「100年インタビュー 藤子不二雄A」放送

 3月3日(木)午後8時からBSハイビジョンで放送された「100年インタビュー」のゲストは、藤子不二雄A先生でした。
 http://www.nhk.or.jp/hyakunen-i/guest/index.html


 1時間半のあいだ藤子A先生がほぼ喋りっぱなしという、ファンにはたまらない番組。A先生のお話の内容は、ファンには馴染み深いものでしたが、先生が元気に喋っておられる姿をたっぷりと観ることができて、幸せな気分にひたれました。
 A先生の語りが発する熱に活力を注いでもらえた感じです。


 そんななか特に印象深かったのは、以下のようなくだりです(発言内容は大意です)

・「藤本くんは白い藤子、僕は黒い藤子とファンには呼ばれていたようです」
 藤本先生が白い藤子、安孫子先生が黒い藤子と藤子不二雄時代から評されていたのは、私も経験的に馴染みのあることですが、それをA先生ご自身の口から聞けたのは何だか新鮮でした。


・「『愛…しりそめし頃に…』を倒れるまで描き続けたい」
 現在連載中の『愛…しりそめし頃に…』を「最後の作品」と考えている、と明言されました。00年代の講演会などでは冗談めかして「もう引退」なんてお話をされていたA先生ですが、ここでは「倒れるまで描き続けたい」と生涯現役の闘志をあらわにしてくださいました。


・インタビュアーに「これだけはマンガで描いてはいけないと思うことは?」との質問に対し……
「消去法じゃいけないんです。(あれを描こう、これを描こうと)プラスしていかなきゃ。あれもダメ、これもダメじゃ何も描けない。マイナーになってはダメ。自分を良いほうに盛り上げることが大事」
 今も昔も、マンガ表現に規制の網をかけようとする動き・風潮がわきおこりますが、A先生の言葉は、そういう動きに対する皮肉・牽制とも感じられます。また、プラス思考で前向きにやっていくというのは、創作に限らず、自分の人生のさまざまなところで当てはめて考えたいことだよなあ、と思いました。


・「今の若い人たちは孤立化している感じがする。ぼくの描いた作品で人間同士の触れ合いや絆を感じ取ってもらって、それが現実のものになればいいと思います」
 A先生の切なる願いです。


・「予言者じゃないので100年後どうなっているかわかりません。今は地球的なレベルで降下気味ですが、10年、20年、30年後には人類はまた盛り返してくれて、新しい時代がやってくるでしょう。そのためには、夢を持って前向きに生きることが大事」
 この番組のテーマである「100年後の日本人に見てもらえる、100年後も色あせない人生観を語ってもらう」を踏まえて、最後にA先生から「100年後へのメッセージ」が贈られました。


 ほとんどA先生が喋っているという素敵すぎる番組でしたが、時おりVTRや写真などが挿入されました。藤子先生のデビュー作『天使の玉ちゃん』を連載していたときの毎日小学生新聞が映し出されたのは資料的価値がありそうです。個人的には、『魔太郎がくる!!』の復讐場面のコマが映されたのが嬉しかったです。トキワ荘時代の写真は、いつ見ても「青春してるなあ」と感じます。
 A先生の生家・光禅寺が登場したのもよかったです。私の出演した「まんが道をゆけ!」のクライマックスは、出演者が光禅寺を訪れA先生の描いた喪黒達磨と手塚先生から譲られた机を見ていく、というものだったのですが、今回の番組では、それと同じ流れをA先生ご自身と石澤典夫アナウンサーの出演で見せてくれました。「まんが道をゆけ!」もBSハイビジョンで放送されたことですし、両番組のシンクロを感じられて心が躍りました。



100年インタビュー 藤子不二雄A」は再放送もあります。
 ・3月10日(木)午後0:30〜1:59 BShi
 ・3月12日(土)午前10:00〜11:29 BShi



※追記
 3月4日発売のMy First BIG SPECIAL『笑ゥせぇるすまん』「ココロのスキマ」を購入。
 この1冊を皮切りに、『笑ゥせぇるすまん』のコンビ二本は、今のところ以下のように続くことが発表されています。
・4月7日発売:ChukoコミックLite Special『笑ゥせぇるすまん』「夢に追われる男」(中央公論新社
・5月6日発売:My First BIG SPECIAL『笑ゥせぇるすまん』「BAR魔の巣」(小学館


 また、3月25日ごろ発売予定の『藤子不二雄Aのブラックユーモア』1巻に収録される単行本未収録作は『わが名はモグロ…喪黒福造』であることが判明。
 そして、4月28日ごろ発売予定の『藤子不二雄Aのブラックユーモア』2巻には『田園交響楽』が単行本初収録とのこと! 昭和40年代に発表されてずっと封印されたままだったブラック短編で今回陽の目を見るのは『田園交響楽』であることがわかりました。



『わが名はモグロ…喪黒福造』は、平成15年に「ビッグコミック」で発表されました。喪黒福造というキャラクターがどのように生みだされたのかを描いた創作秘話マンガです。
田園交響楽』は、昭和47年に「ビッグコミック」で発表されて以降、一度も単行本に収録されていませんでした。隔離された村に迷い込んだ青年が体験する奇妙な風習を描いた作品で、藤子不二雄A版“因習の村モノ”といえる傑作です。ビジュアル面だけ取っても、A先生が持つ芸術性が表出していて見ごたえがあります。4章立ての作品で、その章題がベートーヴェン交響曲『田園』の各楽章を元にしているのもムード満点。お薦めの一編です!