てんとう虫コミックス『パーマン』新装版完結!

 11月28日(月)、てんとう虫コミックスパーマン』新装版の最終巻(7巻)が発売されました。
 
 


 7巻の中に「キテレツ大百科かわら版」が折り込まれています。来月から『キテレツ大百科』の新装版が発売されるのです♪
 http://www.shogakukan.co.jp/pr/tencomi/kiteretsu/
 
 
 


 『キテレツ大百科』に続き、来年2月からは『エスパー魔美』の新装版も刊行開始です。
 http://www.shogakukan.co.jp/pr/tencomi/mami/



 『パーマン』7巻は完結巻ですから、やはり最終エピソードの「バード星への道」が収録されているのがまずは大きな要点でしょう。パーマンのなかで4番目に優秀な1号がバード星の留学生に選ばれたその理由が、『パーマン』という作品を支える主題的な精神です。
 なぜ1号が選ばれたのか。
 バードマンは「みんなのなかでいちばん頭が悪くて弱虫でなまけ者だからさ」と答えます。
 え?どういうこと!?となりますね。
 弱虫が正義のために必死で勇気を奮い起こして戦うことがどれほど大変か。本当は怠け者の1号が無い知恵をしぼって精一杯活躍したことが立派なのだ、というのです。
 1号からしたらあまりうれしくない理由でしょうが、まわりは納得します。私も、言われてみれば納得です。感動もおぼえました。
 7巻には、次のような、藤子・F・不二雄先生の“作者のことば”が載っています。

「スーパーマン」を日常に持ち込んだらどうなるんだろうと考えたのが「パーマン」なんです。ですが完全無欠のヒーローだと、僕らの絵じゃ無理があるもんですからね(笑)、ちょっと“スー”だけ取ってみたんですよ」(「ファインビデオ」1990年9月号)

 『パーマン』はスーパーヒーローの日常化を試みた作品です。少し欠けたところのあるズッコケヒーローとして設定されたのがパーマンです。平凡でちょっと欠けたところのある人物がヒーローになってがんばる話です。そんな作品ですから、なかでも最も平凡で欠けたところのあるみつ夫くんが、最も優れたパーマンとして選ばれるのは、逆説的に見えながらも順当な結果だと思うのです。


 7巻の冒頭に収録された「全悪連盟歌」は、全悪連の連盟歌が某大学の校歌の盗作であるところに、ドロボーたちの集まりである全悪連の面目躍如たるものがあります(笑)マッドサイエンティスト・魔土災炎の発明品が相変わらずの活躍ぶり?なのもいいですね。発明品のネーミングでは「パーコロリン」が好です(笑)


パーマン』新シリーズの大きな魅力である、星野スミレをめぐる話にもクライマックス感が漂います。「パー子のすきな人」は、星野スミレが、好きな相手に事実上の告白をするようなお話です。その好きな相手とはもちろんみつ夫ですが、みつ夫はそれが自分だとは気づきません。でも読者には伝わります。星野スミレがみつ夫のことを好きだということが、星野スミレの告白的な言葉によって示される話として、私には印象に刻まれています。
 それより先に発表された『ドラえもん』の「影とりプロジェクター」「めだちライトで人気者」と重ね合わせると、ますます感慨深くなります。
 「小学六年生」1980年1月号で発表された「影とりプロジェクター」に、大人の女優になった星野スミレが登場し、話のラストでドラえもんのび太だけに秘密を話してくれます。それは「遠い遠い国にいる好きな人」の話でした。「でもそれをここで書くわけにはいきません。ごめんね」と、星野スミレの秘密は読者には明らかにされませんでした。
 しかし、1960年代に連載された旧『パーマン』を愛読した人なら、「影とりプロジェクター」の星野スミレは『パーマン』に登場していた小学生アイドル・星野スミレが成長して大人になった人物であることに気づき、大人の星野スミレが話した「遠い遠い国にいる好きな人」とは、「スーパー星への道」でスーパー星へ留学したパーマン1号(須羽みつ夫)のことだろう、と確信に近いかたちで推測して、胸をときめかせることになるでしょう。
 そして、「小学六年生」1980年4月号で「めだちライトで人気者」が発表されます。人気(ひとけ)のない浜辺で星野スミレとのび太が言葉を交わします。そのとき星野スミレはペンダントを砂浜に落とします。そのペンダントには男の子の顔写真がはめ込んでありました。のび太がペンダントを拾ってあげると「ありがとう。あたしのいちばんだいじな物なの」と星野スミレはお礼を言います。のび太が不躾に「その子スミレさんの子?」と尋ねると、星野スミレは「ばかね。古いお友だちよ。いまは遠い世界へいってるけど。でも……、いつかきっと帰ってくるわ」と答えるのです。
 「影とりプロジェクター」で星野スミレが「遠い遠い国にいる好きな人」と言いながら読者に対してはそれが誰か伏せられていた人物の顔が、「めだちライトで人気者」で明らかになるわけです。
 その顔はもちろん、みつ夫です。小学生時代のみつ夫の写真を星野スミレは大事に大事にペンダントに入れて持ち歩いていたのです。「遠い遠い国にいる好きな人」ってやっぱりみつ夫だったんだ!と確信に近い推測が事実の確定に変わります。みつ夫の顔が見えた瞬間の感動は大きかった!
 「パー子のすきな人」は『パーマン』新シリーズの一編であり、「小学四年生」1985年7月号で発表されています。「影とりプロジェクター」「めだちライトで人気者」より5年以上あとに発表されたわけです。そこで小学生時代の星野スミレが、好きな人がいることをテレビカメラの前で打ち明けます。その相手がみつ夫だと言ってはいませんが、読者にはわかります。
 星野スミレが仕草や態度ではなく言葉によって好きな人がいることを打ち明けるエピソードの系譜として、私のなかでは「影とりプロジェクター」「めだちライトで人気者」と、この「パー子のすきな人」が重なり合うのです。

 ※旧『パーマン』「スーパー星への道」(「週刊少年サンデー」1967年44号)
 ※『ドラえもん』「影とりプロジェクター」(「小学六年生」1980年1月号)
 ※『ドラえもん』「めだちライトで人気者(「小学六年生」1980年4月号)
 ※新『パーマン』「パー子のすきな人」(「小学四年生」1985年7月号)
                         

 (旧『パーマン』「帰ってきたパーマン」(「週刊少年サンデー」1968年正月臨時増刊号)で、パーマン1号がスーパー星から一時的に地球へ帰ってきます。地球での滞在わずか2時間でまたスーパー星へ戻り、その後長い留学が続いた模様です)


「見た!パー子の正体」は、もしパーマン仲間にパー子の正体を明かしたらどうなるか…というシミュレーション的状況を描いています。その意味では「パーマンが悪者になった!!」は、もしパーマンが悪者になったら…を描いた話といえそうです。