F大全集第2期第8回配本とAのブラックユーモア

 25日(金)、藤子・F・不二雄大全集第2期第8回配本が発売されました。『ドラえもん』12巻、『オバケのQ太郎』10巻、『みきおとミキオ(バウバウ大臣)』全1巻の3冊です。
 25日は、藤子不二雄A先生画業60周年記念『藤子不二雄Aのブラックユーモア』第1巻も発売されました。F先生とA先生の単行本が同日に発売された、というところが嬉しいです。


 
ドラえもん』12巻は、1972年度生まれ(1979年度入学)の人が小一から小六にかけて読んだ話が収録されています。ドラえもんブーム、藤子アニメブームの只中で発表された作品たちです。
 12巻には、空を飛ぶ話がいくつも収録されています。なかでも、「たんぽぽくし」で子どもたちがタンポポの種のごとく空を飛ぶ姿がさわやかで心あたたまって好きです。「のび太スペースシャトル」の、ロケットストローを吹きながら空中に浮かんでいく場面もいいなあ。「「ワ」の字で空をいく」における“声が固まって文字化した物体に乗る”というアイデアは、何度読んでも秀逸だなと思います。そのほか今巻では、定番のタケコプターを使った飛行をはじめ、ふわりねんどで作った飛行機にまたがったり(「ふわりねんど」)、台風のなかを泳いだり(「台風遊び」)、鳥の翼を腕に付けたり(「動物セット」)、きんと雲に乗っかったり(「きんとフード」)、昆虫を操縦したり(「コンチュウ飛行機にのろう」)、空中を2本の足で歩いたり(「ハツメイカーで大発明」)、天馬に変身したり(「しりとり変身カプセル」)といった具合に、空を飛ぶバリエーションが非常に豊かで楽しめます。


ドラえもん』は“時間SF”といえる話がたくさんあります。それは未来や過去へ移動するタイムトラベルものや、時間移動によって起こった因果律のズレや矛盾を描いたタイムパラドックスものに代表されますし、そもそもドラえもんが未来からタイムマシンでやってきたという基本設定からして時間SFの要素たっぷりなんですが、今巻ではそれ以外のやり方で“時間”というものを扱った話がいくつか見られます。「のび太のなが〜い家出」では、客観的な時間の流れはそのままに、人が感じる主観的な時間の流れをゆっくりにしています(現実の時間は10分しか経過していないのに、当人には1時間の経過に感じられる)。「時門で長〜い一日」では、客観的な時間の流れそのものをゆっくりにしています(5〜6時間分の時間が経過したのに、時計の時間は30分しか経過していない)。「時差時計」は、地球に時差があるという事実を踏まえて、今いるこの場所を世界のどこの時間にもできる、という話。「空ぶりは巻きもどして…」では、時間の流れを過去へ巻き戻す、ということがなされています。時間の流れをコントロールしたいという思いが、さまざまなかたちで描かれているわけです。


「「スパルタ式にが手こくふく錠」と「にが手タッチバトン」」で、のび太がネズミへの極度の恐怖から失神したり悲鳴を上げたりする姿が可笑しいです。のび太が気の毒といえば気の毒なんですが(笑) 
 のび太が気の毒というと、今巻にはのび太がおもらしをする話が「あやつりそっくりふうせん」「四次元たてましブロック」「メモリーディスク」と複数あるんですよね^^
「ションボリ、ドラえもん」「水は見ていた」「天つき地蔵」「ハリーのしっぽ」といった読み応えのある名作も収録。
 A先生の単行本と同日に発売されたこの巻に、A先生の『忍者ハットリくん』を話題にした「ニンニン修業セット」が収録されているのも、なかなか素敵なことではないですか。
 巻末の解説は、最も有名なドラえもんソング『ドラえもんのうた』を作詞した楠部工さん。


 
オバケのQ太郎』10巻は、「小学五年生」に連載された話を中心に、単行本初収録となる「マドモアゼル」「明星」「ボーイズライフ」で発表された話も収めています。「マドモアゼル」版は、神成さんの家に下宿する綺麗なお姉さんとQちゃんの交流を軸にした、通常の『オバQ』とはちょっと違うテイストの作品です。サブタイトルに「恋」という文字がよく使われているのが印象的。
 解説では、長谷邦夫さんが『オバケのQ太郎』や『レインボー戦隊』を手伝ったときの思い出を綴っています。


 
みきおとミキオ』は、防空壕のなかのタイムトンネルで100年後の未来へ行けるようになったみきおが、100年後の未来世界で出会った自分にそっくりなミキオと入れ替わって、未来世界をいろいろと体験するSFマンガです。100年の時を隔てた文化や科学技術や価値観のギャップを楽しめます。藤子F児童マンガのなかでは比較的地味な印象の作品ですが、何度読み返しても面白い、充実した作品です。
 併載の『バウバウ大臣』は、『ウメ星デンカ』や『チンプイ』のような、異星の王国の住人が日常に闖入してくる作品。100年前に滅びたアマンガワ星のアマンガワ王国。王国の人民も全滅したが、アマンガワの科学力で現在は皆が生まれ変わって、他の様々な星で暮らしているらしい。地球で暮らす平凡な少年・星野大二は、突然現れたバウバウ大臣とミウミウ女官に、あなたはアマンガワ王国の王子様だと告げられる……。
ウメ星デンカ』は、爆発したウメ星国の王室一家が平凡な家庭に居候する話で、『チンプイ』は、マール星の王子にお妃として選ばれた地球の平凡な女の子の家に、お妃の世話をするチンプイが居候する話。『バウバウ大臣』は、故郷の王国が星ごと滅びてしまったという設定や地球に来た王国の人たちが王国時代の儀式をやりたがる様子などが『ウメ星デンカ』を思わせますし、平凡な地球人の子どもがいきなり聞いたこともない星の王家の一員にされそうになってしまうところは『チンプイ』に近いです。発表された年代も踏まえて、『バウバウ大臣』はまさに、『ウメ星デンカ』と『チンプイ』の中間的な作品、ということになりそうです。
 バウバウ大臣は、マスコットキャラ的な外形なのにかわいげのないところがユニークですが、その“マスコットキャラ的なのにかわいげのない加減”は、『ヒョンヒョロ』のウサギ型宇宙人を彷彿とさせるものがあります(笑)
 解説は、ノンフィクションライターの最相葉月さん。



 
 藤子不二雄A画業60周年記念『藤子不二雄Aのブラックユーモア[黒イせぇるすまん]』は、1968年から71年にかけて「COM」「ビッグコミック」「ヤングコミック」などで発表された“奇妙な味の短編マンガ”を21本収録しています。それに加え、これまで単行本未収録だった『わが名はモグロ…喪黒福造』も収録。『黒イせぇるすまん』のメイキング・マンガです。この作品で助っ人としてしのだひでお先生が登場しますが、先日しのだ先生にお会いしたさい、『黒イせぇるすまん』執筆時のエピソードを直接うかがったばかりなので、今回の単行本で『黒イせぇるすまん』や『わが名はモグロ…喪黒福造』を読み返すとホットな気分になります。
『黒イせぇるすまん』には焼肉屋のシーンがありますが、この作品の執筆中、A先生としのだ先生は実際に新宿の焼肉屋へ行ったんだそうです。A先生は焼肉を食べられないのですが、焼肉屋のシーンでリアリティを出すために頑張って出かけられたのでしょうか…。
『わが名はモグロ…喪黒福造』執筆のさいは、A先生がしのだ先生に協力を求め、『黒イせぇるすまん』執筆当時しのだ先生が付けていた日記をひもとき、どんなことがあったのか、いつのことだったのかなどを調べたとのこと。

 解説は、大沢在昌さん。