てんとう虫コミックス新装版『エスパー魔美』6巻発売

 6月28日(水)、てんとう虫コミックス新装版『エスパー魔美』6巻が発売されました。
 
 
 ぜんぶで6話が収録されています。


 ●「名犬コンポコポン」
 冒頭。泥棒に入られたのに呑気なことばかり言うパパがいい味出してます。


 「まさか、うちをどろぼうがねらうとは……」
 「しかし、まぬけな空巣ですなあ。とる物がなくて、おどろいたでしょうな」
 「なにっ、ぼくの絵が数点ぬすまれたって!? 絵のわかるどろぼうだな!アハアハアハ……」


 終始この調子なのです(笑)


 この話ではコンポコが家出するですが、そのさい彼は書き置きを残します。泥んこの棒に縄を巻き、自分の手形を残すことで「どろぼうをつかまえにいきます。コンポコ」というメッセージを伝えたのです。なんという高度な記号表現でしょう!


 ●「魔美が主演女優!?」
 高畑さんが「「週刊朝日」で、そっくりの批評を白井さんがかいてたよ!」と言うコマがあります。「白井さん」というのは、映画評論家の白井佳夫氏のことでしょうかね。


 この話は黒沢庄平の初登場回でもあります。6巻では、6話中3話に黒沢が登場します。黒沢は魔美がエスパーであると疑って、卑怯な手を使ってでも魔美の秘密を暴こうとする先輩男子です。イヤな奴系のキャラクターですね。


 ●「恐怖のサンドイッチ」
 山登りの苦手な高畑さんが、魔美の超能力を使って楽に登ってしまおうと提案したさい、魔美は「中年になって、うちのパパみたいにムザンなプロポーションになってもいいの!? あたしはいやよ!!」と言葉を返します。魔美本人は無自覚だったのかもしれませんが、このセリフは、魔美の意識下に“中年になっても高畑さんと一緒にいるつもり・一緒にいたい”という思いが潜在していることの証しでしょう。その潜在的な思いが不意に外に出てしまった瞬間なのです。
 なのに、それを聞いた高畑さんもそのへんは鈍感で、「なんできみが、ぼくの中年を心配するんだよ」と、登山の疲労でそれどころではないようです(笑)


 魔美がつくった4段重ねのビッグサンドイッチ!高畑さんが食べる予定だったのですが、結果的に食べずにすんで命拾いですね(笑)


 ●「グランロボが飛んだ」
 自分の殻に閉じこもって人間の友達がいなかった少年に新たな世界が開けるお話です。物理的な超能力だけでは解決できない領域ですが、魔美と高畑さんの名コンビが少年の内面を動かします。


 ●「マミ・ウォッチング」
 このサブタイトルは、もちろん“バード・ウォッチング”という語が元になっていて、作中にも「バード・ウォッチングみたいなものか?」というセリフが出てきます。藤子Fマンガでバード・ウォッチングといえば、『値ぶみカメラ』での「バード・ウォッシング」という言い間違いが思い出されます(笑)
 『値ぶみカメラ』で「バード・ウォッシング」と言い間違える人物は、主人公・竹子さんの母親ですが、作中にはちゃんと竹子さんがバード・ウォッチングをする場面もあります。竹子さんが撮影している野鳥は、おそらく「ソリハシシギ」でしょう。
 値ぶみカメラの不思議な機能のひとつに「“本価”を写す」があります。被写体を単なる物質として見たときの原材料費を表示するのです。
 で、じっさいに人の本価を写してみたら「965円」という安い価格が出てしまいました。それを見た竹子さんは、「もっとも人間を単に脂肪や炭素の集合体と考えれば、製造原価なんてこんなものかもしれないわね」と言います。


 藤子Fマンガを読んでいると、そんなふうに、人間存在を唯物的に見る視点にパッと出くわしてハッとさせられることがあります。
 たとえば、『ドラえもん』の「人間製造法」というお話。


 「脂肪」せっけん一こ
 「鉄」くぎ一本
 「りん」マッチ一〇〇本
 「炭素」えんぴつ四五〇本


 これに、コップ一ぱいの「石灰」、一つまみの「いおう」と「マグネシウム」をくわえ、1.8リットルびんの水を入れれば、約3キロの人間ひとり分の材料がそろう、というのです。
 一人の人間を造るのに必要な材料が、まるでレシピのように羅列されていきます。人間って単なる物質として見たらそんなものか…という拍子抜けのようなニヒリズム気分が生じます(笑)
 また、SF短編の『征地球論』では、宇宙人が地球人の体の構造を調べた結果、「単純な蛋白質の固まりだったよ」と言います。人間をひとことで言い表わす文言は人類の歴史上いろいろとあったでしょうが、「単純な蛋白質の固まりだったよ」とは、人間の単純化の極みのような言い方です(笑)


 こうした藤子Fマンガの“人間をひょいと唯物的に見る”視点に触れると、人間の尊厳だとか人間の霊性だとか生命の神秘性だとかそういうものを信じて尊んでいた自分の価値観がくらっとめまいに見舞われたような気分になります。その気分がいつまでも続くわけではなく、そのうち再び普段の価値観に戻っていくわけですが、その一瞬のめまいのような気分を味わわせてくれるのが、これらの作品のスパイシーな魅力でもあるのです。


 『エスパー魔美』の話から脱線してしまいましたが、話を戻しまして…
 ●「ここ掘れフヤンフヤン」
 「スルメの涙」という魔美の言い間違いが、それこそ噛めば噛むほど味の出るスルメのごとく好きです(笑)


 先日、来年の映画ドラえもんのタイトルが『のび太の宝島』と発表されましたが、「ここ掘れフヤンフヤン」も宝探しのお話ですね♪ 豪族が砦に隠した黄金(推定50億円!)がどこかに眠り続けているというのです。