「タイムふろしき」「タンポポ空を行く」放送

 本日5月13日(金)、『わさドラ』5回めが放送された。


●「タイムふろしき」*1


ドラえもん』には、科学のおもしろさをさらりと伝えてくれる話がいくつもあって、この「タイムふろしき」は、そうした要素をもった話のうちの、初期の傑作であると思う。
 タイムふろしきを物にかぶせると、その物は時間を遡って過去の状態へ戻り、裏返しにかぶせると、未来の状態へ変貌してしまう。
 この作品では、そんなタイムふろしきの力によって、壊れかけのテレビが新品になったり、卵がひよこに孵ったり、小学生のジャイアンが赤ん坊と化したり、ワニ皮のバッグが本物の生きたワニに戻ったりする。そして、それらの描写は主に、笑いを生み出すギャグとして機能している。
 

 そのように「タイムふろしき」では、時間の観念、生物の生長による外見の変化、製品の原材料の形態といった事象がネタに使われているわけだが、こうした種々のネタは、ギャグとしてだけでなく、物理や生物、化学といった自然科学の基礎知識をおもしろく提示することで、読者の内面に自然科学へのプリミティブな関心と驚きを呼び起こす作用も併せ持っているのではないか、と私は感じるのだ。


 今日のアニメでとくに注目したのは、まず、冒頭の、テレビの画像が乱れるシーンである。このテレビに映っている番組が、原作では、長髪で髭をはやした歌手らしき男がギターを弾きながら歌っているというものだったが、さすがにそのままアニメになることはないだろうと思っていた。
 実際に観てみると、カッコいい正義の味方が悪者と戦うヒーロー番組に変わっていた。この正義の味方が悪者に向かって名を名乗るのだが、それが落語の「寿限無」に出てくるあのやたらと長ったらしい名前だったので、これはもしや落語好きの藤子・F・不二雄先生を意識したネタなのでは、と思え、好印象だった。


 画像が乱れ映らなくなったテレビを、ママが空手チョップ一発で直し、「ここんとこをやく60度の角度でなぐるのがこつよ」と言う場面は、アニメでもちゃんとやってくれた。アニメでは、テレビを直したことで調子に乗ったママが、壊れかけの洗濯機も直そうとチョップを落とし、結局その洗濯機を壊してしまう、というふうに話が進展していき、それはそれで愉快だった。

 
 原作のスネ夫のセリフ「あのばかやろう。」「まぬけの、ウスノロの、よくばりの、トーヘンボク。」は、完全にカットされていた。こうした罵倒語の使い方も、藤子・F先生の落語好きから来ているものなので、カットしてほしくないポイントである。


 ジャイアンが頭にひよこを乗せて登場する場面があるが、その姿が画面に映った瞬間、ちょっと笑ってしまった。ジャイアンが頭にひよこを乗せるというのは、アニメのオリジナルだ。



●「タンポポ空を行く」*2


「タイムふろしき」が、タイムふろしきによって巻き起こる珍騒動を描いたギャグ度の高い作品だったのに対し、こちらは、童話的なファンタジーの世界と、叙情的で心あたたまるエピソードが調和した、ギャグ度の低い作品である。


 この作品でドラえもんは、ファンタグラスという秘密道具を出す。
 そのファンタグラスを眼鏡のように顔にかけると、それをかけた人は、身のまわりの動植物たちが人間のように表情をもち言葉をしゃべっている、と感じるようになる。そして、その動植物たちと会話ができるようにもなる。
 そんな、擬人化した動植物たちとコミュニケーションが取れる童話的な世界を、擬似的に体験させてくれる道具が、ファンタグラスなのだ。


 ファンタグラスをかけたのび太は、自分が庭に植えたタンポポと親しくなり、そのうち、嫌なことの多い現実から逃避するように、そのタンポポとの交流に魅惑されていく。のび太は、ママやドラえもんの心配をよそに、生身の人間と接するのを忌避し、童話的な世界のタンポポとの会話にのめりこんでいったのである。
 ファンタグラスをかけることで聞こえてくる動植物の言葉というのは、実は、ファンタグラスをかけたその人が心の底で思っていることの投影なので、のび太タンポポという他者と会話しているつもりでありながら、本当は自分自身の内なる心と会話していたのである。
 つまり、のび太タンポポの会話は、客観的に見ればのび太の独り言であり、極めて閉鎖的な行為だったわけである。


 やがて、タンポポの白い綿帽子、すなわちタンポポの子どもたちが空へ旅立つ時季が訪れる。多くの子どもたちが広い世界へ旅立っていく中、ひとりだけ「いつまでもママといるんだあ」とママタンポポから離れるのを怖がる子どもがいた。その意気地なしの子タンポポも、ママがママの親から離れたときの希望に満ちた話を聞き、ようやくママからの独立を決意して空へと飛び立った。のび太はその瞬間、タケコプタ―で子タンポポを追いかけ、言葉を交わし、そして別れた。
 そういう過程を経ることで、のび太は再び、外の世界へ意識を向け、生身の友達との遊びに加わろうと決意したのだった。
 ここでのび太が見聞きたタンポポ親子のやりとりも、のび太自身が心の底で思っていたことの現れだから、のび太は、タンポポ親子の姿を通じて自分の心の深いところと向かい合い、そうすることで自ら外の世界へ踏み出す勇気を取り戻した、ということになるだろう。


 今日のアニメでは、タンポポのママが子どもに自分の体験談を語って聞かせるところや、ママから旅立ったタンポポの子どもとのび太が言葉を交わすシーンが、バックの音楽と相俟って、心に沁みた。



●ミニシアター
 ミニシアターは今回で3話め。「よいこ」1971年2月号で発表されたサブタイトルなしの作品をアニメ化している。この原作は単行本未収録で、全部で4ページ(9コマ)の話である。
 アニメは、秘密道具のなわが、馬、ヘビ、電車と順番に変わっていくところなど、ほぼ原作通りの展開と構図だったが、絵に関しては実験性や遊びの精神に富んでいて、これまでに放送されたミニシアター3話が、それぞれまるで違う絵柄で独自の個性を競う合っているかのような印象を受けた。
 今回の絵は、秘密道具だけがカラーで、あとのキャラクターや背景などはすべてモノクロ調、そして、キャラクターの絵からは布地のような質感が漂っていた。
 今後も、どんな独創性を発揮してくれるのか、楽しみにしていきたい。




■追記

 コロコロコミック6月号で『わさドラ』の放送スケジュールが発表されていたので、ここで紹介したい。

●5月20日
「(秘)スパイ大作戦」(てんとう虫コミックス1巻)
「ハロー宇宙人」(13巻)
●5月27日
のび太の地底国」(26巻)
●6月3日
「男女入れかえ物語」(42巻)
「まんが家ジャイ子」(24巻)
●6月10日
ドラえもんだらけ」(5巻)
ココロコロン」(20巻)
●6月17日
「好きでたまらニャい」(7巻)
「王かんコレクション」(9巻)
●6月24日
「おかしなおかしなかさ」(19巻)
「まあまあ棒」(23巻)
●7月1日
「天井うらの宇宙戦争」(19巻)
●7月8日
「のろいのカメラ」(4巻)
「一生に一度は百点を」(1巻)

ドラえもんだらけ」! 「王かんコレクション」! 「のろいのカメラ」! 「一生に一度は百点を」! こんなに贅沢なラインナップでいいのかしら!?
のび太の地底国」「天井うらの宇宙戦争」は、「どくさいスイッチ」と同じく、AパートBパートひっくるめて30分で1話を放映するようだ。こういう形式もちょくちょくやるみたいだな。 

*1:「タイムふろしき」/単行本:「てんとう虫コミックス」2巻・「コロコロ文庫」爆笑編などに収録/初出:「小学四年生」1970年12月号

*2:タンポポ空を行く」/単行本:「てんとう虫コミックス」18巻・「コロコロ文庫」感動編などに収録/初出:「てれびくん」1979年6月号