ミノタウロスの迷宮は実在しない!?

 9月4日の朝、こんなニュースを見つけました。


ミノタウロスの迷宮、実在せず=米大研究者が最新調査で「結論」】
 9/4(火) 5:14配信 時事通信
 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180904-00000002-jij-eurp

ギリシャ神話で牛頭人身の怪物ミノタウロスが閉じ込められたとされる迷宮は、実在しない―。
米大研究者が最新調査でこう結論付け、米考古学専門誌に論文が掲載された。英紙タイムズがこのほど報じた。
ギリシャ神話では、クレタ島のミノス王が自らの王妃と雄牛の間に生まれた凶暴なミノタウロスを迷宮に閉じ込めたとされる。古代ミノア文明の存在を明らかにした英考古学者アーサー・エバンズが1900年、クレタ島で複雑な構造を持つクノッソス宮殿遺跡を発掘し、「おそらく実在した迷宮の跡地だ」と推定して以来、考古学者や歴史ファンの間で実在するかどうかをめぐり論争を呼んできた。
同島の古代都市遺跡「ゴルティス」の近くの迷宮のような洞窟を有力候補に挙げる声もあった。
しかし、米シンシナティ大学の考古学者アントニス・コツォナス氏は論文で、いずれの遺跡でも文献学上も考古学上も迷宮の跡地とする根拠が見当たらず、「神話は特定の場所や記念碑とは結び付いていないようだ」と結論付けた。特にクノッソスでは、古代ギリシャ人が「迷宮」と信じていた場合には見つかるはずの儀式芸術の痕跡がなかったという。 


 「ミノタウロス」という語を見ると反射的にF先生の代表的異色短編『ミノタウロスの皿』を思い出す私ですが、今回のニュースで「実在しない」と報じられたクレタ島の迷宮は『T・Pぼん』の「暗黒の大迷宮」の主舞台になっていたりもします。
 「暗黒の大迷宮」は、主人公のぼんが死んでしまう…というショッキングなお話です。『T・Pぼん』は、主人公名が作品タイトルになっていますから、その作品の主人公が死んでしまうなんて作品そのものの息の根が止められるようなものですが、いったん死んだぼんは運よく(都合よく?)生き返ってくれました。ぼんのタイムボートが逆流時間を撒き散らしてくれたのです。
 逆流時間が撒かれると、時間が逆戻りします。ぼんが死ぬ前の時間まで逆戻りしたおかげで、彼の命が助かったわけです。
 とはいえ、タイムボートはぼんの命を助けようと考えて逆流時間を撒き散らしたわけではありません。ぼんがタイムボートの点検整備を怠ったせいで不具合が生じ、逆流時間が漏れやすくなっていたのです。タイムボートの故障がたまたまぼんを救う結果となったわけです。ぼん自身も言ってますが、タイムボートの手入れを怠けたおかげで結果的にぼんの命は助かったのでした(笑)
 ぼんがタイムボートの点検整備を怠ったことに対し、先輩T・Pのリームがお説教する場面が何だかほほえましくて好きです。リームのお説教はこうでした。
「トパチャックのキャプランチがまっ黒けじゃないの。これじゃ、逆流時間がもれるの当たりまえだわ。点検整備をおこたるなんてT・Pの恥よ。そもそもあんたは……」
 T・Pの恥よ、だなんてなかなか厳しいお説教ですね。そんなリームの懇々としたお説教を横で聞いていた超生物ブヨヨンは、いきなり笑い出します。「ヨクイウヨ。自分ガイツモナマケテ、ショッチュウ故障サセテルクセニ」と。
 ブヨヨンに笑われて頬を赤らめるリームが実にかわいいのです。
 で、さらにケッサクなのは、『T・Pぼん』の記念すべき第1話「消されてたまるか」のなかに、まさにブヨヨンが言ったとおりの場面があることです。第1話でリームは自分のタイムボートを見て「あーあ、トパチャックのキャプランチがまっ黒によごれてる。だから逆流時間がもれたんだわ」とたしかに言っているのです。そして、それを聞いたブヨヨンが「点検整備ヲナマケルカラ、ソンナコトニナル」と注意しているのですからますます面白い!「暗黒の大迷宮」の作中でぼんがやらかしたことを、リームは第1話の作中でやからしていたのです。 
 リームは、そんな自分を棚に上げてぼんを説教していたわけです。その棚上げをボヨヨンに笑われながら指摘されてしまったのですから、リームも立場がありませんね(笑)そんな、似た者師弟のようなほほえましい関係が垣間見られるのが愉快だなあと思うのです。
 それと、「トパチャックのキャプランチ」という語句がいいですね。F先生っぽい言語センスがにじんでいて好きです。「トパチャックのキャプランチ」とはタイムボートの部位・部品名と思われるのですが、それが難解な専門用語っぽくて未来の科学技術っぽくもあり、でもナンセンスでテキトーな響きも感じられて、妙に楽しいのです。