ヴェスヴィオ・チャレンジ

 2月6日、こんなニュースに遭遇しました。

ポンペイヘルクラネウムなど古代ローマの都市を壊滅させた西暦79年の大噴火で知られています。そんなヴェスヴィオ火山の噴火で黒焦げになった巻物をAIの力で解読するコンテスト「ヴェスヴィオ・チャレンジ」の優勝チームが発表され、巻物には当時の哲学者が論じた「喜びの源」についての未発表のテキストが含まれていることが明らかとなりました。

https://gigazine.net/news/20240206-vesuvius-challenge-ai-read-damaged-scroll/

 

 ヴェスヴィオ・チャレンジですか!そんな興味をそそられるコンテストが行なわれていたのですね。

 噴火によって埋もれ炭化した巻物を最新の技術で解読するというところにロマンを感じますし、それをコンテストにするというのもおもしろいなと思います。

 

 こちらは昨年3月の記事です。

ヴェスヴィオ火山の噴火で灰に埋もれた古代ローマの都市から出土した古文書を、テクノロジーの力で解読するコンテスト「Vesuvius Challenge(ヴェスヴィオ・チャレンジ)」が2023年3月15日にスタートしました。2023年中に解読に成功したチームには、賞金25万ドル(約3300万円)が授与されます。

https://gigazine.net/news/20230317-vesuvius-challenge/

 ネット記事でこう報じられていたわけですが、私は今回の「優勝チーム発表される」のニュースでコンテストの存在を初めて知りました。

 非常に単純化して言えば「西暦79年のヴェスヴィオ火山大噴火で埋もれたポンペイ近郊の邸宅で発掘された、炭化したパピルスの巻物の文字を解読するコンテスト」のようです。

 

 西暦79年のヴェスヴィオ火山大噴火といえば『T・Pぼん』の「神の怒り」で描かれている事象だよなあ、と条件反射のように藤子作品と結びつけてしまう私です。

 合わせて、2016年名古屋市博物館で開催された「世界遺産 ポンペイの壁画展」(7/23~9/25)に行ったときのことも思い出しました。

 そこで、今さらながら、その「世界遺産 ポンペイの壁画展」のレポートをざっと記しておこうと思います。

 

 ヴェスヴィオ火山の大噴火によって火砕流や火山灰に飲み込まれ、街全体が滅亡したポンペイおよびその周辺都市。そんな悲劇があったがゆえに、皮肉にも、およそ2000年も昔の街の区画や壁画が当時の姿を残して保存されることなりました。

 ゲーテは「この厄災ほど後世の人に歓迎されたものはない」と語っているそうです。

 当時ポンペイに住んでいた人々からしたら、ヴェスヴィオ火山の噴火は恐ろしく絶望的で悲惨な厄災でしかなく、ゲーテの言葉を聞いたら激怒するでしょうが、2000年も前に描かれた壁画の鮮やかな色彩と見上げるような大きさを目の前にすると、なんだかゲーテの言葉も理解したくなってきます。

 

 展示の順路は、

 I 建築と風景

 II 日常の生活

 III 神話

 IV 神々と信仰

 という構成でした。

 

 ポンペイの壁画は、主に室内装飾を目的に描かれたもので、著名な芸術家ではなく、複数の職人の分担作業で生み出されました。それだけに、当時の人々が好んだ画題が如実に表れています。なかでも、ギリシア神話人気の高さが図抜けている印象です。ギリシア神話の神々や英雄を描いた壁画が多く見られるのです。

 同展を見に行く数日前に私が行なった講演「ドラえもんから広がる読書の世界」でちょうどギリシア神話の話を少し取り上げたばかりとあって、個人的にタイムリーな展示でした。その講演で紹介した英雄ペルセウスを描いた壁画も展示されていました。

 

 藤子・F・不二雄作品でギリシア神話を題材にしていると言えば、真っ先に『T・Pぼん』が思い浮かびます。「暗黒の大迷宮」「トロイが亡びた日」といったエピソードがギリシア神話をモチーフにしているのです。

 「ポンペイの壁画展」で展示された壁画のなかには、「暗黒の大迷宮」で言及されたミノタウロスや、「トロイが亡びた日」に出てくるカサンドラ王女を描いた作品もありました。(ミノタウロスは、藤子F先生の異色短編の嚆矢『ミノタウロスの皿』のイメージ元にもなっています)

 

 ポンペイの壁画のなかで最もよく描かれた人気トップのキャラクターはディオニュソスです。ディオニュソスは酒(ぶどう酒)の神さま。ポンペイはぶどう酒で有名な都市だったので、ディオニュソス信仰が熱心だったのです。

 

 ギリシア神話以外のモチーフも、いろいろと展示されていました。

 順路の最初「建築と風景」では、遠近法などを使った騙し絵的な舞台建築の絵に見とれました。壁画を描くさいに使用された画材も展示されていて、興味をひかれました。

 

 次の「日常の生活」という章では、「小鳥」とか「コブラアオサギ」のような生物を描いた絵が印象的。アオサギコブラだけじゃなくトカゲとも戦っていました。

 

 選挙広告用に描かれた壁画もおもしろかった。さすがは古代ローマ! 2000年も前にすでに選挙制度があったんですねえ。選挙制度があったという知識はどこかで聞いたことがあっても、こうして選挙の名残の現物を前にすると感覚が違います。「ほんとうに選挙をやってたんだなあ」と実感をともなって観ることができるのです。