藤子・F・不二雄大全集『とびだせミクロ』1巻

 藤子・F・不二雄大全集『とびだせミクロ』1巻が、25日(月)に発売されました。
 
 昭和30年代、F先生が小学館学年誌に数々発表したヒーロー活劇モノの代表的な一作が、この『とびだせミクロ』です。第1巻には「幼稚園」「小学一年生」で発表された話が収録されています。
 幼年向けながら、SF的アイデアが豊かで、マシンやロボットのデザインが楽しく、冒険活劇要素と日常的要素のバランスが程よくて、読んでいて、心和やかになりながら同時にワクワクしてきます。
 やわらかいタッチで描かれていますが、冒険活劇としてのスケールやシリアス度が高く、巨大なロボットが街を破壊したり、爆弾によって5億人が死んでしまうかもしれない危機が訪れたりと、大規模な緊迫場面に遭遇することにもなります。


 F先生ののちのヒット作やファンの間で評価の高い作品で使われているアイデアの原型も見られて、Fマンガ史的にも興味を刺激されます。
 たとえば「ノア博士の野望」という話は、このサブタイトルからも推察できるとおり、ノアの箱舟のエピソードが元ネタになっています。F先生は、『ドラえもん』の「世界沈没」、大長編ドラえもんのび太と雲の王国』、『T・Pぼん』の「誰が箱舟を造ったか」、異色短編『箱舟はいっぱい』『マイシェルター』など、ノアの箱舟ネタをいくつも描いていますが、「ノア博士の野望」の場合、特に『モジャ公』の連載終盤エピソード「地球最後の日」の原型として注目に値します。


「人類ミクロ化計画」という話は、F先生がたびたび描いてきた人体縮小化や箱庭世界がモチーフになっています。この話は、のちのいろいろなF作品を彷彿とさせますが、私は大長編ドラえもんのび太の宇宙小戦争』の面白さに通ずるものを感じました。
パーマン』の“コピーロボット”や「動物解放区」を思い出させる話もあります。「動物解放区」を思い出させる話は「サーカス戦争」ですが、これなど「動物解放区」よりもボリュームがあって「上野人間園」などブラックユーモアも効いており、「動物解放区」に負けない充実度を感じます。


「どうぞうロボット」には、起き上がり人形ポロンちゃんが描かれたコマがあります。ポロンちゃんといえば、ドラえもんの体型のモデルになった玩具です。『とびだせミクロ』連載当時のF先生にはまだ娘さんがいらっしゃらず、ご自宅にポロンちゃんもなかったことと思いますし、この時点ではドラえもんというキャラクターは影も形もなかったわけです。のちに国民的キャラクターとなるドラえもんのモデルとなるポロンちゃんが、ちょこっと登場しているというそのことが、私の琴線に触れました。
 そのほか、浦島太郎やアラビアンナイトなどF作品における使用頻度が高く、F先生が愛情を注いでいたネタがいくつも詰まっていて、「オバQ」で大ブレイクする前夜のFワールドの豊かな仕上がりを目撃しているような気分になってきます。


 巻末には「あとがきにかえて」ということで、F先生の「SFギャグ路線ができた頃」という文章が収録されています。この文章の初出誌は、藤子不二雄公認ファンクラブ「ユートピア」が刊行した季刊「UTOPIA」6号(1981年)です。 
 
 私は、この季刊「UTOPIA」6号で『とびだせミクロ』という作品を初めて読みました。懐かしい思い出です。


 解説は、元「小学二年生」編集長の井川浩さん。昭和30年代の小学館VS講談社の“学年誌戦争”から話を始め、F先生はミスター学年誌と言うべき作家だったとの結論に至る、じつに読み応えのある解説でした。『ドラえもん』の女の子人気がふるわなかったため、井川さんがドラえもんのポケットから女の子の好きなものを出してくださいとお願いした、というエピソードが特に興味深いです。口紅、バッグ、鏡などをベースにしたひみつ道具が登場した背景に、そんなことがあったんだなあ。



●21日(木)のことですが、藤子・F・不二雄大全集第4期早期申込者特典「ポストカード5枚セット」が届きました!