大阪で藤子ファン仲間と会った!

 19日(土)、20日(日)と大阪にいた。
 昨年12月、関西在住の藤子ファン仲間と親睦を深めるため大阪で懇親会を開催した。そのとき、関西を会場とする懇親会を半年に1度ほどのペースで今後も続けていこうという話になった。そこで、このたび関西懇親会の第2弾を挙行したのである。



 この懇親会は、綿密な企画に基づいててきぱきと進行していくような類のものではなく、そのときの流れでどのようにでも傾いていく流動的かつ緩慢なもので、幹事など本当は設けたくないのだが、10人以上の人間が集まって行動をともにする以上、その面々をある程度まとめたり大ざっぱなスケジュールを立てたり事前に参加者に連絡をとったりする役回りがどうしても必要なわけで、とえりあえずの幹事役を神奈川の名和広さんと私が務めた。関西で開催する懇親会の幹事を、神奈川と愛知の人間が務めるというのも不思議な話だが。



 名和広さんが幹事を担当する時点で、すでに普通の会合になりそうもない不穏な空気が漂いだす。その不穏な空気に吸い寄せられるように、この懇親会には超個性的な面々が顔を揃えた。独特の価値観やメンタリティを持った人、過去に波瀾万丈の生活を送った人、アブノーマルな世界で生き抜こうとする人など、それぞれが一癖も二癖もある人物ばかりで、極めてアクの強い場が形成された。
 今回は「ドラちゃんのおへや」のおおはたさんにも参加していただいたのだが、そのおおはたさんが懇親会1日目の夜、「12日に私の主催で「ドラちゃんのおへや」オフ会を開催したばかりですが、この関西懇親会に参加していると、12日の会合がいかにオフ会初心者に向いたものだったか実感できます。こうして雰囲気のまったく違う藤子オフ会に続けて参加するのも刺激的な体験ですね」としみじみおっしゃっていたのが印象的だ。
 名和広さんも私も、関西懇親会に集まる面々の人間的濃さに魅惑されており、だからこそこの懇親会を定期的に開催したいと思っているのである。



 参加者の個性に依存した懇親会なので、会の内容自体はいたってシンプルだ。
・19日(土) 昼にまんだらけ梅田店に集合→喫茶店で自己紹介と歓談→古書店巡り→夕方6時から10時半まで居酒屋で宴会
20日(日) 大阪に一泊したメンバー5人で、まんだらけ難波店などへ行き、午後3時ごろから喫茶店や居酒屋でひたすら歓談



 そんな今回の関西懇親会には、合計11人の参加者があった。関西から6人、関東から2人、東海(といっても愛知県だけ)から3人が集まった。会の始まりから終りまでずっと参加した人や、夜になって駆けつけた人など様々だった。その11人とは別に、大阪のPくんが一瞬だけ顔を出してくれた。30分で合流できると言いながら、結果的に80分も皆を待たせてくれるところが実にPくんらしかった。



 懇親会参加者のうち3人は、リアルな場所で初対面となる人物だった。こんなアクの強い会合で初めてお会いすることなるなんて大丈夫かなあ、と心配な面もあったが、なんとか無事に楽しくすごすことができてホッとした。
 初対面3人のうち1人目は、「Ashiko K Milk」というブログを運営されている、大阪のhaschikenさんだ。今年3月に大学を卒業したばかりの青年で、アニメ『ドラえもん』のリニューアルが決まってファンの間で物議をかもしている頃、このブログのコメント欄に意見を書き込んでくださったのがきっかけで私と知り合った。ネット上でのイメージ通り、明晰な思考と鋭い視点を持った知性的な若者、といった印象で、しかも知に偏らないバランスの取れた社交性を発揮して、非常にスムーズに場に打ち解けてくださった。


 2人目は、奈良のTさん。Tさんは、今回関東から参加したBさんと以前からの友人で、そのBさんを介して私と某有名SNSで知り合った。ネット上で知り合ってまだ間もない段階で、こうしてお会いできることになったのは幸いだ。実際にお会いしてみて、実に精悍で男前で爽やかな方だと感じた。『ドラえもん』「分かいドライバー」の載った「コロコロコミック」を持参して場を盛り上げてくださったし、帰る間際、私と肩を組み合って写真を撮ってくれたりして、本当に最後まで清々しい人だった。


 3人目は、兵庫のKさん。我々の間では「ザ・ドラえもんズ」の熱烈なファンとして有名な人物である。藤子・F先生や藤子A先生が描いた作品より「ザ・ドラえもんズ」が好きというのは、我々のなかでは非常に異質な存在で、だからこそ貴重な存在ともいえる。今回ご本人にお会いしてうかがったところ、「ザ・ドラえもんズ」といっても映画が好きなのではなく本を読んで好きになったとのことで、それも意外だった。ご本人はいたって無口なタイプであったが、伸ばした後ろ髪をみつあみにし、紺色のタンクトップを身につけたそのいでたちだけで充分な存在感を示してくださった。



 以上の3人以外は、これまで何度も会っている人物だが、今回彼らの生きざまや価値観などを深いところまで聞いて、改めてその強烈かつディープな個性に感銘を受けた。ここでは、常識に囚われがちな私を平凡な頭を特にぐらぐらと壮烈に揺さぶってくれた3人のエピソードを紹介したい。



 大阪のKさんは、私の先輩にあたる年季の入った藤子ファンで、藤子アニメがモノクロで放送されていた時代から藤子作品に親しんでおられる。私が生まれる前から、すでに藤子ファンだった人物と言ってよいだろう。そのKさんは、二次元の美少女、藤子キャラでいえば特にしずかちゃんに熱烈な恋愛感情を抱きつづけている。そのことは私も以前から知っていたし、本人から直接うかがったこともあるのだが、今回改めてKさんの口から二次元美少女との恋愛を終生貫いていく旨の言葉を聞いて、その一本筋の通った真摯な生きざまに圧倒された。Kさんのような嗜好を持った人は、これまで世間で肩身の狭い思いをすることが多かったはずだ。だが、近年“萌え”という概念が世間に流通し、そこそこの偏見を持たれつつもその概念が広く普及したことで、少しは風向きが変わってきたのではないか。本田透氏が『電波男』などの著作で二次元世界の恋愛の価値を説得力をもって論じてくれたことも、、Kさんには追い風になっているようだ。懇親会のなかでKさんが口にした本田透氏への感謝と共感の弁は、本当に実感がこもっていた。
 二次元美少女を対象とした恋愛が、10年後、20年後というスパンでどのように市民権を獲得していくのか、あるいは現在の状況を頂点として再びマイノリティへの道をたどっていくのか、私はKさんの生きざまを通して見守っていきたいと思う。



 兵庫の黒幕組合くんは、彼の描くマンガも彼本人のキャラクターも、実にひねくれていて意地が悪い。藤子マンガのキャラにたとえれば、A先生の黒ベエあたりをリアルにした印象だ。黒幕くんは、自分をいじめた人間に恨みを抱きその結果として復讐を実行する魔太郎のようなタイプではなく、これといって恨みも憎しみも敵意もないのに、自分のうちにある意地悪心を駆り立ててくれる対象に対して無差別に悪戯を仕掛ける黒ベエのような存在なのである。
 そんな意地悪キャラの黒幕くんも、さすがに小学生の頃は今と違って素直でまっすぐな性格だったかもしれないと、彼の子ども時代がどうだったか聞いてみたら、黒幕組合は小学生時代もやっぱり黒幕組合だった。黒幕くんが小学校低学年のころ実際に行なった悪戯を、いろいろ聞いたなかから3つだけ紹介しよう。

・ダンゴ虫をたくさんつかまえ、フィルムケースに詰め込み、スーパーマーケットの新鮮な野菜の上にばらまいた。
・空缶に小便をためておき、それを道路に置いて、通りかかった人が缶を蹴り上げるのを陰から見ていた。
・近所の家の壁によく唾を吐きかけていた。単なる唾だと透明で見えにくいので、チョコレートを口に含んで唾液を黒くしてから吐きかけた。

 こういう物理的な悪戯をやっていた小学生時代から、もう少し心理的な悪戯に走るようになったのが中高生時代。
 本人によると、中高生時代の黒幕くんは、性格の悪い高畑くんだったそうだ。さほど勉強をしなくても試験で良い点ばかりとってしまう、というところは高畑くんと同じだが、高畑くんには学年トップをとらぬようわざと解答を間違えて書くなど人の好さがあった。ところが黒幕くんは、しっかり良い点数をとったうえ、それをクラスメイトにひけらかしていたというのだから、実に嫌味だ。
 進学する大学はどこでもよかったけれど、教師の強い薦めで京都大学を志望。しかし、センター試験で1科目だけ失敗したため、志望大学を変更した。それでも人並み以下の努力で某旧帝大に現役合格し、大学院まで出たのだから、やっぱり嫌味である。



 関東から参加したBさんは、いつもおおらかな笑顔を絶やさぬやさしい人物だ。しかし、子どもの頃から20代中盤にかけてはグレまくっていて、ヤクザの手下になったり暴走族に所属したりで悪さを繰り返していたという。Bさんがかかわった“組”や“族”というのが、私のようなアウトローの世界に詳しくない人間でも知っている有名な組織で、それだけでもずいぶん驚いてしまったが、そのうえBさんがその時代の写真を何枚か見せてくれたため、ますます凄絶な迫力を感じたのだった。
 長いあいだグレていたBさんが今のように更生したのは、女友達と趣味の話をしたことがきっかけだった。そのときマンガの話になって、Bさんは「そういえば、オレも子どものころ藤子マンガなんかが好きだったなあ」と幼少年期を懐かしく思い出し、熱心なマンガ愛好家になっていったのだ。少し図式的な表現になるが、Bさんが暴走族から足を洗った動機のひとつに、藤子マンガの存在が深くかかわっていたのである。藤子ファンでありBさんの友人でもある私は、そう考えると無性に胸が熱くなってくる。Bさんは、過去にさんざん悪いことをやってしまった分、これからは人一倍明るく善良に生きていきたいと語る。
 バイクにまた乗りたいが今は免許が取り消されているので、そのうちまた免許を取得したい、と言うBさんに対し、「今度は安全運転でね」と私が言葉を向けると、Bさんはいつもの笑顔を浮かべながら深くうなずいてくれた。



 というわけで、実に濃密な懇親会だった。下手な自己啓発セミナーなどよりずっと深く、自分の価値観や人生観を見直せる機会だった。
 今回ご一緒した皆さん、ありがとうございました。またお会いしましょう。



※追記
 この日記を読むと、藤子ファンの懇親会なのに藤子作品の話をあまりしていないように思われるかもしれないが、ぜんぜんそんなことはなく、あくまでも話題の中心は「藤子不二雄」であった。個人的には、『エスパー魔美』のアニメと原作で好きなエピソード、『ドラえもん』の単行本未収録作品について、映画『のび太の恐竜2006』の評価、藤本先生のSF短編に結末の曖昧なものがあるがそれについてどんな解釈をするか、といった話題がとくに楽しかった。