漫画家サイン会で今年を振り返る

 今年は漫画家さんのサイン会に例年より多く足を運びました。私の住む愛知県や、東京へ行くよりは近い関西圏でのサイン会情報を得る機会が多かったからです。ただ、「直接的には藤子不二雄の話題ではない」との理由から、当ブログで触れなかったサイン会がいくつもあります。というか、当ブログでしっかりレポートしたのは以下のサイン会に限られるはずです。


●3月7日(金)
『PARマンの情熱的な日々 なんでもかんでも面白がろう編』刊行記念 藤子不二雄Aサイン会(三省堂書店神保町本店)
 http://d.hatena.ne.jp/koikesan/20140310


●6月21日(土)
『@ll 藤子不二雄A』刊行&手塚治虫文化賞特別賞受賞記念 藤子不二雄Aサイン会(八重洲ブックセンター
 http://d.hatena.ne.jp/koikesan/20140623


●4月19日(土)
佐々木マキ見本帖』展の講演「マキさんの絵本作りについて」のさい開催された佐々木マキサイン会(岐阜県多治見市「こども陶器博物館」)
 http://d.hatena.ne.jp/koikesan/20140421



 今日は、上記以外に今年私が参加した漫画家サイン会を簡単にレポートすることで、この1年を振り返ろうと思います。


●4月27日(日)
 ゼノンコミックス『のぼさんとカノジョ?』3巻発売記念 モリコロスサイン会(いまじん春日井南店)
 
 
 
 
 会場のいまじん春日井南店は、私の住む市内にあります。そんな近場で漫画家さんのサイン会があるなんて、それだけでも「参加しなきゃ!」という気持ちになります。“モリコロス”というペンネームは性別不詳でしたが、お会いしてみると、若くてかわいらしい女性でした♪ 『のぼさんとカノジョ?』は、のぼさんと呼ばれる青年が“カノジョ”と同棲生活を送るほんわかした作品ですが、その“カノジョ”というのが姿の見えない幽霊なのです。
 モリコロスさんが卒業した大学のすぐ隣の田んぼで、むかし私の家が稲作をしていたので、そのことをお話したりしました。サインを書いてもらったあと記念品として手ぬぐいを手渡されました♪



●5月25日(日)
 ゼノンコミックス『北斗の拳 イチゴ味』2巻発売記念 行徒妹サイン会(いまじん春日井南店)
 
 
 
 この日は春日井市長選挙でした。投票してからサイン会会場の「いまじん春日井南店」へ。前月に続き再びサイン会をやってくれました!マンガ関連のイベントというと東京や大阪まで遠征するのが当たり前、という感じなので、自分の住む市内でサイン会だなんてありがたい限りです。
北斗の拳 イチゴ味』の作画を担当する行徒妹さんのサイン会でしたが、妹だけでは心配ということで、お姉さんの行徒さんもいらっしゃり、お二人並んでサインを書いてくださいました。どんなお姿なのか知らなかったのですが、その場の皆が口をそろえて「美人姉妹」と評するほどお二人ともお綺麗でした。
北斗の拳 イチゴ味』で特に印象深かったシーンは?と訊かれ、サウザーが子どもにナイフで脚を刺されるネタが繰り返されるところです、ととっさに答えました。担当編集者の方や「コミックゼノン」編集長とお話しできたのも楽しかったです。



●6月29日(日)
「月刊IKKI」2014年御礼企画 今会えるIKKI編集長全国ツアー第2弾 中田春彌×江上英樹トーク&ライブドローイング&サイン会(トライデントデザイン専門学校C館)
 
 
 
Levius-レビウス-』の作者・中田春彌さんと、「月刊IKKI」編集長・江上英樹さんのイベントでした。会場は、名古屋駅近くのトライデントデザイン専門学校C館。またもや近場での漫画家イベントです♪
 中田さんが執筆する『レビウス』は、アメコミやBDを彷彿とさせる“横描き/左開き”のグローバルな作品。生身の人体と機械を融合させた格闘技「機関拳闘」の闘士レビウスを主人公としたSFマンガです。圧倒的な画力の高さ!
 江上さんは小学館の名物編集者として知られ、私の思い出深いところでは『コージ苑』『伝染るんです。』『サルでも描けるまんが教室』といった作品を担当されていました。
 そんなお二人のトーク、非常におもしろかったです。ガルニドの『ブラックサッド』を一冊まるごと模写した、子どものころは青山剛昌先生の『YAIBA』第24巻を模写した、といったお話を聞いて、中田さんの高い画力はこういうところからも培われたのだなと感じました。質問コーナーがあって私は月並みに「好きな漫画家さんは?」とうかがいました。松本大洋五十嵐大介オノ・ナツメといった先生方のお名前が出ました。
 サイン会では『レビウス』のコミックスにサインを書いてもらったうえ、前もって用意された直筆イラストカードもいただきました。中田さんのみのサイン会だったのですが、江上編集長にもサインを頼んでしまいました(笑) 江上編集長のサインは鉄道バージョンと音楽バージョンの2種類あるということだったので、私は音楽バージョンを選択。



●8月23日(土)
週刊少年マガジン」55周年・『聲の形』5巻発売記念 大今良時サイン会(星野書店近鉄パッセ店)
 
 
 
週刊少年マガジン」に連載中だった『聲の形』の作者・大今良時さんのサイン会です。これも会場は名古屋!
ヒロインが聾(ろう)者の少女とあって、サイン会のお客さんには手話でコミュニケーションをとる方も少なくなく、大今さんの隣に手話通訳の女性が座っていました。サインといっしょに描いてもらうキャラクターをこちらで指名できるということだったので、私はヒロインの西宮硝子ちゃんをリクエスト。
 大今良時というお名前だけ見ると男性のような印象ですが、じっさいは20代の女性。岐阜県のご出身ということで、『聲の形』では(地名は架空ですが)岐阜県を思わせる背景が描かれています。第5巻には養老天命反転地とおぼしき場所が出てくるのでそのことをお話したら、「そうなんですよ!」と編集の方が答えてくださいました。大今さんはサインとイラストを描くのに集中されていて(顔を本にずいぶん近づけて描かれていて)、お客さんとの会話は主に編集の方が担っていたのです。
聲の形』は、思春期の少年少女たちの繊細で過酷で複雑で楽しくもある人間関係が絶妙の距離感で描かれていて、読み応えがあります。12月に発売された「このマンガすごい!2015」では見事“オトコ編1位”に輝きました。私は5位に投票したのですが、そうやって私がタイトルをあげた作品が1位を獲るのは初めてだったので嬉しく思いました。

 

●9月28日(日)
 IKKI-FES FINALin大阪」直前イベントのサイン会(ジュンク堂大阪本店/ヴィレッジヴァンガード アメリカ村店)
小学館のガロ”との異名もとったマンガ雑誌「月刊IKKI」が、9月25日発売の11月号をもって最終号を迎えました。数多くのマンガ雑誌が刊行される現在にあって、個人的にIKKIの作品を好きになる比率が高かったように思います。そんなIKKIのファイナルイベントが、28日大阪で開催されました。今年オープンしたばかりのロフトプラスワン・ウエストでIKKIの漫画家さんや編集さんがトークを繰り広げるのです。トークばかりじゃなく、三代目魚武濱田成夫さんのポエトリーリーディングや、西島大介さんのソロ演奏、ストラト☆ダンサーズ特別ユニットライブなど盛りだくさんのイベントでした。出演した漫画家さんの言葉のはしばしから、IKKIで描けたことを誇りに思う気持ちが伝わってきました。IKKIはこれで休刊ですが、その精神を受け継ぐ媒体が登場するかも…と期待を抱ける瞬間もありました。
 そんなトークショーの直前イベントとして、同日の昼間にIKKIゆかりの漫画家さんのサイン会が以下のスケジュールで開催されたのです。私は2つの会場をハシゴして全員からサインをいただきました。


 ・12:30〜 ジュンク堂大阪本店
  中川いさみ
  西島大介
  ムライ 


 ・14:00〜 ヴィレッジヴァンガード アメリカ村
  白井弓子
  三浦靖冬  


 
 
 
 
 ジュンク堂のサイン会は、3名の漫画家さんに同時にサインを描いてもらうかたちで、どの先生と話をしてよいかまごついてしまって結局ムライさんに「空から落ちてきた鳥が空の一部だった」というシーンがとても印象に残っています」と伝えるのがやっとでした(笑)


 
 
 
 
 ヴィレッジヴァンガードのサイン会は、お二人の漫画家さんと確実に話ができるようセッティングされていました。白井弓子さんは『WOMBS』の作者。この作品は「妊婦が戦闘員になる」という独創的なアイデアが光っています。その唯一無二性について白井さんに語っていたら、江上編集長も「ほんとうにすごい」と話に加わってくださいました。三浦靖冬さんはIKKIで『薄花少女』を連載。この作品にちらりと忍者ハットリくんドラえもんネタが出てくるので、そのことを話題にしたら「藤子作品で育ちましたから」と応えてくださいました。楳図先生もお好きだそうで、「サバラ」をちょこっと描いてくださったりも。少女がグワシのつもりでサバラをやってしまうという天然ボケになっています(笑)IKKI編集長の江上英樹さんからも直筆メッセージをいただきました♪
 IKKIの皆様、お疲れ様でした&ありがとうございました!



●10月19日(日)
 高野文子先生のトーク&サイン会『「ともきんす」ができるまで』(恵文社一乗寺店
 事前に参加希望者を募集しており、50名が抽選で選ばれることになっていました。
 発表の日。当選メールが届きました!
「天才」という称号を誰かにおいそれと贈ることには慎重でありたいのですが、高野文子先生であれば「天才」と抵抗なく言ってしまえます。そんな高野先生のお姿を生で拝見できる! しかも高野先生のお話を目の前で聴ける!! 私はメディアなどで高野先生が動いているところ・しゃべっているところを見たことがありませんでしたし(写真や活字ならありましたが)、トークショーをされるような印象を持っていなかったので、なんとぜいたくでミラクルな機会だろうと感動しました。今年もいくつかの抽選で何かが当たりましたが、これが圧倒的に最高の当選です。(どこかにいらっしゃるなら)神様ありがとうございます、と叫びたいです。
 というわけで、会場の恵文社一乗寺店のある京都まで行ってきました。
 
 
 恵文社一乗寺店の噂はかねがね聞いていましたが、行ってみると噂どおりとても魅力的な本のセレクトショップでした。非常に雰囲気がよくて、本のセレクトが絶妙だし陳列の仕方も気がきいていて、ずっとここで本を眺めていたいという思いにかられるほどでした。
 高野先生のイベントは、高野先生12年ぶりのマンガ単行本『ドミトリーともきんす』(中央公論新社)出版記念として開かれたものです。開場時間の18時半になってイベントスペースに入ると、なんと受付のところに高野先生が立っておられ、参加特典の特製ポストカード&三角サイコロをじかに手渡してくださったのです! 
 
 不意打ちのように高野先生が目の前にいて驚きました。受付でサプライズだなんて、うれしすぎます♪
 
 トークの進行役は、『ドミトリーともきんす』連載時の担当編集者だった田中祥子さん(イースト・プレス)。この作品ができるまでの経緯を2010年から時系列順にたどりながら、高野先生がそのときのことを振り返ったり解説を加えたりしていく、という内容でした。田中さんが、高野先生に自然科学をテーマにしたマンガを提案したのだそうです。
 いやぁ〜、高野先生がお話になっているところを初めて拝見したわけですが、思っていた以上に明るく愛嬌のある方で(もっとか細い声でクールにしゃべる方だと勝手に思っていました)、私よりひとまわりほど年上の先生に失礼かもしれませんが、じつにかわいらしい印象でした。お客さんの前に立った瞬間、照れたように肩をすぼませるしぐさなんてかわいすぎる! そんな高野先生の姿を目の前で目撃できているなんて、これは現実かしら、と頬をつねりたくなりました。
 トークが始まってからも、高野先生のチャーミングさ全開で、会場は何度もほほえましい笑いに包まれました。高野先生が編集者に送ったメールや、FAXしたアイデアスケッチ、ネームなどが映し出され、それを見た高野先生が「へぇー!ふぅーん」「これ私が書いたの?」と初めて目にしたかのように反応しておられたところなど、とくに噴き出さずにはいられませんでした。
 もちろんあの高野先生ですから、お話の内容はマンガ表現へのこだわりや鋭い感性から抽出された言葉がいっぱいで、とても聴き応えがありシビれました。
『ドミトリーともきんす』は、日本の偉大な科学者(朝永振一郎牧野富太郎中谷宇吉郎湯川秀樹)が書いた随筆・日記を紹介する読書ガイドマンガです。そこに登場する科学者のキャラデザイン(とくに牧野富太郎)は、昔の手塚マンガをモデルにしたとか。しかし湯川秀樹だけは手塚キャラのように動かすことはできなかったそうです。
“ドミトリーともきんす”とは、2階に科学を勉強する学生を住まわせている下宿屋のこと。寮母が“とも子”で、その幼い娘が“きん子”。とも子ときん子で“ともきんす”です。
 今回は自分の気持ちをなるべく込めず描きたくて、母娘の絵は製図ペンで引いたそうです。そして、科学者は手塚タッチにするためスクールペンを使用。科学者の姿を手塚タッチにしたのは、本作に登場する科学者たちは『鉄腕アトム』と同じ時代に日本の人の頭の中にいたから…。自分らの世代までは手塚マンガの絵をそらで描ける…。といった理由からなのだとか。
 こうしたお話を聞いたうえで『ドミトリーとみきんす』を読み返すと、ますます味わい深い読書ができそうです。


 高野文子先生は会場にご自分の生原稿や生キャラクタースケッチを持ってこられていました。それらの生原画は壁に飾ってあったわけじゃなく、クリアケースに入れた状態で自由にさわれるようになっていました。大サービスすぎて手が震えます…。原稿を透かしたり裏側を見たりと、ほんとうに貴重な体験ができました。
 高野文子先生のトークが終わると、希望者へのサイン会です。希望者のみにサイン…といったって、ここに来てる人は皆希望するでしょう(笑)
 
 イラストは参加者全員に梨を描かれました。私は梨が大好きなので、高野先生に梨を描いていただけるなんて本望です。


 
 サインをいただいたあと、イベント限定の「ドミトリーともきんす手ぬぐい」を購入しました。登場人物のきん子が永遠に連続する幾何学模様になっています。作中に出てくるシーンを手ぬぐい化したものです。


 
 高野文子先生のトークイベントに参加した興奮におされて、高野作品を読み返そうと単行本を引っぱり出してきました。『るきさん』の大判コミックスなどもあったはずだけど、すぐには見つからず…。
 非常に寡作の高野先生ですが、そのぶん一作一作のクオリティ、センス、凄みは卓越的、というか超越的ですらあると感じます。



 サイン会レポートは以上です。
 首都圏に住んでいればもっともっと漫画家さんのサイン会に参加できるのでしょうけれど(漫画家さんのサイン会の大半は東京で開催されるので)、藤子不二雄A先生以外のサイン会のためにはなかなか上京できない私にとって、サイン会大豊作の年でした。来年もこうしたチャンスがあればいいのですが、果たしてどうなるでしょうか。