絶滅動物と藤子F作品

 8月3日(土)の話です。藤子仲間6人で名古屋市科学館で開催中の「絶滅動物研究所」へ行きました。

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 「絶滅動物研究所」は、7月6日(土)から9月8日(日)まで開催されています。

  展示の中に直接的な藤子ネタがあるわけではないのですが、藤子F先生のマンガには絶滅動物を扱った作品がいろいろとあります。

 ドードー、リョコウバト、モアに関する展示を見て『ドラえもん』の「モアよドードーよ、永遠に」(てんコミ17巻)について語り合ったり、ニホンオオカミの剥製を見て「オオカミ一家」(てんコミ2巻)に思いを馳せたり……藤子仲間といっしょに見たおかげで、そんなふうに展示物をF先生の作品と関連づけながらワイワイと楽しむことができました。

 

f:id:koikesan:20190803101940j:plain・ケナガマンモス(模型)

 

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ドードー(復元骨格標本複製)

 

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・リョコウバト(本剥製)

 

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ジャイアントモア(復元模型)

 

  ドードーとリョコウバトとモアは、『ドラえもん』全話の中でも特にF先生の絶滅動物愛と知識がよく伝わってくるエピソード「モアよドードーよ、永遠に」に登場します。

 のび太ドラえもんは、ひみつ道具の“タイムホール”と“タイムトリモチ”を使って、絶滅した動物たちを過去の世界から現在へ連れてくることにしました。いったんは絶滅した動物たちを今度こそは大切に育てて増やそうと、のび太がその計画を思い立ったのです。

 のび太のアイデアを聞いたドラえもんは、「それはきみらしくないすばらしい思いつきだぞ」と少し毒舌を利かせながらのび太を絶賛するのでした。

 そんな、のび太ドラえもんによる絶滅動物保護プロジェクトの実践として、ドードーやモアやリョコウバトが過去の世界から現在へ連れてこられたわけです。

 この話ではもう一種、オジロヌーという絶滅動物が現在へ連れてこられます。このオジロヌーは「絶滅動物研究所」では展示されていませんでした。私は2年前に国立科学博物館で開催された特別展「大英自然史博物館展」に足を運んだのですが、そのときもドードー、モア、リョコウバトに関する展示はしっかりとあったのにオジロヌーはありませんでした。

 ドードーやモアなどと比べ、オジロヌーはマイナーな絶滅動物なのでしょうか。いつか、この4種が勢ぞろいした展覧会を見られる日がやってくることを願いたいです(笑)

 

 

 「絶滅動物研究所」には、完全にこの世から絶滅した動物だけじゃなく、ある地域では絶滅した動物や、絶滅のおそれのある動物の展示もありました。

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・二ホンオオカミ(本剥製)

 ニホンオオカミの本剥製は日本に3体しかない貴重な標本で、8月18日までの期間限定展示でした。

 ニホンオオカミを見るとただちに思い出すのは、やっぱり『ドラえもん』の「オオカミ一家」です。明治38年に絶滅したとされるニホンオオカミが実はわずかに生き残っていた…というお話です。

 ひみつ道具の“月光とう”でオオカミの姿に変身したのび太は、山の中でニホンオオカミの一家と出会います。オオカミ一家の父親が言うには、生き残っているニホンオオカミはその一家だけ…。かつては山一帯に平和に暮らしていたニホンオオカミでしたが、そこへ入り込んできた人間に住み処や食べ物を奪われ、鉄砲に追い詰められ、数を減らしていき、ひとつの家族が細々と生き残るのみになってしまったというのです。

 私は子どもの頃この話を読んで、人間ってオオカミに悪いことをしたんだなあ、と申し訳ない気持ちになりました。

 それと、幼い頃は『三匹の子豚』や『赤ずきんちゃん』といった童話の影響もあってか、オオカミって悪くて怖い動物というイメージを持っていたのですが、この話を読んでオオカミにぐっと親近感がわきました。家族を守り抜くと誓う勇敢な父オオカミ、突然の来客にもすぐ懐くかわいらしい子オオカミたち、そしてオオカミ一家の仲良さげな様子などを見ていると、感情移入しないではいられませんでした。

 

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・二ホンカワウソ(本剥製)

 この二ホンカワウソやひとつ前に写真を載せたニホンオオカミ、あとで写真を載せるトキは、「モアよドードーよ、永遠に」冒頭に出てきたテレビ番組で「人間による捕かくや、自然破壊のため絶滅した動物や、絶滅寸前の動物」として紹介されています。

 

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・トキ(本剥製)

 トキの剥製を見られたのも感動ものでした。私が子どもの頃は、絶滅寸前の動物といえば真っ先に思い浮かぶのがトキでした。

 『ドラえもん』の一編「のび太は世界にただ一匹」(てんコミ27巻)で“トキはもう5羽しか生存していない”とあるように、私が物心ついた頃にはすでにトキは絶滅寸前で残り数羽という状態でした。

 トキの学名はNipponia nipponです。そんな日本の中の日本のような学名をもつ、日本を代表するような野鳥が絶滅寸前の状態にあるのですから、私のトキへの興味と心配は小さくはありませんでした。

 「のび太は世界にただ一匹」の冒頭で描かれているとおり、1981年1月11日から1月23日にかけて、新潟県佐渡島に生存していた野生のトキ5羽すべてが捕獲され、佐渡トキ保護センターで人工飼育されることになりました。これをもって日本の野生のトキは絶滅。その時点では中国でもトキが再発見されておらず、地球上で日本の5羽のみが生き残っているだけ…とされていました。

 その後中国でトキが再発見されて人工繁殖に成功、日本は中国からトキを贈られたり借りたりして人工繁殖に取り組み、数を増加させていくことに成功しました。飼育下のトキを自然の中へ放つ活動もされており、現在トキは数百羽という単位で生存しているようです。

 

 「のび太は世界にただ一匹」に、私が昔から気に入っているのび太のセリフがあります。

「世界じゅうにトキは五羽。野比のび太はぼく一人。もしぼくがいなくなったら…。ぼくは絶滅するんだ!! 保護しなくちゃ」

 これは、のび太が犬やジャイアンによってたかっていじめられたとき発したセリフです。

 トキよりも自分のほうが数が少なくて稀少性があるのだという、まことに勝手な理屈ですが、のび太があまりにもスラスラと疑いなく言い放ってくれたので、「もしぼくがいなくなったら…。ぼくは絶滅するんだ!!」という断言に思わず説得されそうになりました(笑)

 

 トキが出てくる藤子F作品ということでは、『大長編ドラえもん のび太の日本誕生』も印象深いです。この作品で、のび太たちは7万年前の日本へ家出します。そんな大昔の日本で彼らが目撃した風景のひとつにトキの大群がありました。

 『のび太の日本誕生』が描かれた時点ですでに野生のトキは絶滅しており、飼育下でも残り数羽となって絶滅寸前でした。そんな貴重なトキが群れをなして飛んでいる光景は、奇跡を見ているような感動を与えてくれました。

 当時は絶滅寸前の動物の象徴のような存在だったトキ…。私もそのイメージを幼い頃から持ち続けてきました。それだけに、『のび太の日本誕生』でトキの大群を見たときは強く心を揺さぶられたのです。

 

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ホッキョクグマ(本剥製)

のび太と鉄人兵団』で、北極を歩くリルルに襲いかかって倒された動物がホッキョクグマです(笑)

 

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アフリカゾウ(標本や模型ではなく映像で紹介されていました)

 アフリカゾウは生後2年はゾウの母乳が100%必要で、人間の手では親を失った赤ちゃんゾウを育てるのは無理…とされてきたが、28年の歳月をかけてゾウの母乳と同等の人工ミルクの開発に成功した…

 といった内容のアフリカゾウ孤児院の映像が会場内で流れていました。

 そこで思い出したのが、『ドラえもん』の「野生ペット小屋」(てんコミ30巻)です。この話の中に、ドラえもんアフリカゾウの赤ちゃんに牛乳を飲まそうとしたのに飲んでもらえない…という場面があるのです。

 ゾウの赤ちゃんに牛乳を拒まれたドラえもんは、「ゾウは、ウシの乳なんかのまないのかもしれない」と気づき、牛乳の代わりに桃太郎印のきびだんごを溶かして食べさせました。桃太郎印のきびだんはどんな動物でも食べるのです。

 F先生はアフリカゾウの赤ちゃんがゾウの母乳しか飲まないことをご存じでこういう場面を描かれたのかな、とF先生の博識に思いを馳せたくなりました。

 

  さて、この展覧会には、絶滅動物の中でもとりわけ人気の高い“恐竜”に関する展示はありませんでした。

 人間が絶滅させた動物たちや絶滅の危機にある動物たちを紹介する、というのが同展のコンセプトだからです。絶滅動物について知るということは、人間の罪深さをを突き付けられる体験でもあります。

 特に今回は、ステラーカイギュウのコーナーで人間の罪業を実感させられました。

 

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・ステラーカイギュウ(模型)

 とにかくデカい!というのが第一印象でした。

 

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・ステラーカイギュウの肋骨化石をじかに触ることができました。

  

 ステラーカイギュウの絶滅理由としてこんなことが書かれていました。

「肉と皮を目当てに殺された。仲間を助けようとする習性があり、余計に犠牲が増えた」

 このくだりを読んで無性に切なくなりました。胸が痛みました。

 仲間想いであったがために、ますます人間に捕まりやすく殺されやすくなってしまったなんて…。優しさが仇になるなんて…。ああ…。

 

 キタシロサイの映像も切なかったなあ…。2018年にキタシロサイ最後のオスがこの世を去り、2頭のメスが残るのみとなりました。その2頭のメスには生殖能力がないことがわかり、キタシロサイの絶滅が確定してしまったのです。

 この2頭が亡くなったら、地球上からキタシロサイはいなくなるのです…。

 いま生き残っている2頭のキタシロサイは、自分らの絶滅を待つばかりの身なのです…。

 切ないですよね。

 

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 藤子F作品の中で恐竜以外の絶滅動物が多く登場するといえば、『大長編ドラえもん のび太と雲の王国』が筆頭格ではないでしょうか。作中に絶滅動物保護州という地区が出てきて、そこに絶滅動物がいろいろと生息しているのです。

 このたび観覧した「絶滅動物研究所」に展示されていた種に限っていえば、マンモス、ドードー、モア、アフリカゾウなどが『のび太と雲の王国』に登場します。グッズ売場にはグリプトドンのフィギュアが売っていて、これも『のび太と雲の王国』に登場する絶滅動物です。その中で特に重要な見せ場があるのが、モアとドードーでしょう。

 

 『のび太と雲の王国』にモアとドードーが登場するわけですが、「モアよドードーよ、永遠に」に出てきたモア&ドードーと同じ個体が登場する!というのが肝心なところです。「モアよドードーよ、永遠に」でのび太ドラえもんに大昔の世界から現代へ連れてこられ、無人島に自由でのびのび暮らせる動物たちの楽園をつくってもらった当のモアとドードーが『のび太と雲の王国』の終盤に姿を見せるのです。

 『のび太と雲の王国』には、天上人(雲の上の世界に暮らす人々)が登場します。天上人たちは、地上人(われわれ地上に暮らす人々)による環境破壊行為によって、生存の危機に陥っていました。地上人が空気を汚しオゾン層を破壊するなど環境破壊を続けてきた影響で、天上人の世界も環境が破壊されてきたのです。

 そこで天上人はある計画を立てます。

 ノア計画です。

 それは、地上に大洪水を引き起こして地上の何もかもを洗い流してしまおう、という地球浄化計画でした。地球上の生命体を全滅させる意図はないので、大洪水が発生しているあいだは地上の生命体を天上界へ吸い上げておくというのですが、しかしノア計画が実行されてしまったら、人類の文明は完全に消失するわけです。

 そのノア計画を本当に実行するかどうかの最後の審判が、天上界の連邦最高議会で開かれます。その最後の審判の証人台に立った者たちの中に、モアとドードーがいたのです。

 モアとドードーは、のび太ドラえもんにしてもらったことにとても感謝しており、地上人を弁護する側に立ってくれました。ノア計画が中止される方向に導いてくれたのです。

 かつて短編『ドラえもん』に登場したドンジャラ村のホイくんたちやキー坊も再登場し、モア&ドードーとともに地上人を弁護する側に立ってくれて、最終的にノア計画は中止と決定されます。彼ら彼女らは、短編『ドラえもん』の中でのび太ドラえもんに助けてもらった恩を、後年になって大長編の中で返してくれたわけです。

 

 「モアよドードーよ、永遠に」「さらばキー坊」「ドンジャラ村のホイ」に登場したゲストキャラクターたちが『のび太と雲の王国』に続々と再登場するさまには、胸が躍りました。そして、みんながのび太ドラえもんへの感謝の念を持ち続け、熱心に弁護してくれて、人類の文明が滅亡してしまう危機から救ってくれたことに「ありがとう!」と言いたくなりました。『のび太と雲の王国』は、それら3つの短編エピソードの後日譚としての意味合いもあるのだということに、心がときめいたりもしました。

 

 

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 「絶滅動物研究所」の展示を見終えたあとは グッズショップでお買い物。

 ドードーのマグネットやクリアファイルなどを購入しました。