『アニメーション監督 原恵一』

『アニメーション監督 原恵一』原恵一浜野保樹編/晶文社/2005年07月30日初版/2300円+税)をようやく購入した。


 原恵一氏といえば、アニメ『クレヨンしんちゃん』の監督として名を馳せていて、とくに劇場版クレヨンしんちゃん『嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』『嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』などは高い評価を得ている。原氏はまた、いくつものシンエイ動画藤子アニメにも携わっていて、テレビシリーズでいうと、『怪物くん』(制作進行)、『ドラえもん』(演出)、『エスパー魔美』(チーフディレクター・演出)、『チンプイ』(絵コンテ・演出)、『21エモン』(チーフディレクター)、劇場版では『エスパー魔美 星空のダンシングドール』(監督)、『ドラミちゃん アララ少年山賊団』(監督)、『ドラミちゃん ハロー恐竜キッズ!!』(監督)といった作品が挙げられる。


 本書『アニメーション監督 原恵一』は、そんな原氏のこれまでの仕事を、ロングインタビュー、対談、文章原稿の再録、絵コンテ、アイデアラフ、年表、文献・発言リスト、さらには関係者・識者によるインタビュー、エッセイ、原恵一論といった多角的な方法で紹介・検証した充実の一冊である。
 私は、藤子アニメの製作舞台裏話がいろいろ出てくるロングインタビューが一番おもしろかった。なかでもとくに興味深く感じた発言を引用したい。


会社入る前は、シンエイ動画制作のアニメの『ドラえもん』より、原作のほうが絶対面白いと思っていました。なんとなく藤子作品ではなくしようとしているような雰囲気を感じていました。

「なんとなく藤子作品ではなくしようとしているような雰囲気」って、その感覚はよくわかる。プロのアニメーターになる前から藤子マンガが好きだったと言う原氏の言葉が単なるリップサービスではないことが、こういう発言から自然とうかがえる。


芝山(努)さんの絵コンテを初めて見たときに、すごく驚きました。(略) 芝山さんの劇場版の『ドラえもん』の絵コンテを見てびっくりしました。めちゃめちゃ面白かった。今の自分にはこんな面白い絵コンテは絶対に描けないと恐れ入りました。それが八四年に公開される『ドラえもん のび太の魔界大冒険』です。

 原氏は、芝山監督の絵コンテの面白さ・うまさに驚いたと言っている。たしかに芝山監督の絵コンテの素晴らしさには定評があって、『ドラえもん のび太とふしぎ風使い』のものが一冊の単行本にまとめられたほど完成度が高い。本来、絵コンテとはアニメの制作過程における設計図のようなもので、一般の人々への公開を前提には作られていないが、芝山監督の絵コンテは、それじたいが作品として成立するくらい精密に描かれているのだ。


(アニメ『エスパー魔美』は)そのうち一つの番組として(『藤子不二雄ワイド』枠から)独立して、(視聴率が)ゆるく下降していきました。途中もう一山あがるということはなかった。「もうちょっとおしゃれにできないか」とか「もっと派手な要素が入った方がいいんじゃないか」とか、地味な作りを指摘されましたが、みっともないリニューアルはしたくないと思っていました。

 アニメ『エスパー魔美』は、原作のよさを丁寧に引き出しながらアニメ作品として上質に作られていて、ファンのあいだでも評価が高いが、『藤子不二雄ワイド』枠から独立して単独放送になってから、視聴率がゆるやかに下降していったという話を読んで、なんだか少し寂しい気持ちになった。番組が終わる頃の視聴率は一桁だったそうである。視聴率を上げるため「もっとおしゃれに」「もっと派手に」と要求されても、みっともないリニューアルはしたくないと、あくまでも誠実な作品作りに徹した原氏には、改めて敬服する。


映画の『星空のダンシングドール』は、藤子先生がこのイメージでやったらどうですかっていう映画を出してきたのです。こんなのを作って欲しいと、藤子先生が『リリー』(一九五三年)のレーザーディスクを貸してくれて、シナリオの人やプロデューサーたちと一緒に見ました。

『リリー』という映画は観たことがない。いつか機会があれば観てみたい。


ドラえもん』はある時期までオリジナルは一切作っていません。最初に帯(平日に毎日OA)でやっていた時に、何本かオリジナルを作ったらしいのですが、そうしたら藤子さんからNGが出て、「オリジナルは作らないで欲しい」と。僕が外れてから原作の新作がないので、リメイクしながら、オリジナルも許してもらい、オリジナル作品も作った時期があります。

 この発言を読むと、藤子・F・不二雄先生は、アニメ『ドラえもん』でオリジナル作品を作ってほしくないと考えていたことがわかる。ということは、この4月のアニメ『ドラえもん』のリニューアルは、原作マンガを尊重しようという方向性のものだったので、藤子・F先生が望んでいたかたちにアニメ『ドラえもん』を戻す改革だった、と解釈できそうだ。