佐々木マキ講演会・サイン会

 岐阜県多治見市の「こども陶器博物館」で、3月21日から5月25日まで『佐々木マキ見本帖』展が開催されています。
 
 19日(土)には同会場で、佐々木マキさんの講演「マキさんの絵本作りについて」が催されました。直前にこの情報を知って、高揚感たっぷりに足を運びました。多治見という近場で佐々木マキさんの講演を聴けるなんて、なんと素敵でありがたいことでしょう!


 佐々木マキさんは、「ガロ」で漫画家デビュー。シュールでナンセンスでクールな作風で注目を浴び、その後、絵本やイラストレーションにも進出。絵本では『ねむいねむいねずみ』『ぶたのたね』などの人気作があります。村上春樹さんの初期小説のカバーイラストも手掛けています。


 
 ・こども陶器博物館


 
 ・講演は午後2時開始だったのですが、かなり早めに出かけて整理券5番をゲット! シャイでめったに講演をやらないという佐々木マキさんの生トークを、いちばん前の席で聴けることになりました。



 講演スタート!
 佐々木マキさんが入場し、私は初めてご尊顔や肉声を拝むことができたことに感激。予定時間を超える1時間40分ものあいだマキさんのお話を堪能できて大満足です。
 穏やかで落ち着いた語り口にお人柄がにじみ出ていました。


 マキさんのお話の内容を少し紹介します(要約)。
・1966年のこと、『カムイ伝』を読むために『ガロ』の創刊号から最新号までをまとめて貸してもらった。もちろん『カムイ伝』はすごかったけれど、水木しげるさんやつげ義春さんなど他の作品も面白くて刺激を受けた。4ページの風刺マンガを描いて投稿したら採用された。1ページ500円×4ページ分の原稿料の入った現金書留の封筒に「あなたの作品は面白いので、新しいのができたらまた送ってほしい」と汚い字のメモが入っていた。僕は青林堂というのは大きな会社で、この字はアルバイトのおじいさんが書いたものだと勝手に思い込んでいた(笑)じつは、その文字の主が「ガロ」編集長の長井勝一さんだった。


・長井さんは、僕の住んでいた町にもいそうな下町の親父という感じだった。若いころ悪かった、という話をよく聞かされた。長井さんは人によって話しを選ぶタイプで、僕にはそういう話をよくしてくれた。


・「ガロ」ではそのうち原稿料がで出なくなったし、その後手掛けた絵本の仕事もまだ少なくて、それだけでは食っていけず、イラストレーションの仕事も始めた。他人のつくったお話に絵をつけるのは苦手だったが、食っていくためにやった。自分の中を通過していないイメージを絵にするのは苦痛だった。でも、やっていくうちに自分に合った物語にも出会うようになった。


・『ねむいねむいねずみ』と『ぶたのたね』は、人気が出てシリーズ化された絵本だが、どちらもあまり思い入れを込めてやった仕事ではなかった。なのに売れてシリーズ化された。良いかげんに力が抜けていたのがよかったのかも(笑)逆に、思い入れを込めて丁寧にやったのに売れなかった絵本が『ぼくがとぶ』だった。自分の絵本ではこれがいちばん気に入っているのだが。


・『ぶたのたね』のなかに、たくさんのブタが木になっている絵があるが、それについて種明かしすると、子どものころ秋田書店の「漫画王」で読んだ手塚治虫さんの『ぼくのそんごくう』に、たくさんの赤ちゃんが大きな木になっているシーンがあって、そのイメージが僕の頭にずっと残っていた。それが元になっている。


・自分の描いたマンガのなかで最も好きなのが『ピクルス街異聞』。この作品に出てきたヤギを主人公してつくった絵本が『ムッシュ・ムニエルをごしょうかいします』。(今回の企画展では、『ピクルス街異聞』の原稿全ページが展示されていました。非常にきれいな原稿で見とれてしまいました)


・僕はGペンが苦手だったし、均一な線を引きたかった。そこで、古い万年筆のペン先を外してペン軸にさして付けペンにしたてみら、これがよかった。


・僕の絵本には人間があまり登場しない。その理由のひとつは、僕は生活絵本というジャンルをやったことがないから。突拍子もないお話に合うキャラクターを出そうとすると、おのずと人間ではないものばかりになる。今後も生活絵本はやらないと思う。


・考え事をするのに、平日昼間の私鉄の普通電車は人がほとんど乗ってなくて、もってこい。


 講演の最後に、杉浦茂マンガへの熱い思いを語られました。理屈もメッセージもなく、ひたすら無邪気で、その瞬間だけでも子どもたちに楽しんでもらえばいいという杉浦ワールドへの憧れ。厭世的な子どもだったときに杉浦茂のような大人がいてくれて世の中棄てたもんじゃないと思えたことへの感謝。自分も杉浦茂のような漫画家になりたかったけれどその機会を失ってしまった悔しさ。そんな思いが伝わってきました。


 杉浦茂関連では他に…、
・僕が子どものころは、手塚治虫、福井英一、杉浦茂が3大人気漫画家だった。
赤塚不二夫さんの『天才バカボン』に出てくるレレレのおじさんは杉浦茂マンガへのオマージュ。
・晩年の杉浦先生のお宅へ通っていた。
 といったお話も聴けました。



 講演が終わって、少し休憩を挟んでから、マキさんのサイン会が行なわれました。
 
 ・私はサインをしてもらう本として『ぶたのたね』をセレクト。


 マキさんはお客さんひとりひとりに違った絵を丁寧に描いていかれました。私には、『ぶたのたね』ということでコマ遊びをするぶたを描いてくださいました。
 
 かわいい! うれしい!!


 
 ・展覧会オフィシャルカタログも購入。



 帰宅後、マキさんの原画を鑑賞しお話を聴きサインをいただいた興奮に乗って、マキさん関連の蔵書を掻き集めてみました♪
 
 ほかにもあったと思うけど、見つからず……



 今日のエントリの締めに、藤子関連のネタを記します。
 今回の会場となった多治見市のこども陶器博物館では、数多くの子ども用茶碗を常設展示しています。アニメや特撮のキャラクターがプリントされた茶碗が主体です。相当な数の茶碗が年代順に展示されていて見応えがありました。藤子モノでいえば、オバQパーマン、怪物くん、ウメ星デンカジャングル黒べえドラえもん、忍者ハットリくんプロゴルファー猿といったキャラクターの茶碗がありました。


 そして、この博物館の階段の踊り場にドラえもんがいました!
 
 

 藤子ファン的にも、ささやかに楽しめる施設だったのです。