『ミス・ドラキュラ』のトリビア!?

4月24日の日記で『ミス・ドラキュラ』第1巻が発売されたと書いた。今日は『ミス・ドラキュラ』発売を祝し、この作品にまつわるちょっとした雑学を記そうと思う。


 
 前にも書いたとおり『ミス・ドラキュラ』は「週刊女性セブン」(1975年6月11日号〜1980年10月23日号)に連載され、全252話で完結した。この全252話にカウントされない番外編的な『ミス・ドラキュラ』が存在する。
 それは「ミス・ドラキュラ キーウィの国を行く 」という8ページのグラビア記事で、「週刊女性セブン」1980年9月11日号に掲載された。ニュージーランドを訪れた藤子不二雄A先生が日産サニーに乗って国を縦断する旅の記録を、写真と文でレポートしたもので、この記事のため藤子A先生がミス・ドラキュラのカットを数点描き下ろしているのだ。ミス・ドラキュラはそこで、ワイトモ鍾乳洞やカテドラル広場、ワカティプ湖などを訪れている。
 藤子A先生は記事の最後で、「ニュージーランドでぼくが見てふれたのは、みんな、いまの日本には失われつつあるビューティフルでハッピーなものばかりだった」と長嶋茂雄ばりに英単語を駆使して旅の感想を述べている。



『ミス・ドラキュラ』連載中の「週刊女性セブン」では、こんなこともあった。
「女性セブン」1979年8月9日号に吸血鬼ドラキュラをとりあげた記事があり、そこで『ポーの一族』の作者・萩尾望都さんや『ドラキュラ』の舞台に出演中の女優・関根恵子さんと並び、『ミス・ドラキュラ』の作者ということで藤子A先生がドラキュラへの思いを語っているのだ。

昔から、フランケンシュタイン、狼男とともに、古典的怪物〝ビッグ3〟のひとつにされてるけど、なんていったってドラキュラ伯爵が最高ですよ。美的なところと気品とを持ち合わせているし、美女それも処女の生き血を吸うなんて、男性の願望を満たしてくれてるみたいで、セクシーな魅力がありますよ。

 ドラキュラの美しさや品性、そしてセクシュアリティに魅惑された藤子A先生は、ドラキュラや吸血鬼を素材にしたマンガをいくつも描いている。なかでも最もメジャーなのは、『怪物くん』に登場するドラキュラだろう。そのほか、私の印象に強く残ったものでは、『魔太郎がくる!!』の「ドラキュラ・マントはドラキュラを呼ぶ」「吸血鬼の子孫はやっぱり吸血鬼」、『マボロシ太夫』の「わしは、吸血鬼レース」、ブラック短編『不思議町怪奇通り』『オカルト勘平』などが挙げられる。
 藤子A先生は、前掲の記事で古典的怪物ビッグ3のうち最高に好きなのはドラキュラと述べており、SF雑誌「スターログ」No.6(1979年)でも同じようにドラキュラが一番好き(とくにクリストファー・リーが演じたドラキュラが好き)と語っているが、『パーマンのわくわく指定席』(1997年/角川書店)ではフランケンシュタインが一番のお気に入りだと書いているし、古典的怪物ビッグ3以外では「奇想天外」1977年9月号で「モンスターの中では、ハエ男が一番好きですね」と語っている。藤子A先生がいちばん好きだという怪物はそのときどきで変転しているわけだが、おおむねドラキュラが一番お好きといったところだろうか。



 また「女性セブン」1979年12月6日号では、当時大ブームを巻き起こしていた『ドラえもん』を特集しているのだが、その記事の冒頭で『ドラえもん』の作者「藤子不二雄」を紹介するさい、こんな一文が見られる。

『女性セブン』の読者のお姉さんたちには、『ドラえもん』の藤子先生というより、『ミス・ドラキュラ』の藤子先生といったほうがわかりやすいかなあ。

 両藤子先生がコンビを解消した今となっては、『ミス・ドラキュラ』は藤子A先生、『ドラえもん』は藤子・F先生の作品ということで別作家のものとして扱われるが、ドラえもんブームの頃は、『ミス・ドラキュラ』も『ドラえもん』も公には「藤子不二雄」作品だったのである。
 この記事で興味深いのは、ドラえもんファンの有名人として、渡部昇一菅原文太さだまさし糸川英夫江田五月ジャンボ尾崎の名が挙げられている点だ。渡部昇一ドラえもん好きなのは知っているし、糸川英夫がドラを論じた文章は読んだことがあるが、ほかの面々が『ドラえもん』について語った言説にも触れてみたいところである。
 さらに興味深いのは、両藤子先生の好きな女優が書かれたくだりだ。A先生は桃井かおり、F先生は大竹しのぶのファンだという。昭和54年当時の桃井かおり大竹しのぶがどんな感じだったか私には記憶がないが、私の記憶の中にある彼女らのイメージを思い浮かべながら、「へぇ〜」と感心してみた。



 ここで「女性セブン」の話から外れるが、「コロコロコミック」1989年9月号で発表された『ビリ犬なんでも商会』「わが家にアイドルがやってきたの巻」には、ミス・ドラキュラにそっくりなルックスのアイドル歌手が登場する。その名は、星影ヒメコ。かつらとメガネを使って変装するところまでミス・ドラキュラにそっくりだ。ミス・ドラキュラは地味で無愛想なOL・虎木さんに変装して会社勤めをしたけれど、星影ヒメコのほうは、外出時にアイドルであることがバレないよう変装したのだった。
 星影ヒメコというアイドル名は、平成元年に発表された児童向けマンガの登場人物のわりに、それより昔の芸能人のような、時代がかったムードを発散している。(あるいは、宝塚歌劇団員の芸名を思い出させる) また星影ヒメコの持ち歌は、「夢のなかであたしはまつの… 白い馬にのった王子さまのくるのを…」という歌詞の『夢の王子さま』だったり、「夜空にきらめく星座の中にひとつまたたくわたしの星よ」という『星影のメルヘン』だったり、これも一昔前のベタな風情が漂っている。昭和20年代、30年代に青春時代をすごした藤子A先生にとっての最新のアイドル像・歌謡曲像が、こういったネーミングセンスや歌詞に反映しているのだろう。
 この「わが家にアイドルがやってきたの巻」は、残念ながら単行本未収録である。