NIN×NIN香取慎吾さんインタビュー

 映画『NIN×NIN 忍者ハットリくん THE MOVIE』関連の記事が載った雑誌を、現時点で10数冊購入した。そのうちの8割くらいには、主演の香取慎吾さんのインタビューが掲載されていて、香取慎吾さんの性格や考え方をいくぶんかは知ることができた。その結果、彼に好感をいだくようになった。
 映画の公開前に読んだ雑誌が多いので、ハットリくんを演じる人物に好感をいだいた状態で映画を観ることができたわけだ。


 香取さんのインタビューのなかでまず気を惹かれたのが、ハットリくんの頬の渦巻きにまつわるくだりだ。
日経エンタテインメント! MOVIE DX」9月号増刊で、「作品に対して主張したことはありますか」と質問された香取さんは、こう答えている。

 ほっぺたの渦巻きです。最後ぎりぎりのときに、監督が「やっぱりはずそう」と言い出して。でも僕の中では、渦巻きがついていない『ハットリくん』はありえないんです。結局、監督があきらめてくれました。

 香取さんの渦巻きへのこだわりに拍手を送りたい。主題歌でも歌われている通り、頬の渦巻きはハットリくんの重要なトレードマークである。実写映画なのだから、顔形や背格好が原作やアニメと違ってしまうのは仕方がない。そんな場合、ハットリくんとその他の普通の忍者を区別する最高の印が頬の渦巻きなのだ。
 原作やアニメと大きく掛け離れてしまった映画だが、香取さんが頬の渦巻きという一線を守ってくれたおかげで、最低限のハットリくんらしさが保たれたような気がする。


 それから、「野性時代」9月号のこんな発言も、私の心に響いた。その部分を引用してみる。

僕にとってハットリくんって、日本の漫画のヒーローの中でもちょっと特別な存在だったんですよ。いかにも藤子不二雄先生らしい世界観が好きだったし、それ以上にハットリくんが人間として好きだった。ハットリくんは修行中の身だから、なんでもカッコよくできちゃうんじゃなしに、けっこうヘマをする。で、ギリギリの線で物事を解決したりするんだけど、その完璧じゃないところと、それなのにヒーローやってるところが好きで。やっぱり、カッコいい男の人とかキレイな女の人とか、なんでもできちゃう完璧な人よりどっかうまくいかないところを持ってる人のほうが人間味があるし、魅力を感じますね。

 これは、二人の藤子不二雄先生と共通する感覚である。藤子先生は、インタビューや対談などで、〝自分は完璧な人には興味がない。どこか劣った人、ダメなところの多い人、悪い面のある人、そんな人に感情移入するし、そんな人をマンガで描いている〟といった発言を何度かしている。具体例を示そう。

藤子・F・不二雄先生の発言:「キネマ旬報」1990年3月下旬号
 のび太というのは、アンチ・ヒーローの典型ですね。なまけ者で臆病で、そういうのび太的な部分というのは程度の差こそあれ誰もが抱え込んでいるんじゃないかな。僕はやっぱり、のび太は駄目みたいな、ただの笑いの種にして突っ放すというのはできない。(中略)模範的な少年にも、堕ちるだけ堕ちて底辺であぐらをかいているようなタイプにも興味を持ちませんし。


 ●藤子不二雄A先生の発言:「週刊宝石」1993年11月11日・18日合併号
すごく頭がいいとか、みんなの模範になるようなキャラクターは描きたくないんです。人間って、弱さもあるから面白いんでね。

 このように、藤子先生と一致する人間観をもった香取さんにハットリくんを演じてもらえたのは、本当に幸いだったと思う。これで映画そのものがもう少し原作に寄り添った内容であったなら、もっと幸せだったのだが…


 そのほか、香取さんのインタビューのなかで『ハットリくん』とは直接関係ないものの印象に残った言葉を拾い上げてみる。

 僕自身も自分を振り返ると、SMAPに対する思いはけっこう熱いものだなって思うんですよ。4人のメンバーのことはそれぞれ好きだし、大事だし、今、自分が香取慎吾として一人でいろんな仕事をしてても、気持ちの底にはいつもSMAPがあって。(「野性時代」9月号)
                                

 ヒーローを演じるのは、もちろん好きです。でも、この次映画に出るとしたら、ヒーローなんていなくて、暗くて、観た人の半分くらいが観終えた後、「ああ、気持ち悪かった」と思うような(笑)、そんなグレーな映画に出てみたい。(「ビッグコミックスピリッツ」9月6日号)


 だからといって、ボクは俳優じゃない。歌も歌うけど歌手ではないし、コントもするけどコメディアンでもない……。ボクがいつも思っているのは、自分はSMAPだということ。エンターティナーというのが近いかな……。(「同上」)

 香取さんの芸能活動は、表面的な部分だけでなく、精神的に深いところでも「SMAP」という存在がベースになっているようだ。香取さんにとってSMAPは、帰るべき故郷であり、旅立つための拠点でもあるのだろう。
 香取さんが出演したいと望んでいる「グレーな映画」も、いつか実現したらおもしろそうだ。