コロコロ初代編集長が語るドラえもん人気の理由

 まんが専門誌「FUSION PRODUCT(ふゅーじょん ぷろだくと)」1981年9月号に、当時「コロコロコミック」編集長だった千葉和治氏と、子供調査研究所の高山英男氏による「少年まんがはどこへいったか」という対談が載っている。
 この雑誌が出た当時は、アニメ『ドラえもん』と、1980年9月からスタートした『怪物くん』が放送中、さらに1981年9月28日から『忍者ハットリくん』が始まろうとしていて、『ドラえもん』単独のブームが、『ドラえもん』以外の藤子作品も加えた藤子不二雄ブームへと広がりを見せかけているところだった。そうした状況の中で、「コロコロコミック」はまさにドラえもんブーム・藤子不二雄ブームの発信源であり本拠地の役割を果たしていたのである。


 千葉和治氏と高山英男氏の対談の中に、千葉氏がドラえもん人気の理由について語るくだりがあり、ドラえもんブーム真っ只中でのコロコロ現役編集長の発言ということもあって、興味深く感じた。千葉氏はドラえもん人気の理由を「一言では言えない」としながら次のように述べている。

藤子不二雄自選集」というのをつくりましたけれど、ジャンルを、SFの世界、ナンセンスの世界、風刺の世界、夢と冒険の世界と分けたんですが、実際今まで描かれた何百という「ドラえもん」のエピソードを分けようと思ったら、ものすごい難しいんですね。ということは、あの作品の一つ一つにSF的要素、ナンセンスの要素、風刺の要素…というのが入り混じっているんですよね。
               (略)
 それと、これは非常に誤解されてる部分だと思うんですけれど、あのまんがはいい意味での〝毒〟をもってると思うのです。意外性とか毒とか、麻薬的な部分をね。ところが、藤子先生のあの独特な画柄と、何十年も子供まんがをやってこられたことによるストーリーや構成の巧みさで、毒気がオブラートに包まれている。そのオブラートに包まれたものを見て、親や教育関係者が優良まんがだと見るわけです。ところが、子供というのは僕は本当にすばらしいものを見抜く力があって、本質をちゃんと見ているんじゃないかと思う。でないと、あんなに人気がでたりはしないと思うんですよね。

 私は、千葉氏の『ドラえもん』観におおむね賛同できるし、実際に『ドラえもん』のそういった部分に魅力を感じてきた。
 この4月から始まるリニューアル『ドラえもん』では、千葉氏が述べた〝SF的要素、ナンセンスの要素、風刺の要素などが入り混じっている〟〝意外性とか毒とか、麻薬的な部分をもっている〟といった『ドラえもん』の魅力を忘れずに表現していってほしいと思う。


 千葉氏と高山氏の対談では、ほかにこんなやりとりが印象的だった。

高山:先程、藤子さんを連れてきたのは冷え切った世代を呼びもどすためだとおっしゃったけれど、確かに藤子さんがいなかったら小学生のまんがは80年代には成立しなかったろうと思います。ただ、この間も冗談みたいに言ってたんだけれど、なぜ藤子不二雄にばかり稼がせるんだ!(笑)
千葉:結局ですね、成立の過程では藤子さんを教祖にかつぎあげたんですけれど、「コロコロ」が創刊されて5年くらいですか、その5年間にやったのは子供まんがの描き手を育ててるんです。


「なぜ藤子不二雄にばかり稼がせるんだ」とか「藤子さんを教祖にかつぎあげた」といった言い方から、当時の藤子不二雄人気の凄まじさがうかがええる。