藤子・F・不二雄ミュージアムでSF短編の原画を撮影

 3月10日、藤子不二雄Ⓐ先生のお誕生日をお祝いすべく豊島区のトキワ荘マンガミュージアムへ出かけました。そのことは、すでに当ブログでレポートしました。

 藤子不二雄Ⓐ先生のお誕生日をトキワ荘でお祝いする

 https://koikesan.hatenablog.com/entry/2023/03/13/212658

 

 

 その前日、川崎市藤子・F・不二雄ミュージアムへ足を運び、展示中のSF短編の原画を撮影してきました。

 藤子・F・不二雄ミュージアム2F「展示室Ⅱ」の原画が2/22から3/20まで撮影OKなので、その機を逃すまいと足を運んだのです。

 

 

 展示室Ⅱではこんな感じで整然と静謐に原画が展示されています。

 

 

 同じサイズ・同じ構図のコマが連続する、特徴的な構成の原画が3枚見られたので、ここで並べてみました。新人や上手くない人がやると単調・手抜きとも取られかねないコマ構成ですが、藤子F先生のマンガはこういうコマ構成を意識的に選択したことの演出効果が見事に発揮されていてほれぼれします。

 

 

 ブチギレしたうさぎちゃんのアップが強烈なインパクトを残す作品『ヒョンヒョロ』の、あのシーンやこのシーンや「誘拐ヲ実行スル!!」のシーンを撮りながら「撮影ヲ実行スル!!」気分にひたれました。

 今回のSF短編原画展では『ヒョンヒョロ』がグッズ化されたりカフェメニューになったりと、ずいぶん推されています。この作品はそうやって推されるだけの存在感と内容をもつ傑作だと思いますし、今年がうさぎ年ということも関連していそうですね。

 

 

 藤子Fマンガの精練された言葉の魅力を“原画鑑賞”という方法で味わえるのも、とても素敵な体験でした。自分の常識・価値観・足場を揺さぶられたり、別の角度から新たな視点を与えられたり、不思議な事象を的確な言葉で納得させられたり、藤子F先生のモノの見方と言語センスと豊富な知識とが限られた言葉数のなかに軽やかに濃縮されたその味わいが実にたまりません!

 

 

 言葉の魅力といえば、ここなんて特に魅力的。『ミノタウロスの皿』のひとコマですが、夏目漱石草枕』冒頭の「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ」という歴史に残るリズミカルさに匹敵する、すぐれたキャッチコピーのようなセリフです。

 

 

 さらに言葉の魅力について。藤子F先生がさらりと発するダジャレやモジリなど、ささやかな言葉あそび系の表現も個人的に大好きです。

 「カレー彗星」って(笑) こういうダジャレは、通常ならオヤジギャグとかなんとかネガティブな扱われ方をしがちですが、誰がどう発するかによっては、ほほえましかったり愉快だったりするんですよね。それを証明しているのが藤子F先生です。

 

 

 これは『征地球論』の原画です。セリフにある「ママンゴ星」は、手塚治虫先生の『ロストワールド』の主舞台となった「ママンゴ星」が由来でしょう。藤子Fマンガではよく手塚オマージュ(とくに初期手塚マンガのオマージュ)が見られますが、こんなところでもそれが感じられるのです。

 

手塚治虫ロストワールド』(1948年)より引用

 

 『ロストワールド』は、中学生時代の藤子両先生を大いに刺激し興奮させた手塚先生の初期SF長編マンガです。藤子F先生は『征地球論』で「ママンゴ星」の一語を書きながら、中学生時代のその刺激に満ちた興奮を胸のうちにこっそりよみがえらせていたのかもしれません。

 

 

 『征地球論』には「ママンゴ星」と同じページに「ソラリス星」の語も出てきます。スタニスワフ・レムの小説『ソラリスの陽のもとに』およびアンドレイ・タルコフスキー監督の映画『惑星ソラリス』が由来でしょう。

 

・小説も映画も原題は『ソラリス』です。現在刊行されているハヤカワ文庫版は原作に忠実に『ソラリス』と表記されています。

 

 映画『惑星ソラリス』に関して、藤子F先生には次のような逸話があります。

 藤子F先生は手塚治虫先生と一緒に『惑星ソラリス』を観たのですが、そのときの藤子F先生のご様子を手塚先生がこう語っています。

藤子不二雄さんのひとり、藤本氏のほうといっしょに観たんだけど、彼、途中から寝だしたんだよ。彼、頭を振りだしたんで、感動して振ってるのかと思ったら、舟こいでるんだね(笑)。最後のエンドタイトルになってから急に目ざめてね、もう目を見開いて観ているんだよ。徹夜あけの日だったんだな(笑)。」(「別冊新評」SF ―新鋭7人特集号、1977年7月10日発行)

 

 SFに詳しい知人が、そうやって寝てしまうのもこの映画の正しい見方だろう…と言ってました。

 ちなみに萩尾望都先生は、この映画を観て眠らなかったものの、観ているうちにだんだん頭が下がってきたとか。

 

 

 『定年退食』の原画より。藤子F作品には食欲をそそる飲食表現が実にたくさんありますが、塩コーヒーについては原画で読んでも飲みたくなってきません(笑)

 でも、そんなことを言いながら、藤子・F・不二雄ミュージアムで「『定年退食』の塩コーヒーとカステラセット」なんてカフェメニューが出たら迷わず注文してしまうんだろうな。私のことだから(笑)

 

 

 扉の原画もいろいろあって見惚れました。

 

 

 展示室を出てはらっぱに足を踏み入れると、開放感とともにウグイスの声が聞こえてきて、春の足音を感じさせてくれました。

 

 

 はらっぱで楽しげなFキャラたちとすごすのは、極上の憩いの時間です。

 

 

 藤子F先生を見つめるドラえもんのまなざしのまっすぐさ、うつくしさよ!

 藤子F先生を目の前にした喜び、先生への敬意と感謝の念が、彼の瞳いっぱいに浮かんで見えます。

 

 

 カフェでは「とおりぬけフープdeドラらぁめん」を食べ、「ドラえもんブルー」を飲みました♪

 

 ショップでは、SF短編原画展に合わせて発売されたオリジナルグッズ『みどりの守り神マルチプレイマットを購入。

 

 呪いをテーマにした『丑の刻禍冥羅』と『ドラえもん「のろいのカメラ」』の原画を見たあとのお買い物だったので、呪いをかけられたように(笑)ついついこのメモ帳も買ってしまいました。

 

 帰宅後、のろいのカメラメモ帳と魔太郎のうらみ手帳を並べてみたくなりました。

 “うらみ”手帳と“のろい”メモ帳という、おそろしい帳面コンビの誕生です(汗)

 

 というわけで、藤子・F・不二雄ミュージアムは、ほんとうに楽しくて面白くて癒されてすこしふしぎで、すぐにまた行きたくなるスポットなのです。

 

 

 藤子・F・不二雄ミュージアムを出てから生田駅前のひろ寿司で夕食をとりました。藤子両先生の行きつけだった寿司屋さんです。

 このお店へ行くたびに大将やお店の方から藤子先生のエピソードをお聞きしています。今回は、藤本先生がマチュピチュをお好きだということを(藤本先生がその場にいるのに)奥様から聞いた…というお話をうかがいました。お店の人とコミュニケーションを取るのは常に奥様で、藤本先生は黙々とお寿司を食べておられたそうです。

 

 

 最後に、このたびの関東遠征でお会いした皆様からいただいた品々の写真を♪

 皆様ありがとうございました!