藤子・F・不二雄大全集第4回配本

 藤子・F・不二雄大全集第4回配本分が、23日(金)に発売になりました。今回は、『ドラえもん』第3巻、『パーマン』第3巻、『キテレツ大百科』第2巻というラインナップです。


ドラえもん』第3巻は、1963年度生まれの読者が小学1年生から6年生にかけて読んだ全72話を収録。幻のキャラクターだったアヒル型ロボット「ガチャ子」が登場するエピソードを全部で4話読むことができます。前の第2巻に「ロボットのガチャ子」という話が収録されたことで、初出以後ずっと単行本未収録だったガチャ子のエピソードがついに陽の目を見たわけですが、今回の第3巻に4話が収録されたことで、ガチャ子のエピソードがすべて単行本で読めるようになったのです。そのうちの「クルパーでんぱ」(「小学一年生」1970年11月号)は、ガチャ子が登場するうえ「クルパーでんぱ」というサブタイトル(ひみつ道具名)であるため、F全集の刊行がアナウンスされるまでは単行本に収録されることから最も遠いと思われていた話の一つでしたが、今回ついに収録が実現しました。しかしながら、サブタイトル(道具名)が「クルパーでんぱ」から「おかしなでんぱ」という拍子抜けのものに改変されてしまっているのです。「おかしなでんぱ」というサブタイトルを見た瞬間、ガクッときました。
 もちろん、この話を単行本で読めるようになったこと自体は喜ばしいのですが、F全集公式サイトのサブタイトルリストにはずっと「クルパーでんぱ」と告知されていましたし、第3巻の帯には「クルパー電波」と記されているわけで、そのつもりで中身を見たら「おかしなでんぱ」に改変されていたのですから、肩すかしをくらった気分になります。F全集の編集部は「クルパーでんぱ」のまま収録しようという考えで編集作業を進めてきたのに、ギリギリになって決定権や発言権を持つ人からストップがかかった、という感じですね。当ブログでは言葉狩り関連の問題は静観していこうという心づもりだったのですが、今回の改変はあまりに無粋さが際立っていると感じたので思わず言及してしまいました。


●追記
 私はこのエントリの本文やコメント欄で「クルパーでんぱ」をひみつ道具名であるかのように書いていますが、厳密にいえば、「クルパーでんぱ」というのは、道具が発する電波の名称であって、道具名そのものではありません。作中にこの道具の名称は出てこないのです。
 そうだとしても、F先生が考案した作中の固有名詞をF先生ご逝去後に改変しているという問題の本質は何も変わりません。



パーマン』は、前の第2巻で「週刊少年サンデー」掲載分が終わったので、この第3巻から小学館の学年別学習誌で発表された話が収録されていくことになります。
「小学三年生」と「小学四年生」で発表された第1話は、パーマンのマスクのデザインが、我々が見慣れたマスクのデザインと違っていて、今回は、そのうちの「小学三年生」版第1話が収録されています。第1話のパーマンマスクのデザインは、第2話から唐突に変更されるのですが、そのあたりのことについて藤子F先生は次のように述べています。

パーマン」の場合は、スーパーヒーロー物をやりたかったんですが、明るく正しいという、スーパーヒーローの主流派を追ってもしかたがないということで、ずっこけスーパーマンを考えたんです。
 それでも、連載の第1回目のコスチュームは、それまでのスーパーヒーローものに近く親しみにくかったんです。原稿を渡した後も気になったので、なんのことわりもなく、2回目から変えてしまったんです。それが今のスタイルなんです。
 ぼくたちのつくったキャラクターで、わりとヒットしたものには、意識的に幼児性というか、幼児のイメージを取り入れたものが多いんです。「オバQ」の場合でいうと、オバQの服はベビー服をヒントにしましたし、「ドラえもん」の場合は前にもかいたように、プラスチック製の幼児玩具をヒントにしています。
パーマン」の人気の秘密は、あのマスクにあります。幼児の顔を見るとわかりますが、上くちびるがちょっぴり上向いています。その特徴をうまくマスクに取り入れられたことが、パーマンを親しみやすくさせ、作品を成功させた原因です。(コロタン文庫『藤子不二雄まんが全百科』小学館、1980年)

 藤子・F・不二雄大全集パーマン』第1巻の「あとがきにかえて」に、同趣旨のF先生の発言が再録されていますが、それはビッグ・コロタン『藤子まんがヒーロー全員集合』から再録したものなので、ここでは、コロタン文庫『藤子不二雄まんが全百科』での発言を紹介しました。

 F先生は、パーマンのマスクに幼児性を注入したことが作品の成功につながった、と自作を分析しています。パーマンのマスクに注がれた幼児性とは「マスクの先が幼児の唇のようにまくれあがっている」というものですが、唇がまくれあがっているといえば、藤子マンガの登場人物は上唇がまくれあがって描かれているものが多いのです。その特徴は、F先生の作品にもA先生の作品にも顕著に見られます。藤子キャラたちの上唇のあのクルンとしたまくれあがり方は、たしかにたいへん魅力的です。あのちょっとした唇の表現が、親しみやあたたかみ、やわらかみなどを感じさせてくれます。あの唇を見るだけで、「藤子マンガらしいなあ」と実感できるほどです(笑)


キテレツ大百科』はこの第2巻で完結になるので、F全集で初めて完結巻が出たことになります。
大竹宏さん所蔵のカラー色紙や未使用のてんとう虫コミックス総扉用イラストといった貴重な画を見ることができます。