「泣くなジャイ子よ」「ジャイ子の新作まんが」放送

koikesan2006-06-02

 6月2日(金)放送のアニメ『ドラえもん』は、キャラクター大分析シリーズ第5弾「ジャイ子DAY!」
 ジャイ子といえば、今年2月19日放送のドキュメンタリー番組「ドラえもん誕生 〜藤子・F・不二雄からの手紙〜」(テレビ朝日)のなかでシンエイ動画の別紙壮一氏が語った藤子・F先生にまつわるエピソードがすぐさま思い出される。ジャイ子の本名を考えようという席で藤子・F先生が「やっぱり考えるのはやめましょう。もし××子と決めてしまって広まったとたんに、同じ名前の女の子がジャイ子と呼ばれてからかわれてしまうのはかわいそうだから」と述べたというのだ。藤子・F先生の優しさが伝わってくる、心あたたまるエピソードである。



●「泣くなジャイ子よ」


【原作】

初出:「小学四年生」平成元年5月号
単行本:てんとう虫コミックス40巻

 ジャイ子の恋と、妹想いのジャイアンをめぐる物語。
 ジャイ子から片想いの相手の名を聞き出したジャイアンは、「そいつをとっつかまえて『ジャイ子とつきあうか、それとも痛いめにあいたいか』と(かけあってやる)」と無茶なことを言い出す。ジャイ子は、「だから、いいたくなかったのに」と後悔。その後、ジャイアンドラえもんのび太のところへ相談に来て、結局のび太が身がわりマイクを使ってジャイ子に告白させることになる。身がわりマイクを使えば、のび太が喋ったことをそのままジャイ子に喋らせることができるのだ。このときのび太ジャイ子に喋らせたのが「あたし、あんたが好きなのよ。友だちになってくんない?」というセリフだった。この、あまりに単刀直入で味も素っ気もないのび太の言い回しに、ドラえもんは「もう少し、ロマンチックないいかたできないの?」とツッコミを入れる。
 ジャイアンのび太も、ジャイ子の恋の成就を願って尽力するわけだが、ジャイ子の純情な乙女心を理解するだけのデリカシーが足りず、どうも余計なことをやっているとしか思えない。だが、ジャイ子とその片想いの相手・茂手もて夫は、結果的にマンガという共通の趣味で意気投合し親しくなれたため、ジャイアンのび太が行なった余計なお節介は、単に余計なことで終わらずに済んだのだった。



 この話は、2001年に公開された渡辺歩監督の映画『がんばれ!ジャイアン!!』のベースになったものだ。ジャイアンジャイ子の兄妹愛が、〝感動〟と〝笑い〟を強調する大幅なアレンジで映画化された。
 現在アニメ『ドラえもん』でジャイ子の声を演じる山崎バニラさんは、前任のジャイ子ジャイアンの母ちゃん役の青木和代さんの台詞回しを勉強しようと、この『がんばれ!ジャイアン!!』を観たという。
※「山崎バニラの日記」 http://y-vanilla.blog.ocn.ne.jp/vanillas_diary/2005/09/post_b814.html




【アニメ】(ジャイ子の甘い恋物語 泣くなジャイ子よ)


 部屋の窓から青空を眺め溜息をつくジャイ子、そして、青空の下、空き地の土管に寝転がって幸せそうなのび太。そんな両者の対比が導入部を印象的にした。


 ジャイアンジャイ子について「かわいそうで見てられないんだよ」と言うところが、感情がこもっていてよかった。


 ラスト、のび太によって「あたし、あんたが好きなのよ。友達になってくんない?」と告白させられたジャイ子の傷心が、原作よりシリアスに描かれた。告白後、ジャイ子は目に涙を浮かべ、帰宅して机に泣き伏した。のび太がやらかしたことが罪深く感じられた。




●「ジャイ子の新作まんが」


【原作】

初出:「小学五年生」「小学六年生」平成2年8月号同時掲載
単行本:てんとう虫コミックス44巻

 ふだんは威張っていて強気のジャイアンだが、本気で好意を寄せる相手に対し素直に愛情を表現するとなると途端に不器用になって、いつもとは違う趣きの人間味を発揮する。5月19日にアニメ化された「グンニャリジャイアン」では、一目惚れした女の子と友達になりたいのにうまく気持ちを伝えられず悩むジャイアンが描かれたが、本作では、妹のジャイ子を心配して行動しながらその行動が裏目に出てしまうジャイアンの様子を目撃することになる。
 日常ではドラえもんのび太に対し高圧的な態度をとり続けるジャイアン。しかしジャイ子のためとなれば2人に土下座して謝ったりまでして、そういう意外な態度からジャイアンがどれだけ妹想いの兄であるかが判然と浮かび上がる。Aパートの「泣くなジャイ子よ」でも、妹のために何とかしてあげようとするジャイアンの気持ちと行動が話の核となっていて、こうしたジャイアンの妹想いの一面は、『ドラえもん』第1話「未来の国からはるばると」のなかで、すでにその片鱗がうかがえる。ご存じのとおり、「未来の国からはるばると」には、泣きわめくジャイ子のところへ駆けつけたジャイアンが、「だれだ、ジャイ子をなかしたのは」と問う場面がある。



 茂手もて夫主催のマンガ同人誌の締切りが近づき苦しむジャイ子の姿を見たジャイアンは、茂手のところへ行って「しめ切りをのばすか… それとも痛い目にあいたいか」とかけあいに行こうとして、ジャイ子に止められる。この場面は、Aパート「泣くなジャイ子よ」で「ジャイ子とつきあうか、それとも痛いめにあいたいか」と言いに行こうとしたジャイアンの言動と対応している。ジャイアンジャイ子の問題解決のため、まず思い立って実行しようとする方法がこのパターンなのである。



 本作には〝カンヅメカン〟というひみつ道具が出てくる。ここで言う〝カンヅメ〟とは、マンガ家や小説家が執筆に集中するため旅館などの一室に軟禁状態になることだ。藤子・F先生は、マンガ家になって長らくカンヅメを体験したことがなかったそうだが、昭和54年夏、映画『ドラえもん のび太の恐竜』のシナリオを執筆するため自ら志願してカンヅメになった。そのときのF先生の様子を撮った写真が、「月刊コロコロコミック」(昭和54年10月号)のドラえもんカラー新聞で紹介され、当時の私は、椅子の上にあぐらをかいてアイデアを考えるF先生のポーズをたいへん印象深く感じた。今から思うと、本当にあのポーズでアイデアを考えていたのではなく、写真撮影用にああいう格好をしただけだろうが、あの頃の私は、いかにも必至でアイデアを練っているように見えるその姿に心惹かれたのだった。最近の雑誌では、「ぼく、ドラえもん」創刊号(2004年)でも同様の写真をもっとクリアに見ることができる。 
 私が〝カンヅメ〟という言葉を初めて知ったのがいつだったか定かでないが、カンヅメにまつわる最も古くて鮮やかな記憶は、藤子不二雄A先生の『まんが道』を初めて読んだ25年以上前に遡る。締切りの迫った手塚治虫先生が編集者の手配した旅館に連れられていくシーンで〝カンヅメ〟という言葉を目にしたのである。私の中でカンヅメという言葉のイメージは、手塚先生がどこか過酷な場所へ連行されていくような不穏な雰囲気と結びついて成立しているのだった。




【アニメ】(クリスチーネ剛田大先生! ジャイ子の新作マンガ)


 ドラえもんのび太が自宅で観ているテレビ番組は、原作では「オバQ」なのだが、アニメでそのままオバQが使われる可能性は低いと予想された。予想どおりオバQは出てこなかったけれど、今回この場面で登場したのは、なんと、ある意味オバQよりありえないキャラクター〝ガチャ子〟だった。ドラえもんのび太が視聴するテレビ番組のなか(番組内番組)でのこととはいえ、幻のキャラクターと言われるガチャ子の登場はとりあえず画期的である。なにしろガチャ子は、原作マンガ連載初期の5話に登場しただけでその5話は単行本未収録*1、アニメでは日本テレビドラえもん(=旧ドラ)に出てきたのみで*2、その後の『ドラえもん』の歴史では、まったくいなかったことにされてしまったキャラクターなのだ。そんなガチャ子が、今になってアニメ『ドラえもん』のなかで姿を見せたのだから、私は少なからず興奮してしまった。
 ガチャ子は、見た目にはアヒル型のロボットで、ドラえもんと同じくのび太の面倒を見るため野比家に居候する。のび太の面倒を見るといっても、ガチャ子が何か始めるとドラえもんは対抗心を剥き出しにし、周囲の迷惑を顧みないハチャメチャな結果を招くことになる。原作マンガにおいてガチャ子が最後に登場した話「クルパーでんぱのまき」になると、ガチャ子は、何をやっても駄目で皆から馬鹿にされるのび太を相対的に優秀にしようと、のび太以外の人たちに〝クルパーでんぱ〟を発射。ガチャ子の説明によれば「あたまもからだもよわくなるでんぱ」という恐ろしいシロモノである。この電波を浴びた友達も先生もパパもママもみんな、目が互い違いになって鼻水をたらしっぱなし。こんな有様だから、ガチャ子云々は抜いても、「クルパーでんぱのまき」が単行本に収録される可能性はかなり低そうだ。
 ともかく、今回のガチャ子登場には驚いた。



 空き地で子どもたちがサッカーをする場面で、スネ夫ロナウジーニョ気取りだったのが面白かった。ワールドカップが間近に迫っているで、ロナウジーニョは旬のネタだ。



 ラスト、ジャイアンから受けとったジャイ子の原稿を茂手が読む場面は、夕陽の色を帯びた剛田家の玄関先とその周囲の下町っぽい風景から、心地よい情感が漂っていた。Aパートのラスト、茂手とジャイ子が話すところでも同じようなシチュエーションが見られ、この2作品のラストシーンのイメージが重なって良い味わいだった。





※写真は、ロッテクッキーボールチョコのジャイ子人形。左が「ショコラでトレビアン」、右が「虹のビオレッタ」を抱えたバージョン。ロッテクッキーボールチョコのラインナップには、のび太のおばあちゃんやスネツグ、きれいなジャイアンなども含まれていて、マニア心をくすぐった。

*1:ガチャ子が登場した原作マンガ5話の初出誌:「小学一年生」昭和45年5月号、6月号、7月号、11月号、「小学二年生」昭和45年5月号

*2:日本テレビ版『ドラえもん』放送期間:昭和48年4月1日〜9月30日