2016年をイベント・展覧会で回想する【1月〜6月】

 2016年ももうすぐ終わりです。1年が過ぎるのが年々早く感じられて、藤子・F・不二雄先生の短編『光陰』で描かれた現象を無性に信じたくなるこのごろです(^^)
 今年私が参加したマンガ・アニメ関連のイベントや展覧会、一緒に写真を撮っていただいた人物などで一年を振り返ってみようと思います。当ブログですでにレポートした出来事については原則としてここでは取り上げませんから、藤子関連ではない出来事が中心になります。(藤子関連の出来事はすでに当ブログでレポートしている場合が多いので)
 今日はまず、1月から6月までを回想します。


■1月14日
 名古屋で「まぐまvol.20 手塚治虫と戦後70年」の打ち上げを兼ねた新年会を開きました。「まぐま」主宰の小山昌宏さんが、今年度で愛知淑徳大学の教職を退任して九州の大学へ移られる、ということで、そのお別れ会でもありました。
 愛知淑徳大学の教授で『トイレット博士』『ロボッ太くん』など数々の傑作ギャグマンガを生み出したレジェンド漫画家とりいかずよし先生や、来年度?から同大学で教鞭をとられる漫画家の卯崎ひとみさん(『平安ちょこっと恋絵巻』『江戸恋ファーストラブ!』など)が出席され、漫画、映画、昭和芸能史などの話で盛り上がりました。
 
 ・カンパーイ!



 ・とりいかずよし先生、卯崎ひとみさんと


 卯崎さんはBLマンガも描かれており、BL好きの参加者が他にもいらっしゃったので、BLが放つ熱気みたいなものを目の前で存分に浴びた気がします。終電の時間が来るまでのおよそ5時間、ディープな話が途絶えませんでした。


■2月21日
 とりいかずよし先生のトークライブが東京でおこなわれました。題して、「フォーエバーメタクソ団!【トイレット博士とりいかずよし スペシャトークライブ」です。
 
 ・会場は、高円寺パンティッド。司会はIKKANさんでした。私は今年初めて愛知県から出ました(^^)


 とりい先生のエピソードや創作秘話を中心に、漫画、映画、芸能など昭和の文化史をたどるような、濃いお話が展開されました。およそ3時間半にわたるトークでしたが、そのなかにたいへんな情報量が濃縮されていました。
 とりい先生は、さすが天下のギャグ漫画家!と思わせるユーモアで何度も会場を笑いに包んでおいででした。私も声を出して笑いました。 内容もボリュームも雰囲気もすばらしいトークイベント。膨大な情報量と痛快な笑いの同居した、ぜいたくな時間でした。
 イベント中にとりい先生が「カンパイ!」の代わりに「マタンキ!」と音頭を取られたときは、今まさにとりい先生のイベントに参加してるんだ!と臨場感をおぼえ、気分が高揚しました。とりい先生は会場を見わたして「隠れキリシタンの集会みたいだな(笑)」とおっしゃいました。
 質問コーナーでお客さんから「とくに影響を受けた漫画家は?」との質問が。先生は「武内つなよし、三町半左」と答えられました。「三町半左」は寡聞にして存じ上げませんでした。
 トークの締めで、とりい先生が私の名前を出してくださって光栄でした♪


 『トイレット博士』に“スナミ先生”というキャラクターが登場します。そのモデルとなったのは、『トイレット博士』の担当編集者だった故・角南攻氏です。その奥様である光恵さんもゲスト出演されました。
 
 ・イベント後の打ち上げで乾杯〜!


 
 ・打ち上げのなかで、とりい先生から光恵夫人にその場で書かれた色紙が贈られ、夫人が涙ぐまれる一場面がありました。素敵なシーンにたちあえて心があたたまりました。



■2月27日
 漫画空間名古屋本店で「ゲゲゲのアシスタント 土屋慎吾先生トークイベント」が開催されました。土屋先生は、昭和43年から45年にかけて水木しげる先生のアシスタントをつとめられ、少年誌でプロ漫画家デビュー、その後“エロ劇画の帝王”として君臨した奇才です。現在は愛知県の犬山市に在住されています。

 
 ・入場時に、土屋先生直筆の参加カードをもらえました!


 
 ・トークは、お客さんの質問に答えていくかたちで進行。水木しげる先生の創作秘話やお人柄、水木プロ時代のエピソードを中心に、なかなか危ういお話などもあって、土屋節が炸裂(^^) 包み隠さないところが土屋先生の持ち味です。水木しげる先生の情け深いご性格を大国主命オオクニヌシノミコト)に喩えられていたのがとても印象的でした。
 土屋先生が手伝った水木作品のうち、土屋先生が最も感服したもののひとつが『平和』という一コママンガだそうです。コマのなかに地球が大きく描かれていて、その地球の上に大陸があって、大陸の上をおびただしい数のお墓が埋め尽くしている…。そして、その地球の下に「平和」と一言だけ記されている…。つまり、人類が全員お墓に入るまで地球に平和は来ない、ということです。土屋先生は「水木先生らしいニヒリズムが感じられてすごいと思った」と当時の感想を語られました。
 
 ・土屋先生の作品や直筆原画をいろいろと見せてくださいました。


■4月22日
 名古屋の東別院で催された「宗祖親鸞聖人 750回御遠忌法要」へ足を運びました。
 
 
 『SLAM DUNK』『バガボンド』『リアル』などの井上雄彦先生が描かれた屏風『親鸞』の展示が目当てでした。迫真の筆致で描かれた親鸞聖人と民衆たち。その一人一人の表情に見入りました。
 同じスペースで小林憲明氏の「ダキシメルオモイ」展も開かれており、麻布に描かれた数々の親子の姿が並んでいました。主に福島で生活する親子が抱き合う姿を描いて、家族の“オモイ”を伝えるプロジェクトだそうです。
 境内の別の建物でやっていた「親鸞聖人と尾張門徒」なる展覧会も観覧。親鸞聖人や浄土真宗に関する美術品・資料の展示でした。


■4月23日
 手塚治虫先生のご長女・手塚るみ子さんを囲んで飲み会を開きました♪ 出張で名古屋に宿泊するので一緒に食事しましょう!とるみ子さんからお誘いを受け、昨年るみ子さんと明治村ツアーをしたメンバーに声をかけて飲み会を開いたのです。
 
 
 ・カンパイ〜!


 
 ・手塚先生関連の話題を中心に、なんだかんだととても盛り上がりました。私は幹事役だったので少々プレッシャーもありましたが、会が始まってみればひたすら楽しい時間でした。


 
 ・るみ子さんが飲み会参加者のために手塚缶バッジをいろいろと持ってきてくださいました。このなかから好きなものを各人1個ずつもらいまして、私は会津のオリジナルバッジをいただきました。


 
 ・今年4月から会津若松〜新宿間を手塚治虫キャラクターラッピングバスが運行開始しています。4月1日初日に乗車したお客さんに「初日乗車特典記念品」として渡されたのが、この缶バッジです。いいものをいただきました。


 
 ・飲み会の手配をしたお礼にと、るみ子さんから「ノワ・ドゥ・ブール」の焼き菓子をいただきました。
 

 高須クリニックの高須力弥さんもこの飲み会に参加してくださいました。 高須クリニックといえば、この飲み会の何日か前、力弥さんのお父様である克弥院長が自腹でヘリコプターを飛ばして熊本地震の被災地に支援物資を送るプロジェクトを実行されました。そのお金の使い方、迅速な行動力に感心したので、息子さんである力弥さんにその思いを伝えられてよかったです。


■5月21日
 愛知県美術館で「黄金伝説」を観てから、松坂屋美術館へ移動し、「わたしのマーガレット展」を観覧しました。「マーガレット」「別冊マーガレット」50年の歴史に名を刻んだ代表的な作品原画が、スポーツ、怪奇、ギャグ、恋愛、学園といった項目別に数多く展示されていました。70作家・400点に迫る数です。
 
 ・華麗で可憐で繊細な少女マンガの生原画を目いっぱい堪能。とくに多くの枚数が展示されていたのが、紡木たく先生と池田理代子先生でした。紡木たく先生の原画を観て、そのコマの配置や余白や描線からにじむ詩情に打たれました。カラー原画のみずみずしい色彩にもうっとりです。

 
 
 
 ・『ベルサイユのばら』のオスカル&アンドレの等身大立像や、「マーガレット」の表紙がずらりと並んだパネルが撮影スポットでした♪ 


 
 ・図録は、展覧会で観た原画をあらためて総覧できるうえ、わたなべまさこ先生、水野英子先生をはじめ、7名の漫画家さんのインタビューが読めるのがいいです。


■5月30日
 明治大学米沢嘉博記念図書館で開催された「マンガと戦争展 6つの視点と3人の原画から」(2月11日〜6月5日)に足を運びました。原画の展示は第4期になっていて、西島大介先生の『ディエンビエンフー』が展示されていました。
 
 
 企画展のタイトル内に「6つの視点」という語があります。それは「戦中派の声」「特攻」「原爆」「満州」「沖縄」「マンガの役割」の6つのことです。この展覧会へ行く少し前にオバマ大統領の広島訪問があったばかりなので、「原爆」のコーナーがとくに気になりました。
 マンガ作品が日本の被爆地を舞台する場合、広島を舞台にすることが多く、この展示コーナーで紹介された4作品のうち3作品が広島を描いたものでした。4作品中唯一、長崎の被爆事情を描いているのが、西岡由香『夏の残像 ナガサキの八月九日』です。私はこの作品を知らなかったので、その存在を知ることができただけでも収穫でした。
 私の住む愛知県春日井市は、終戦の前日に空襲にあいました。そのとき投下された爆弾は、長崎に落とされた原爆と同型・同重量のものでした。「模擬原爆」と呼ばれる爆弾で、長崎の原爆と瓜ふたつに造られながら、中身がプルトニウムではなく爆薬だったのです。そんなこともあって、被爆地としての長崎に思いを巡らせました。
 戦争マンガの役割をその目的に応じて二通りの軸で分類しているところも興味を引かれました。一つの軸は「情報を正確に伝えることが目的か/作者のメッセージを伝えることが目的か」というもの。もう一つの軸が「娯楽を目的としているか/教育を目指しているか」というものです。そういう見方を提示してもらえて参考になりました。

 
 ・西島大介先生の直筆サインです。この展覧会でいただいたものではありませんが、西島大介先生と初めてお会いしたときの思い出の品ということで、ここでアップしてみました(笑)
 2014年9月28日、ロフトプラスワン・ウエストで「IKKI-FES FINALin大阪」というトークイベントが夕方から行われました。その直前イベントとして、同日の昼間にIKKIゆかりの漫画家さんによるサイン会が2ヵ所で開かれました。12:30からジュンク堂大阪本店で行われたサイン会に参加された3名の漫画家さんのひとりが西島先生だったのです。西島先生は「IKKI-FES FINALin大阪」本番にも出演されました。


■5月30日
 荻窪駅の近くにあるイナズマカフェで食事をしました。
 
 この店の壁には、数多くの漫画家さんによる直筆イラストが描かれていて、ほんとうにすごいことになっています。
 
 
 
 
 ・1階も2階もこんな感じで壁にたくさんのイラストが描かれています。ほかにもまだまだいっぱい描かれているのですが、とても全貌を紹介しきれません(笑) 他のお客さんがいらっしゃって、カメラを向けられない壁もありましたし。
 どちらを見ても直筆のマンガキャラクターが大勢いて、マンガ好きにはまさに絶景です。



■6月12日(日)
 愛知県犬山市のキワマリ荘で土屋慎吾先生のライブペイントがありました。
 
 
 ・土屋先生は下絵から時間をかけて念入りに描かれ、ライブペイントとは思えぬクオリティでモンスターに襲われる美女の絵ができあがっていきました。 いや、イベント終了時刻になっても土屋先生の納得のゆくかたちで絵が完成せず、本当の完成は翌日以降へ持ち越しとなったのでした(^^)
 ライブペイントだったにもかかわらず、半分くらいは“土屋先生とおしゃべりする会”の様相だったのも面白かったです♪ 水木しげる先生のアシスタント時代のお話から、危険なかおりのする話まで、バラエティに富んだおしゃべりで盛り上がりました。
 
 ・土屋慎吾先生の新作『誰も書けなかった龍馬、半平太』を購入し、その場でサインを入れていただきました。妖艶な花魁を描いてもらえて感激です!


■6月13日
 映画『マンガをはみだした男 赤塚不二夫』を名古屋シネマテークで鑑賞しました。
 
 
 赤塚不二夫先生の生い立ちやさまざまな体験、出来事を描いたアニメーションパートと、赤塚先生ゆかりの42名のインタビューパートを中心に、赤塚先生の肉声・写真・映像などを織り交ぜて構成した、独特のドキュメンタリー映画でした。(出演者のなかに、藤子・F・不二雄先生、藤子不二雄Ⓐ先生のお名前もあります!)


 満州大和郡山、新潟ですごした幼少年期…。上京し、おとなしい美青年時代を経て大ブレイク。『おそ松くん』『もーれつア太郎』『天才バカボン』『レッツラゴン』とギャグマンガの世界を切り拓き、更新し、進化させ、やがてアバンギャルドとかシュールと言われる次元へ到達。芸能人・文化人との交友がさかんになり、ご自身もテレビや舞台に出て、身をもってギャグを体現するように。やがて、アルコール依存症で幻覚にみまわれたりもしますが、それでもマンガ執筆への意欲は失わなかった…。そんな赤塚先生の生涯が、96分の映画に濃縮されていました。
 それは、赤塚不二夫の評伝のようでもあり、赤塚作品論のようでもあって、その意味でも見ごたえを感じたのですが、『マンガをはみだした男』というタイトルのとおり、しだいにマンガの枠組みや業界からはみ出していった赤塚先生の内面に肉薄する切り口も見て取れ、たびたび心を動かされました。


 マンガからはみ出していった赤塚先生は、その破天荒な言動で人々を笑わせ、驚かせ、呆れさせました。しかし本当の赤塚先生は、シャイで、引っ込み思案で、無茶なことをする自分を冷めた目で見るもうひとりの自分がいるようなタイプだった…とインタビューに登場した人たちが語っています。バカをまじめにやった…、アルコール中毒が引き起こす幻覚にすらまじめに応答していた…といいます。そんなところもひっくるめて赤塚先生のさまざまな言動を「笑う」ことができれば、人に笑ってもらいたいと願い続けた赤塚先生の思いにまっすぐ応えられたのかもしれませんが、私はこの映画のところどころで不覚にも目頭が熱くなってしまいました。
 破天荒な言動を見せていた赤塚先生は、本当はシャイだった…。ならば、赤塚先生は破天荒な自分(=虚像)とシャイで繊細な自分(=実像)の間で引き裂かれていたのでしょうか。自己矛盾を引き起こしていたのでしょうか。そういう側面もあったのかもしれません。しかし赤塚先生ご自身が『赤い空とカラス』という文章で「いまの世のもろもろのことが、実であって虚、虚のように見えて実。固定したものはなく、すべてが動いているのではないか」とおっしゃっているように、赤塚先生の破天荒さと繊細さの両極は、どちらが実か虚かと境界線を引けるものではなく、まさに“虚でもあり実でもあり、固定されておらず、常に動いている”状態だったのではないか、と私は思ったりします。赤塚不二夫は右も左もないし、上も下もない、とこの映画のインタビューで語った人物がいた、と記憶しています。虚実も、左右も、上下も縦横無尽に往来し、どちらでもあって、どちらでもない。そんな赤塚不二夫像が私の心のうちに浮かび上がってきました。
 いま『赤い空とカラス』という文章の一節を引用しましたが、この映画のなかでは、赤い空とカラスの光景がアニメーションで映し出されました。赤く染まった空を埋め尽くさんばかりに黒いカラスの大群が飛んでいます。それは赤塚先生が満州で目撃した原風景であり、大人になってからもふと思い浮かべたり時々夢に見たりした光景です。その光景に合わせ、赤塚りえ子さんの朗読が流れました。赤い空とカラスの光景が、私の脳裏に鮮烈なイメージで刻まれました。


 この映画で最も場内が笑いに包まれたのは、赤塚先生の愛猫・菊千代が赤塚先生に飛びかかった場面でしょうか。その直後の「未完の対局」などもウケました。蜜柑で対局してるんですもの(笑)
 アニメーションパートは、短いセンテンスで語られるナレーションが心地よかったです。『レッツラゴン』のキャラクターがいっぱい登場してくれたのも嬉しかった! ゴン、ベラマッチャとともに、ゲンちゃんが活躍する場面が何度もあってウキウキしました。画面がゲンちゃんだらけ!という瞬間にも遭遇。
 田村セツコさんの「赤塚先生はゲルニカを見て、ピカソはマンガじゃないか!と言った」、祖父江慎さんの「赤塚先生は、笑わせたいのではなく、笑ってもらいたいんだ」という言葉も印象に残りました。

 
 ・ポスターを購入しました!
 
 
 ・かわいらしいサイズのパンフレット♪


 私はそんなに劇場で映画を観るほうではありませんが、そんななか今年劇場で観た映画はよいものが多かった気がします。『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』はもちろんのこと、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』『オデッセイ』『帰ってきたヒトラー』『シン・ゴジラ』『君の名は。』『この世界の片隅に』が気に入りました。

 
 (次回に続きます)