「正直太郎」「ゴルゴンの首」

 11月4日(金)、『わさドラ』26回めの放送
 新オープニングになって2回め。本編に入る前から心を盛り上げてくれる。




●「正直太郎」

初出「小学三年生」1973年9月号
単行本「てんとう虫コミックス」2巻などに収録


【原作】好きな女性の前で思ったことを言えない玉夫おじさん(のび太のママの弟)のため、ドラえもんは、心の中で思ったことを代わりに話してくれる「正直太郎」を出す。ところが玉夫おじさんは最後まで正直太郎を使えず、相手の女性のほうが正直太郎によって本心を打ち明ける格好になり、結果的に2人の恋はうまくいくのだった。そんなラストが素敵な一編。
 のび太ドラえもんスネ夫は、正直太郎があまりに正直すぎるため、それぞれひどい目にあう。思ったことを何でも口にしていたら人間関係は成立しない、という人生の真実をついたギャグである。



わさドラ』の感想
・冒頭、おやつのドラ焼き5個をどう分けるかで口論するのび太ドラえもん。傍から見れば他愛ないやりとりだが、それが本当の兄弟喧嘩のように見え、2人の関係の密度を感じさせた。ドラえもんが「きのうは僕のほうがおせんべいが1枚少なかった!」と細かい主張をしたりするところが、この喧嘩シーンのリアリティを高めていた。


のび太のパパとママに恋愛相談に乗ってもらっている玉夫おじさんが、指をもじもじさせたり顔に汗をかいたりする様子が、玉夫おじさんの内気な性格をあらわしていて良かった。


・正直太郎が「ドラえもんはいつ見てもおもしろい顔してるなあ」とのび太が思っていることを話すと、ドラえもんはすかさず「そんなこと思ってたのか!」と怒る。ドラえもんのセリフに感情がこもっていて、耳に残った。


スネ夫に対して指をポキポキ鳴らしながら怒るジャイアンが、いい味を出していた。


ジャイアンスネ夫から正直太郎を奪うシーンが追加された。ジャイアンの心の中を語る正直太郎の声を聞きつけたジャイアンの母ちゃんが、河原にドスンと降り立つ描写は迫力があった。


・玉夫おじさんが好きな女性の名前が「幸子さん」と判明。原作では女性の名前は出てこない。


・ラスト、玉夫おじさんと幸子さんがブランコに腰かけて仲良く会話するシーンは、原作よりラブラブ度が濃くなった。おかげで、「べつに世話を焼くことなかったなあ」というのび太の言葉が、さらに説得力をもって感じられた。







●「ゴルゴンの首」

初出「小学六年生」1979年8月号
単行本「てんとう虫コミックス」20巻などに収録


【原作】学校で立たされてばかりののび太が、いくら立っていても疲れない道具を要求。そんなくだらない理由のためドラえもんが「ゴルゴンの首」という恐ろしい道具を出すギャップがおもしろい。そもそも、立たされたことを反省し今後は立たされないよう気をつけるのではなく、これからも立たされ続けると自信をもって断言し、いくら立たされても疲れないようになることが問題の解決だと考えるのび太の発想が突き抜けている。
 のび太は学校の裏山にゴルゴンの首を落とす。姿の見えぬゴルゴンの首によって人々が石にされていくさまは、ホラーの要素を感じさせる。のび太らがゴルゴンの首を捕まえようと裏山へ出かけるところは冒険譚の魅力もある。




わさドラ』の感想
・ゴルゴンの首の由来がギリシア神話の怪物から来ていることをドラえもんが説明。原作ではそういう説明はなかった。


・ゴルゴンの首を落とした、とのび太から聞いたドラえもんの慌てぶりが、部屋の窓から「行くぞーっ!」と勢いよく飛び出してくる描写などからしっかり伝わってきた。


・ゴルゴンの首が自力ではいまわれるとドラえもんから聞いたのび太は、「ええーっ!」と驚く。そのあとドラえもんが「カメくらいのスピードだけどね」と付け加えると、『わさドラ』ののび太は「あっ、そう」と拍子抜けしたような反応をする。私は、原作を読んだとき「カメぐらいの速さ」というドラえもんのセリフを妙に生々しく感じ、恐怖が増したので、今回ののび太の拍子抜けした反応には違和感をおぼえた。


・茂みからゴルゴンの首が出てきたかと思ったら普通の蛇だった、という追加シーンがあった。ここでスネ夫が「ちょっとちびっちゃった」「パンツ替えに帰りたいんだけど」なんて言って、笑わせてくれた。