「ぐうたらの日」「ネコののび太いりませんか」

 6月9日(金)放送のアニメ『ドラえもん』は、キャラクター大分析シリーズ第6弾「のび太DAY!」だった。けれど私は、9日の夜に家を出発し、10日、11日と東京に滞在したため、9日放送分の『ドラえもん』をちゃんと観ることができたのは14日になってから、ということなってしまった。



●「ぐうたらの日」
【原作】

初出:「小学五年生」昭和50年6月号
単行本:てんとう虫コミックス14巻などに収録

 一年のうちで6月だけが日曜のほかに一日も休みがない、というのび太の訴えに、子どもの頃の私は、「そう言われてみればそうだなあ」と感心し、深々と共感したものだ。当時は学校週休二日の制度はなく、6月は本当に日曜しか休みがなかった。日曜以外にどれだけ休日があるかという尺度で評価すれば、6月はのび太の言うとおり、まさに「一年をつうじて、もっともふゆかいな」月ということになる。
 そこでのび太は、ドラえもんが出してくれた「日本標準カレンダー」を使って6月に祝日を設けるのだが、その祝日を「勤労感謝の日があるんだから」との理由で「ぐうたら感謝の日」と決めてしまう。のび太のその発想が天才的というか馬鹿げているというか、作中のドラえもんが言うように、実におもしろいのだ。そしてまた、「ぐうたら感謝の日」とは、ぐうたら道を邁進するのび太にこそ最高にふさわしい祝日であり、その日を迎えた国民は、ぐうたら精神に感謝するのみならず、その精神を日頃から実践するのび太をも敬愛し祝福すべきではないか、と思いたくなる。



 のび太ドラえもんに「底ぬけにあそぼう」と声をかけるコマがある。私は、この「底ぬけにあそぼう」という表現をたいそう気持ちよく感じる。新たに祝日ができたことへの手放しの喜びと、そのありがたい祝日を使ってとことんまで遊び尽くしたいという旺盛な意欲が短い言葉で伝わってきて、私の心までもが明るく無邪気に解放されていくような感覚を味わえるのだ。



【アニメ】(6月に祝日を作ろう!! ぐうたらの日)


・6月のカレンダーが登場する前に、祝日の多い5月のカレンダーが映し出された。さりげないカットだったが、6月に祝日がないという事実が絵的に強調されることになった。


・「底ぬけにあそぼう」という、私のお気に入りの原作セリフが、アニメでも「よし! 今日は一日、底ぬけに遊ぶぞー!」と元気よく発せられて、気分は爽快。


・友達が皆ぐうたらしてしまっている状況に観念したのび太ドラえもんは、自分らもダラッとすごそうと決めたとたん、一気に力を抜いて前かがみの姿勢になる。その瞬間が微笑を誘った。


ドラえもんが自らしっぽを引っぱってスイッチを切る場面は、「ドラえもんはロボットなんだなあ」と改めて実感させる。


・野良猫から魚を奪ったのび太は、空き地で焚き火をしてその魚を焼き始める。そこへ空腹でいら立つジャイアンがやってきて、のび太から魚を奪いとってしまう。この場面、原作のジャイアンのび太を追い払うためのび太の尻に火をつけるという暴挙に出るが、さすがにアニメでこの暴挙は描かれず、のび太ジャイアンのほうへ体を向けて魚をかばっているうちにのび太の尻に火がつくという流れになった。のび太の尻に火がつくことに変わりはないのだが、故意か事故かでかなり印象が変化する。




●「ネコののび太いりませんか」
【原作】

初出:「小学二年生」平成2年4月号
単行本:てんとう虫コミックス43巻などに収録

 本作は「のび太DAY!」のなかで放送される話として選ばれたわけだが、これを読んでみると、のび太よりむしろのび太のママの性格が際立っておもしろく描かれている。
 ママは、「家にネコがいると思うだけでおちつけないわ」と言うほど重度の動物嫌いで、ネコに対する反応・反発がいちいち凄まじい。なのに、いったんそのネコを好きになってしまうと、今度はネコがいなくなったショックで寝込んでしまって、それを見たドラえもんが指摘するように、ママの性格はいちいち極端なのである。
 冒頭場面では、捨てネコを家で買えない理由として、ジャイアンが「イヌをかってるから」、スネ夫が「血とう書つきのネコがいるもの」、しずちゃんが「うちにはカナリヤがいるわ」と述べ、それに続くコマでのび太が「うちにはママがいるし」と発言することで、ママの存在がオチに使われている。この場面でも、さりげなくではあるがママの個性が示されているわけだ。
 このように、ママの極端な性格がたっぷり描かれた本作が、「のび太DAY!」にふさわしいものかどうかはやや疑問が残る。捨てられたネコを放置してはおけないのび太のやさしさが垣間見られるという点ではふさわしいのかもしれないが。



 本作に登場する捨てネコのクロは、動物嫌いのママが惚れ込んだだけあって、けなげで人懐っこく、とてもチャーミングだ。てんとう虫コミックス43巻の表紙でもその姿を拝むことができて、実にかわいらしい。
 私の家でも昔、黒い子猫を飼っていたことがある。それ以前から家にいた雌の三毛猫が産んだ赤ちゃんを、あまりにもベタな名前だけれどクロと名付けてかわいがっていたのだ。しかし、ある春の日、とつぜん行方不明になり、それっきりになってしまった。『ドラえもん』のクロを見ていると、家で飼っていたクロのことが懐かしく切なく思い出される。



【アニメ】(ネコネココネコネココネコ ネコののび太いりませんか)


のび太の「うちにはママがいるし」という原作セリフが、アニメでは「うちはママが動物嫌いだし」と、やや説明的なセリフに改変された。視聴者にママの動物嫌いを伝達する必要を感じての改変だろうが、この場面は、セリフのうえでイヌとネコとカナリヤとママが同列で扱われているのが可笑しかったのだから、説明の言葉を少し加えたおかげでおもしろみが減退した。


・話の前半で、ドラえもんが弾け気味だった。「ママに動物とつきあう楽しさを教えてあげたらいいと思うんだ」などとのび太から聞かされたとき、「えら〜い!」と言ってお尻を宙に浮かせしっぽをふってみせたり、口の中にネコを放り込まれたとき、ネコがママに見つからないよう顔をグンニャリと変形させてみたり、ちょっと変わった動きを見せていた。


・ママの動きや喋りもけっこう弾けていて楽しかった。ネコを見て大胆に驚いたり、ネコを追いかけまわしたり。つけっぱなしのアイロンから煙が立ちのぼるのを見たママの表情と悲鳴は最高だった。
 訪問客からネコの名前を訊かれ、しぶしぶ「ク、クロ…」と答えたり、応接間でそのお客さんと歓談中、足にまとわりついてくるネコを払いのけようとしたりするところからも、ママのネコ嫌いがにじみ出ていた。





※情報
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