファンならば、作中ののび太の言動に強く共感したりちょっと考えさせられたりするところがあるかもしれない。とくに「ほんとのファンなら、落ち目の時にこそおうえんしなくちゃ」というセリフは胸に迫るし、記憶に残る。


「宇宙ターザン」への想いを熱く語るのび太と、しらけたふうに寝転がるドラえもんの姿が対照的だ。この2人の態度、個人的にはのび太のほうに共感する。


 F先生は「藤子・F・不二雄の恐竜ゼミナール」(小学館/1990年)で、

昔のテレビ番組で『怪獣王子』という作品がありました。ブロントサウルス、いまではアパトサウルスと名まえが統一された恐竜に乗った少年が悪人どもと戦うという物語でした。アパトサウルスは先のブラキオサウルスとくらべればやや小ぶりな恐竜ですが、それにしても大きいことは大きい。ヒーローになるには高所恐怖症を克服しなければならないわけで、なみの努力ではとうていヒーローにはなりえないのです。

 と述べている。ここに出てくる『怪獣王子』というテレビ番組が、恐竜の背にまたがって悪と戦う「宇宙ターザン」のモデルになったのではないか。余談だが、F先生の高所恐怖症ぶりは、『T・Pぼん』「チャク・モールのいけにえ」におけるF先生の分身的キャラクター・タラ子タラ夫氏の様子からもうかがえる。



わさドラ】(ア〜ア〜ア〜〜ッ! 宇宙ターザン)
 のび太の「宇宙ターザン」ファン魂が熱かった。ドラえもんに「宇宙ターザン」を酷評されて怒る、「宇宙ターザンごっこやる者この指とまれ」と言ってスネ夫らに馬鹿にされる、撮影スタジオで「宇宙ターザン」打ち切りを知らされショックを受ける、「宇宙ターザン」を続けさせるアイデアを夜遅くまで考え込む、そのアイデアを社長に向かって熱弁する、友達がみな宇宙ターザン役をやりたがる光景を見て喜ぶなど、のび太が「宇宙ターザン」をこよなく愛しているのだとひしひし伝わってくるシーンが豊富で感銘した。


 のび太が「宇宙ターザン」の撮影スタジオを見学するシーンが追加された。悪役怪人のマスクをとった顔や、恐竜の着ぐるみの中で演じる人、カメラ、録音、証明、大道具、小道具といったスタッフがいろいろ紹介されて、あたかも「宇宙ターザン」のメイキング映像のようだった。




 アニメ「ドラえもん」、次回は、3週休んで4月21日に放送される。次回からリニューアルドラは2年めに入る。