「エスパースネ夫」「スネ夫は理想のお兄さん」放送

 5月5日(金)のアニメ『ドラえもん』は、キャラクター大分析シリーズ!第1弾「スネ夫DAY!」。キャラクター大分析シリーズは、今回から7週にわたって続くようだ。



●「エスパースネ夫
【原作】

初出:「小学三年生」1980年7月号
単行本:てんとう虫コミックス31巻などに収録

 空き地で大まじめにテレキネシスの練習をしていたのび太が、スネ夫らに見つかって嘲笑される。それに対してのび太ドラえもんは、かたづけラッカーで姿を消して、スネ夫の目の前で灰皿や紙くずや空缶などを動かし、自分にテレキネシスの能力があるんだとスネ夫に思い込ませようとする。自分がエスパーだと思い込んだスネ夫は必ずその能力を友達に見せびらかそうとするだろう、そうすれば、本当は超能力者でないスネ夫は皆の前で恥をかくことになるはずだ、というふうに、スネ夫の性格を見透かした意趣返しである。
 こういう場合のび太がとる通常の意趣返しは、ドラえもんひみつ道具で自分がエスパーになって、スネ夫らを驚かしたりひどい目にあわせたりというストレートなものだろうし、そのまま調子に乗って最後に失敗してしまうのがオチだろうが、本作ではドラえもんの考案で少し迂遠なやり方を採用し、最後には成功をおさめている。途中、スネ夫の意外な用心深さに苦労しつつも、最終的にスネ夫は、のび太が嘲笑されたときよりずっと多くの観衆の前で恥をかくことになるのだ。



【アニメ】(ザ・超能力?! エスパースネ夫
 10円硬貨をジーッと見つめてテレキネシスの練習をするのび太。私も子どものころ、超能力番組の影響でコインなり文房具なり食器なりを念力で動かそうと、のび太と同じような行動をとったことがある。そんなことできっこないと思いながらも、もしかして自分にも超能力があるかもしれない、とひそかに期待しての行動だった。スプーン曲げにも挑戦したことがあって、「曲がれ、曲がれ」と念じながらスプーンを指でこすっていたら本当に曲がったため、「おっ!曲がった!」と無邪気に驚喜したが、それは自分の指の物理的な力でスプーンが曲がっただけのことだった。今日のアニメを観ていて、そんな牧歌的な過去を思い出した。


 
 原作には出てこない出木杉が登場し、超能力をめぐる客観的な状況について解説した。このシーン、原作ではエスパーの存在を信じるのび太のメンタリティが一方的に馬鹿にされるムードだったが、アニメでは出木杉の解説によって「イギリスやアメリカでは警察の捜査に協力する超能力者もいる」「超能力をまじめに研究する科学者もいる」との情報が示され、のび太の立場が若干フォローされる雰囲気にもなった。しかし、出木杉は解説の最後に「今のところ科学的には証明されていない」と結論づけ、やっぱりのび太は一方的に馬鹿にされるのだった。



 空き地でテレキネシスの練習をしていてスネ夫らに嘲笑されたのび太が、悔しさのあまり熱を出して寝込むのは原作のとおり。そんなのび太の様子から、スネ夫らに馬鹿にされたショックの大きさとともに、本気で超能力者になれると信じていたのび太の朴訥さが感じられ、のび太がなんともいとおしくなった。



 のび太ドラえもんよって自分が超能力者だと思わされたスネ夫の夢想シーンは、アニメのオリジナルだ。スネ夫は、自分がマスコミに騒がれたりヒーローになって活躍したりする場面を夢想してうっとりするが、それを傍観するのび太ドラえもんの鼻白んだ反応がおもしろい。「なに想像してるんだろう?」とつぶやくのび太に、「どうせ、ろくなことじゃないと思うよ」と答えるドラえもんスネ夫の性格を見透かしたドラえもんの口振りがいい。





●「スネ夫は理想のお兄さん」
【原作】

初出:「小学四年生」1984年9月号
単行本:てんとう虫コミックス40巻などに収録

スネ夫は理想のお兄さん」は、てんとう虫コミックスドラえもん』全45巻中で、スネ夫の弟・スネツグが登場する唯一の話だ。この話の冒頭でのび太が「いつかどこかでみたような…」と言っているように、スネ夫の弟は、『ドラえもん』連載初期に数度登場したことがあって、本作で久しぶりの再登場となった。具体的には、「小学二年生」1970年6月号で発表された「弱いおばけ」*1、「小学四年生」1971年8月号の「アリガターヤ」*2、「小学二年生」1972年8月号の「お返しハンド」*3に登場し、それが12年以上の歳月を経て「小学四年生」1984年9月号の「スネ夫は理想のお兄さん」で再登場となったのである。
 この時期にスネ夫の弟が再登場したのは、同じ年から刊行の始まった「藤子不二雄ランド」(中央公論社)にスネ夫の弟が登場する初期作品が収録されたため、長い間その存在がなかったことになっていたスネ夫の弟に関して、作中で何らかの説明を加えておく必要に迫られたからだろう。そこで藤子・F・不二雄先生は、「スネ夫は理想のお兄さん」という作品を描いてスネ夫の弟を久々に登場させ、その名をスネツグとし、子どものないニューヨークのおじさんのもとへ養子に行ったという設定を付加したのである。



【アニメ】(スネ夫の弟登場!? スネ夫は理想のお兄さん)

 スネ夫は、ニューヨークに暮らす弟との手紙のやりとりで「学校の成績はトップ」「スポーツ万能」「女の子の憧れのまと」「ジャイアンも頭が上らない」など、虚言としかいいようのないことを書いて見栄をはっていた。それで弟は、スネ夫のことをすばらしい兄だと信じ込んでいた。夏休みを利用して弟が遊びに来ることになって、弟のイメージを壊したくないスネ夫は、のび太や他の友達に、弟がいるあいだだけでもそれらしくふるまってくれと頼んでまわる。
 原作のスネ夫は、弟に伝えた理想の自己像と現実の自分に大きなギャップがあることをしっかり認めていて、スネ夫もちゃんと冷静に自己分析ができているんだなあ、と思わせるが、アニメのスネ夫は、「だいたい本当のことだけど、ちょっと書きすぎちゃった」「ぼくを誉めるなんて簡単じゃないか」などと、原作よりもスネ夫らしいナルシストぶりを発揮した。

 

 イメージライトキャップの効果で、スネ夫を見て「キャー」「スネ夫さんすてき!」と騒いだ女の子2人が、キャップの効果がなくなったとたん、「なぜすてきなんて、いったのかしら」「いやあね」と言って去っていく。この「いやあね」が、原作を読んだときやたらと可笑しくて、今回アニメで見てもやっぱり可笑しかった。アニメでは2人の女の子のうち1人がしずかちゃんになって、2人が「いやあね」と言い合うのだった。
 スネ夫に対して「すてき!」と言ってしまった女の子が、そんな自分の言動を振り返って「いやあね」と感想を抱くなんて、スネ夫は普段、どれだけすてきじゃないと思われているのだろう(笑)

*1:「弱いおばけ」:藤子不二雄ランド1巻、てんとう虫コミックススペシャルカラー作品集5巻などに収録

*2:「アリガターヤ」:藤子不二雄ランド4巻、てんとう虫コミックスプラス3巻に収録

*3:「お返しハンド」:藤子不二雄ランド6巻に収録。※「弱いおばけ」「アリガターヤ」「お返しハンド」は、いずれも初出時ではなく単行本収録時のサブタイトル