食虫植物と藤子不二雄A

 先週、「藤子・F・不二雄展」を主目的に大阪へ行ったさい、ほかにも大阪で開催中の展覧会へ足を運んでみました。
 
 
 花博記念公園鶴見緑地の“咲くやこの花館”で開催されている「虫を食べる植物展」です。



 子どものころ「虫を食べる植物がいるんだ!」と知ったとき、何だか恐ろしい怪物のようなイメージを抱きながらも強く誘引されたものです。そのころの心情をおぼろげに思い出しながら、展示されている本物の食虫植物たちを眺めて楽しみました。
 私が食虫植物に怪物的なイメージを抱くようになったのは、『魔太郎がくる!!』「うらみ念法のろいゴケ」を読んだ影響が大きい、と自己分析しています。

 
 ・少年チャンピオン・コミックス『魔太郎がくる!!』5巻(秋田書店、1973年)。私は小学生のころ、この本で「うらみ念法のろいゴケ」を初めて読みました。


 
 ・「うらみ念法のろいゴケ」を収録したその他のコミックス。藤子不二雄ランド3巻(中央公論社、1987年)、中公文庫2巻(中央公論社、1997年)、少年チャンピオン・コミックス新装版4巻(秋田書店、2000年)、Primoアイランド・コミックス(嶋中書店、2002年)、藤子不二雄Aランド3巻(ブッキング、2005年)


 
 ・「うらみ念法のろいゴケ」の初出誌「週刊少年チャンピオン」1973年23号を、後年になって古書店で購入しました。表紙に魔太郎が大きめのサイズで載っているのが嬉しいです。『魔太郎がくる!!』は連載期間がけっこう長かった人気作品であるにもかかわらず、表紙に大きく登場することはめったになかったので、こうして表紙に魔太郎がいるとありがたみを感じます。


 この「うらみ念法のろいゴケ」という話は、まさに食虫植物がテーマでして、魔太郎の復讐にも食虫植物が使われます。
 こんな話です。植物採集旅行から帰った青三郎おじさんが、魔太郎の家を訪問します。今回の旅行の目的は、植物採集は植物採集でも、とくに食虫植物の採集がメインだったとか。そして青三郎おじさんは、食虫植物とはどんなものかを魔太郎に教えてくれるのです。「食虫植物ってのは虫や小さなプランクトンを食べて自分の養分にしている植物のことだ」「これらの食虫植物はたいてい養分の少ないやせた土地で生活しているので虫をとって栄養のたしにしているのさ」「一口に食虫植物といっても虫を捕える方法はそれぞれ得意ワザを持っているんだぜ」
 こうした魔太郎への食虫植物の解説は、読者に食虫植物とは何かを説明することにもなります。
 青三郎おじさんは世界を旅して帰ってくるたびに魔太郎に珍しい土産物をくれる人物です。そのおかげで魔太郎は(読者も)博物学的好奇心を刺激されるのです。この話で青三郎おじさんが魔太郎にくれた土産物はもちろん食虫植物。「モウセンゴケ」という種類の食虫植物をくれたのです。
 モウセンゴケをもらった魔太郎は、最終的に、自分に乱暴をはたらいた上級生に復讐するため、そのモウセンゴケを使います。巨大化したモウセンゴケが上級生を食っちゃうのです…。私が食虫植物に怪物的なイメージを抱くようになったのは、小学生のころこのシーンを読んだ影響が大きいのです。


 そんな思い出のあるモウセンゴケを、今回訪れた「虫を食べる植物展」で観ることができました。
 
 
 ・同展では食虫植物の虫の捕り方をいくつかに分類して解説しており、モウセンゴケはネバネバした液で虫を捕る「とりもち型」に分類されていました。葉の表面にある腺毛からネバネバ液を分泌して虫を捕獲するのです。虫を捕まえると線毛が折れ曲がって虫を囲い込み、消化液を出して養分を吸収します。『魔太郎がくる!!』ではこの方法でモウセンゴケが人間の養分を吸ってしまうわけです(笑)


 『魔太郎がくる!!』「うらみ念法のろいゴケ」には食虫植物図鑑的な一コマがあって、そこで4種類の食虫植物が図解されています。その4種類とも今回の展覧会で観られて感激でした。とくにたくさん展示されていたのがウツボカズラの仲間たち!
 
 
 
 
 ・ウツボカズラの虫の捕り方は、蜜と匂いで誘ってツボの中に落とし込む「落とし穴型」。ツボの底に透明の液体がたまっていて、そのほとんどが水なのですが、そこに消化液も含まれており、落ちてきた虫の養分を吸収するのです。ツボの口の近辺は反り返っていてツルツルで、虫が滑り落ちやすくなっています。

 
 ・ウツボカズラのツボの入口のところに蓋がついてます。この蓋は虫が入ったらパタンと閉じる…といったことはなく、雨などがツボに入りにくくするためにあるそうです。


 
 ・ウツボカズラの一種を眺めていたら急にクマゼミがとまったのですが、さすがにセミは大きすぎて餌食にはなりません(笑)


 
 
 ・これはハエトリグサ。牙のはえ二枚貝のような捕虫葉が怖そうでカッコいいです。捕虫方法の分類は「二枚貝式わな型」。牙のようなトゲトゲは感覚毛で、口の中に虫が入ったことをここが感知すると、口を閉じて虫を捕獲するのです。捕まえた虫はじっくり時間をかけて消化し、残った殻は吐き出します。その姿から「ハエジゴク」とも言われます。妖怪のような名前ですね。


 
 ・サラセニア。分類は「もんどり型」。筒状の葉の内側に下向きにトゲがはえていて、中に入ってきた虫は後戻りできない仕掛けです。魚を捕るためのもんどりと構造が似ています。


 
 ・ムシトリスミレ。モウセンゴケと同じ「とりもち型」ですが、モウセンゴケはネバネバ液を出すのと同じ腺毛から消化液も出すのに対し、ムシトリスミレはネバネバ液を出す腺毛と消化液を出す腺とに機能が分かれています。



魔太郎がくる!!』では紹介されていませんが、以下の食虫植物も形状がユニークで印象的でした。
 
 ・コブラリリー。その名のとおり、蛇の鎌首みたいです。


 
 ・食虫植物のアクアテラリウムもありました!



 そんなふうに食虫植物を堪能したわけですが、会場の「咲くやこの花館」は日本有数の大温室植物園でして、ふだんから世界の珍しい植物をいろいろと観ることができます。そんななかに、「月下美人」という植物がありました。
 
 モウセンゴケなどの食虫植物から『魔太郎がくる!!』のエピソードを思い出した私ですが、この月下美人からも藤子不二雄A先生の作品を思い出しました。『笑ゥせぇるすまん』に「月下美人」という話があるのです。ダイレクトにサブタイトルになっているくらいですから、この話における月下美人の存在は重要です。
 作中で月下美人は次のように解説されます。
クジャクサボテンの原種。6、7月に芳香をともなった美しい花を咲かせるが一夜かぎりのため、“幻の花”として人気が高い。」
 

 サラリーマンの佐保典和(49歳)は家に帰ると、受験中でピリピリしている息子と、そのせいでトゲトゲしくなっている妻がいて、心が休まらず、帰宅拒否症になっていました。喪黒福造は、家に帰った佐保が愛情を注ぐ対象として月下美人の鉢植えをプレゼントします。佐保は、月下美人をたいそうかわいがりながら育てることになるのですが……といった話です。
魔太郎がくる!!』「うらみ念法のろいゴケ」では、青三郎おじさんが魔太郎にモウセンゴケを鉢植えをあげて、それを魔太郎が育てるという流れでしたから、「月下美人」も「うらみ念法のろいゴケ」も、テーマとなった植物が誰かから誰かに贈られ、贈られた者がそれを育てる、という経緯が共通しています。そしてどちらの話でも、ラストでその植物がかかわる超常的かつブラックな現象が起きるのです。


笑ゥせぇるすまん』のなかでは花を咲かせた月下美人ですが、今回観たものは実をつけていました。
 


 こんなふうに解説パネルも設置されていました。
 


 食虫植物への興味から足を運んでみた展覧会でしたが、行ってみれば私の脳内は藤子不二雄Aワールドを旅してしまっていたのでした(笑)ファンの“業”のような何かを感じずにはいられません。



※当ブログ「藤子不二雄ファンはここにいる」のトータルアクセス数が、300万に到達しました。石ころぼうしをかぶったのび太くんのごとく誰にも気にとめてもらえないんじゃないかと心細さを感じ、「藤子先生の作品が大好きな人間の一人がここにいるから気づいてほしい。ここにいるから遊びに来てほしい」と願いを込めて名付けたブログが、こんなにも多くの方々に見つけてもらえることになって感無量です。
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