( 12月7日の記事「『フータくん』パイロット・フィルムの謎を追う」の続きです)
『フータくん』パイロット・フィルムの謎を追ったついでに、『フータくん』グッズを少しレビューしたい。
昭和41年ごろアニメ化企画が持ち上がりパイロット・フィルムが作られながら、正式にはテレビ放映が実現しなかった『フータくん』だから、関連グッズというのはあまり発売されていない。だが皆無というわけでもなく、わずかばかりは世に出回っていたようだ。
●ソノレコード
フータくん関連グッズで最も知られているのは、今回の話題の発端となった「フータくんのうた」(作詞:藤子不二雄/作曲:橋場清)を収録したフォノシートである。発売元は、ソノレコード株式会社というところで、定価は290円。昭和41年の品だ。この会社ではフォノシートのことを社名に合わせて「ソノレコード」と呼んでいるので、私もそれに倣いたい。
『フータくん』のソノレコードは、片面のみで音が聴ける半透明の赤い音盤が2枚入っていて、菅谷政子さんと野村道子さんが歌う「フータくんのうた」のほか、「おさいなら!赤ちゃんの巻」というお話が収録されている。お話のなかでフータくんの声を演じているのが菅谷政子さんで、野村道子さんは作中に登場する女の子の声を担当。菅谷政子さんは、モノクロ版『パーマン』でガン子ちゃん、シンエイ動画版『忍者ハットリくん』でケン一くんの声を、野村道子さんは、『新オバケのQ太郎』でよっちゃん、リニューアル前のテレ朝版『ドラえもん』でしずかちゃんの声を演じていて、藤子アニメではお馴染みの声優さんである。
「フータくんのうた」にはセリフパートがあって、当然ここでもフータくんのセリフは菅谷さんが演じているのだが、野村さんはこちらではキザ男のセリフを担当している。
ジャケットは表・裏・中身すべてを藤子不二雄A先生が描き下ろしていて、Aファンには非常に魅惑的だ。表紙では、フータくんと赤ちゃんが舌を垂らしてにらめっこをしており、色塗りが濃く、ほのかに立体感のある、力のこもったイラストで心が躍らされる。
ジャケットと開くと、まず「フータくんのうた」の歌詞が、その横に「これが今年流行するはずのフータスタイルだ!!」なる図解が掲載。「フータくんメモ」の欄では「フータくんの年齢…12〜3才くらい、住所…きまらず、家族…なし」とあり、フータくんが生粋の放浪少年であることが改めて痛感される。いつも元気なフータくんだが「家族…なし」という記述を見ると、フータくんの笑顔の裏にちょっと物悲しさを感じてしまう。
歌詞や図解の載ったページの次から、『フータくん』のカラーマンガを12ページにわたって読める。これは、ソノレコードで聴けるお話「おさいなら!赤ちゃんの巻」をマンガで表現したもので、藤子不二雄Aランド『マネー・ハンター フータくん』第4巻などに収録された「おそるべき赤ちゃん」をベースに、藤子A先生自らがこのソノレコードのために描き下ろした作品である。
藤子A先生のカラーマンガを12ページも読めるこのジャケットは、立派な“マンガ絵本”といってよいだろう。
●落書き帳
『フータくん』の落書き帳は、株式会社マルエス製造というところの商品で、『フータくん』連載当時のものと思われる。A5サイズ。表紙と裏表紙が『フータくん』のカラーイラストになっている。表紙裏と裏表紙裏には表のカラーイラストの色抜きバージョンが印刷され、ぬりえとして使用できる。中身は24ページあり、その24ページすべてが、自由に落書きのできる白紙である。
個人的には裏表紙のカラーイラストが気に入っている。「FUTA」印の浮き輪で着衣のまま泳ぐフータくんを見て宇宙飛行士がびっくりしているところから、フータくんが泳いでいるのは宇宙空間なのか!と想像が膨らんで楽しいのだ。フータくんの表情も大らかで楽しそうだ。落書き帳という使用目的から感じられる自由さと、裏表紙で普段着のまま浮き輪で宇宙遊泳するフータくんの姿から感じられる自由さとが重なって、この薄っぺらな一冊で自由なイメージをお手軽に満喫できるw
●トランプ
私は持っていないのだが、当時の「週刊少年キング」を見ると、『フータくん』のトランプも発売されていたことがわかる。エースという会社から400円で出ていたようだ。豪華な金色のケースに入っていることがセールスポイントとして謳われている。このトランプの絵柄もA先生が描いていると思われる。
昭和40年代は、こうしたグッズの図柄やレコードジャケットなどを藤子先生自身が描き下ろしていることが多く、それが当時物の大いに心そそる要素である。ただ、『フータくん』の場合はアニメ放映が実現していないだけに、アニメ絵のフータくんというのを見てみたい気もするのだった。