藤子ファン懇親会in大阪

 7日〜8日と、「藤子ファン懇親会」のため大阪へ行ってきた。名和広さんと私でめぼしい仲間に声をかけて開催した会合で、これが3回めとなる。
 参加者は全部で9人。大阪での開催ながら大阪府民はKさんのみで、そのほかは、兵庫2人、京都1人、奈良1人、愛知2人、千葉1人、神奈川1人という内訳だった。



 結論的な感想から言えば、異常な熱狂が渦まくディープな集まりとなった。よくもまあこんな濃いメンバーが一堂に会したものだ、この面子のなかに平然と加わっている私はいったい何者?… と自分の在り方疑いたくなるような、それほどまでに特異な盛り上がりを感じたのだ。



 7日(日)、午後1時半ごろ「まんだらけ梅田店」に集合。その後、「梅田古書センター」「もっきりや」といった古書店をまったりと巡った。私は、手塚治虫関係の本を10冊程度購入。喫茶店に入って駄弁ったりもした。
 午後6時から居酒屋で宴会がスタート。飲み放題のコースだった。



 昭和40年代前半の白黒アニメ時代から藤子作品を愛好してきた大阪のKさんは、私から見れば藤子ファンの大先輩。この機会に「御大」と呼ばせてもらいながら、濃厚な藤子トークをめまぐるしく展開することになった。
 Kさんは、自ら「萌え人」を名乗り、藤子作品に登場する美少女たちに人生をかけて萌え続けている人物。藤子ファンダムのなかで日夜、萌えの布教に尽力されている。生涯にわたり二次元美少女への愛を貫こうとするその姿勢は、どこか求道者のたたずまいすら感じさせる。純愛という言葉が冷笑の対象でしかなくなった印象の現代において、Kさんは純愛の一つの理想形を実践しているのかもしれない。


 そんなKさんが、熱い口調で私に尋ねた。「koikesanは、藤子美少女に萌えないんですか!!」と。Kさんのその真摯な問いかけに私はたじたじになりつつ、「藤子先生の描く女の子は、かわいいと思いますが…… 私の場合は萌えというのとは違うような… いや、これも萌えなのでしょうか…」などとあやふやな言葉を返すがやっとだった。ちなみにKさんは、「ネオ・ユートピア」最新43号の会員インタビューに登場されている。



 千葉のBさんと奈良のTさんは聾唖者で、お二人が会話するときは手話になるのだが、他の参加者とは筆談あるいは身ぶり手ぶり、表情などのやりとりになる。大学ノートに文字を書きながら言葉を交わしあうコミュニケーション体験は、声を出して会話するのとはまた違った刺激があって楽しい。
 Tさんは、昼間に京都大学で手話関係の活動をされてからの参加だった。こうしたマニアの集まりに参加するなかでは実に男前の人物だ。
 Bさんについては、昨夏の懇親会レポートで書いたのだが、関東地区最大の暴走族の一員としてやんちゃしまくりの青春時代を送りながら、現在は水戸黄門のように世直しをしていきたいと語る、笑顔のまぶしい好漢である。


 
 午後8時すぎ、居酒屋から喫茶店に移動。藤子ファンの集いでありながら、話題は藤子マンガから奇妙な方向へシフトしていく。私の隣に座った名和広さんと京都のHさんが、自分らのセクシュアリティにまつわる意識やまだ誰にも打ち明けていない内緒の体験などを、あたかも競いあうようにカミングアウトしあいだしたのだ。二人のあいだに挟まれて座っていた私は、そのえげつない言葉の応酬に巻き込まれ、たいそう面食らいながらその状況を積極的に堪能した(笑)
 毒気に満ちた意地悪キャラで高偏差値の旧帝大出身の黒幕組合さんは、Bさんと何やら科学っぽい用語をちりばめながら筆談を続けていたので、どんな高踏的な会話をしているかと筆談ノートを見せてもらったら、それもまたエロティックなネタで盛り上がっていたのだった(笑) 
 そんななかにあって、兵庫のKさん(前述の大阪のKさんとは別人)は、「そういう話(エロい話)には興味がない」とストイックな立場を表明されていたし、昼間に京都国際マンガミュージアムちばてつや講演会を聴講してから駆けつけた愛知のHさんはジェントルマンであることを貫いておられた。



 このように、多様な感性、価値観、性格、社会的な属性をもった人間が、渾然一体となって深々とコミュニケーションにひたった宴は、はからずも「何でも腹を割って話せた!」という開放的かつ親密な感情を皆の心に残す結果となった。『まんが道』で才野茂満賀道雄に「おれとおまえはマンガだけの友達じゃないはずだ!」と言葉をかけるシーンがある。まさにそんな感じで、「おれたちは藤子マンガだけの友だちじゃないんだ!」という高揚感を強く味わうことができたのだ。


 
(8日(月)の出来事は、また明日以降に書きます)