10月文庫化小説の中のドラえもんネタ

 今月文庫化された2冊の小説のなかで、ちょっとした藤子ネタを見つけたので紹介したい。直接には藤子不二雄と関係のない小説やマンガを読んでいて、ふと藤子ネタに巡り会ったりすると、作品の本筋を楽しむのとは別枠で、ささやかな喜びを感じることができる。


 今回小説内で出会った藤子ネタは、数ある藤子ネタのなかでも別格的に出現頻度の高い〝ドラえもんネタ〟だった。ドラえもんネタは非常にありふれているのだが、それでも、たまたま同時期に文庫化された2冊の小説でドラえもんネタを見つけられた偶然に敬意を表し、ここで取り上げてみることにした。



 まず1冊めは、河出文庫『インストール』(綿矢りさ著)である。『インストール』は、ハードカバーの単行本ですでに読んでいたが、文庫化にあたって書き下ろし短編『You can keep it.』が併録されたため、それを目当てに購入して、ついでに『インストール』も再読してみた。すると、62ページで「ドラえもんに出てくる出木杉くんみたいな子から風俗嬢なんつう言葉が聞けて、IT社会、世も末だなあと思った。」という一文に突き当たった。
 著者の綿矢りささんは、主人公の女子高生が出会うちょっとませた小学生を描写するさい、出木杉くんを比喩に用いていたのだ。以前読んだときもこの一文に気づいたと思うが、すっかり忘れていた。



 もう1冊は、 文春文庫『ハル』(瀬名秀明著)である。これは、2002年に刊行された『あしたのロボット』を改題し文庫化したもので、ロボットをテーマにした中編小説の連作集だ。その28ページに、「私や横木にとってロボットとは、ドラえもんであり、ガンダムであり、スター・ウォーズC-3POR2-D2であった。もう少し上の世代になれば、鉄腕アトム鉄人28号だろう。」というくだりがある。文中の「私」は、主人公の作家で、「横木」は、主人公の小中学校時代の同級生でロボット研究家だ。
 著者の瀬名秀明さんは、このブログでも触れたことがあるように、藤子ファン、ドラえもんファンであることを様々なところで公言している作家なので、自作に藤子ネタを登場させたとしてもまったく不思議はない。とくに瀬名さんの3作めの長編小説『八月の博物館』には、藤子ネタがたくさん登場する。
 また、本書『ハル』は、『アトムの子』という、手塚治虫先生の『鉄腕アトム』をモチーフにした小説も収録している。この『アトムの子』にも、「かなり前に、こういったペット型ロボットの普及が子供たちの感覚をおかしくさせるとの意見が出て、社会的に騒がれたことがあった。小さな子供たちは無意識のうちにロボットに感情移入し、あまりにも強い友達感覚を持ってしまうので、成長してもそれを引きずってしまうというのだ。マンガの『ドラえもん』がやり玉に挙げられていたような記憶がある。」といったかたちで、ドラえもんが出てくる。



 そういえば、この夏、りぼんマスコットコミックス『NANA』を1巻から13巻まで一気読みしたときも、ドラえもんネタを見つけた。12巻の119ページで、「いーよな ドラえもんは なんだってポケットに入れて持ち歩けるぞ」「でもおれのポケットにはおまえの一番欲しい物が入っているよ これはきっとドラちゃんも持ってねぇぞ」と、ある登場人物が話しているのである。



 
 当ブログでは、以前にも、小説のなかで発見した藤子ネタをとりあげたことがある。
 2004年11月18日には、北村薫さんの『スキップ』に「海の王子」という単語が出てくることを紹介した。
●「藤子・F先生が娘さんに最後に贈った本」 http://d.hatena.ne.jp/koikesan/20041118


 また、今年4月14日には、浦賀和宏さんの小説に出てくる藤子ネタを複数挙げてみた。
●「浦賀和宏作品の中の藤子ネタ」 http://d.hatena.ne.jp/koikesan/20050414


 瀬名秀明さんが藤子ファンであることについて書いた記事はこちら。
●「瀬名秀明さんは藤子ファン」 http://d.hatena.ne.jp/koikesan/20041005