野外民族博物館リトルワールドで藤子作品に思いをめぐらす

 10月16日の出来事です。

 愛知県犬山市にある野外民族博物館リトルワールドへ行ってきました。

 野外民族博物館リトルワールドには、世界各地から移築・復元した建物がたくさん建ち並んでいます。野外展示場を一周することで世界を旅した気分を味わえるのが、この博物館特有の醍醐味です。

 

 

・北海道・アイヌの家

 

 

・台湾・農家

 

 

・アラスカ・トリンギットの家

 

 

インドネシア・バリ島貴族の家

 

 

インドネシアのトバ・バタックの家

 

 

・ドイツ・バイエルン州の村

 

 

・フランス・アルザス地方の家を視界に入れながら、イギリス産のサミエルスミス黒ビールを飲む。

 

 

・イタリア・アルベロベッロの家

 

 

タンザニア・ニャキュウサの家

 

 

南アフリカ・ンデベレの家

 

 

・ネパール・仏教寺院

 

 

・タイ・ランナータイの家

 

 といったような野外展示場の世界の建物を見てまわるなかで、私の藤子脳がピクンと反応した展示を紹介していきます。

 

ミクロネシア・ヤップ島の石貨

 こういう巨大な石貨は子どものころアニメ『はじめ人間ギャートルズ』で大いに親しんだのですが、藤子的には『ドラえもん』の「冒険ゲームブック」(てんとう虫コミックス38巻)を思い出します。

 「冒険ゲームブック」には、大きな本の形をした未来のゲームブックが登場します。のび太出木杉ゲームブックの入口を通ると、その向こう側に本のなかとは思えない立体的かつ広大な世界が広がっていました。

 その世界で2人が石貨を見つけるのです。のび太は「こんな重い物もっていけるか!!」と石貨を放置しますが、出木杉は「せっかくだからいちおうもっていこう」と石貨を2つ抱えながら冒険を続けます。結果、2つとも見事に役に立ったのです。さすがは出木杉ですね。

 

 

・西アフリカ・カッセーナの家

 ドラえもんの“ホームメイロ”を使ってもいないのに、家がまるで迷路のような光景になっています。じつにユニークな造りの家。

 

 そして、野外展示場をまわったなかで最も濃厚に藤子ワールド気分を味わえたのが、アフリカグルメを楽しめるアフリカンプラザです。

 ワニ肉のメニューがいろいろあって、私はワニのフランクフルトを注文。友人からのおすそ分けでワニの唐揚げも食べました。

 これらワニ肉の料理を食べて即座に頭に浮かんだのが、藤子不二雄Ⓐ先生の少年向けブラックユーモア作品『黒ベエ』の第1話「ワニ料理」という話です。ワニの肉を食べるとなれば、それはもう「ワニ料理」を思い出さざるをえません。私の藤子脳は自動的にそう作動するのです。

 先日当ブログにアップした記事で、カエルを初めて食べて『のび太のパラレル西遊記』を思い出したと書きましたが、ワニを初めて食べたときは『黒ベエ』だったのです。

 カエルを初めて食べた日とウメ星デンカグッズ - 藤子不二雄ファンはここにいる

 

 

・「ワニ料理」所収のサンコミックス『黒ベエ』1巻(朝日ソノラマ、1970年初版発行)

 

 

・「藤子不二雄Ⓐ展 ―Ⓐの変コレクション」(六本木ヒルズ展望台東京シティービュー)で展示されていた『黒ベエ』「ワニ料理」の原画(2018年12月撮影)

 

 「ワニ料理」はそのタイトルのとおり、いろいろあったすえにワニを料理して食べようとする話です。けれど、料理されかけたワニが、ワニを料理しようとした一家を逆に料理してしまう…というショッキングな結末を迎えます。黒ベエのミステリアスな力によって、そういう結末を迎えることになったのです。『黒ベエ』は第1話からそんなふうに毒を放っていたわけです。

 

 そんな「ワニ料理」ですが、藤子Ⓐ先生がこの話を発案するモチーフとなったのは、先生がお仲間たちと企画した「ワニを食う会」だったのだろう、と私は思っています。

 しのだひでお先生からこんなお話をうかがいました。

つのだじろうの実家の理髪店がワニを飼っていた。金魚をエサにして食べさせる場面も見た。そのうち安孫子ちゃんたちと、みんなでワニを食おうという話になった・笑」

 

 この、藤子Ⓐ先生たちがワニを食おうとした企画には手塚治虫先生も少し巻き込まれていて、自伝『ぼくはマンガ家』でこう書かれています。

ところで、この安孫子氏達が、「ワニを食う会」というのをやるから手塚さんも出資しませんかと、誘ってきたことがある。めんくらって、訊いてみたらこういうことであったらしい。――ある友人の育てていたワニが、やたら大きくなってしまった。このワニというやつは、大きくなっても動物園で引き取るのをいやがるし、餌代がかかるので殺して食ってしまおうというのだ。

「だって、安孫子さんは、肉を食わないじゃないか」

「ええ、食わなくっても会員なんですよ。殺すとき、冥福を祈るのです」

断っておくが、安孫子氏の親戚はお寺で、かれもお経が読めるそうである。

手塚治虫『ぼくはマンガ家』、毎日新聞社、1969年5月初版発行)

 

 最終的に藤子Ⓐ先生たちがワニを実際に食べたかどうかは未確認(あるいは確認したけれど私が失念しただけかも)ですが、そういう実体験をヒントに藤子Ⓐ先生は「ワニ料理」という話を案出したと考えられるのです。

 

 

 リトルワールドは野外民族博物館と称するくらいですから、メインスポットは野外展示場ですが、建物内の本館展示もかなり充実しています。世界各国の衣・食・住をはじめとした民族文化に関する品々が豊富に展示されています。

 この本館展示を藤子ファン目線で見物していると、藤子的な事象と結びつく展示品がいくつかありました。今回もっとも藤子ワールドな感興を得られた展示品がこちらです。

 アメリカ先住民ホピ族に伝えられる「カチーナ」という精霊の人形です。

 これらの精霊人形を見て、『のび太の日本誕生』のラスボス、精霊王ギガゾンビを思い出しました。ギガゾンビの仮面や衣装のデザインは、こうした精霊人形からインスパイアされたところもありそうだな、と感じたのです。

 

 とくに、このあたりに置かれた精霊人形にギガゾンビのイメージと重なるものを感じました。

 そして、次の画像がギガゾンビの姿です。

・精霊王ギガゾンビ:『大長編ドラえもん のび太の日本誕生』(「月刊コロコロコミック」1988年9月号〜89年2月号連載)より引用

 

 

・映画版の精霊王ギガゾンビ:「コロコロコミックデラックス17 映画ドラえもん10周年記念 映画アニメドラえもん・ドラミちゃん」(小学館、1989年4月20日発行)の折込みポスターより引用

 

 比較用にマンガ版と映画版のギガゾンビ、両方を引用してみました。

 こうしてホピ族の精霊人形とギガゾンビの姿と比べてみると、完璧にそっくり!とまでは言えないまでも、直観的に共通のイメージを感じるところがあります。

 細長い長方形の空洞の両眼をはじめ、派手系のエスニックな全体的雰囲気から、ホピ族の精霊人形がギガゾンビのデザインに影響をおよぼしているのではないかと推察できます。

 これらホピ族の人形は精霊をかたどったものであり、ギガゾンビは精霊王を自称するキャラクターですから、そうした精霊つながりからも影響関係を認めたくなります。

 現時点での仮説ですが、「藤子・F・不二雄先生がギガゾンビをデザインするさい、そのインスパイア元にホピ族の精霊人形があった」と私は考えます。

 

 

 ホピ族の精霊人形のほかにも、本館展示のなかにいくつか私の藤子脳をくすぐる展示品があったので、主だったものを紹介します。

・ブーメラン

 『魔太郎がくる!!』に「くるくるもどるブーメラン」という話があります。海外を旅することの多い青三郎おじさんは、旅先でよく珍しい物を購入します。帰国後その珍しい物を魔太郎にプレゼントしてくれるとともに、旅先の国の情報やうんちくも提供してくれます。

 そんな青三郎おじさんがこの話で魔太郎にくれた物がブーメランでした。青三郎おじさんは魔太郎の前でブーメランを飛ばす実演をして見せたあと、こんな解説をします。

「これはブーメランといってオーストラリアに石器時代から住んでいるといわれるアボリジニが 狩りの時に使う武器なんだ 彼らはこの不思議な飛び道具を自由自在に使って鳥やけものを倒すんだよ」「おじさんが今度行ってきたオーストラリアはね 日本の約二十一倍もある大陸でね シドニーメルボルンといった近代的な大都会がある一方 内陸には死の大砂漠や猛獣 毒ヘビのすむ大密林地帯があるんだ」「中でも 世界の奇観とされているのは 大陸の中央部にあるエアーズロックという大岩なんだ(後略)」

 

 と、このような具合に、海外で買ってきた物の説明に加え、旅してきた国の情報もばっちり提供してくれるのが青三郎おじさんなのです。

 

 

・マコンデ族の人物木像

 『ブラック商会変奇郎』「のろいの像」にマコンデの彫像が登場します。作中でマコンデはこう説明されます。

「マコンデというのはアフリカのタンザニアの奥地にある不思議な村なのだ」「このマコンデの村の人びとは不気味な彫刻を作るので有名だが その彫刻がなにを意味するか謎である」

 マコンデの彫刻が何を意味するのか謎だと説明されていますが、この話のなかでは“のろいの像”として描かれています。

 

 “のろいの像”といえば、『魔太郎がくる!!』「魔教ブードーののろい」にブードー教(ブードゥー教)の“のろいの人形”が出てきたりもします。作中でブードー教は青三郎おじさんの口からこう説明されます。

西インド諸島にあるハイチという国へ行ってきたんだ/その国では今でもブードー教という不思議な魔教が信じられるので有名なんだ/このブードー教は黒いのろいの魔教といわれ おそるべき暗黒の力を持っている!! このブードー教の力を借りると どんなことでも可能になるのだ!!」

 青三郎おじさんは、そう言ってから、ハイチ旅行で買ってきた“ブードーののろいの儀式に使う人形”を魔太郎にプレゼントするのでした。

 

 そうした“のろいの像”“のろいの人形”的なアイテムとイメージが重なる展示品が、リトルワールドの本館展示にありました。

 

 アフリカの呪術用具です。人型のものもあります。

 もっとも、これらの呪術用具は『変奇郎』や『魔太郎』に出てきた“のろいの像”“のろいの人形”のような悪魔的な呪術のために使われるものではありません。そういう怖い道具ではないのです。それを承知しつつも、“呪術に使う像や人形”つながりということで一応紹介してみました。

 

 

・韓国の仮面劇

 

ニューギニアの仮面

 

 

インドネシアの仮面

 こうした民族色のある仮面がたくさん並ぶ光景を見ると、藤子Ⓐ先生の仮面趣味が横溢したギャグマンガ『仮面太郎』を思い出します。

・スターコミックス『仮面太郎』(大都社、1981年発行)

 仮面太郎のフィギュアは、藤子ファン仲間のさとちゃんさんが手作りしたものです。

 

 

 

・インドの人形劇と影絵劇

 この展示コーナーを見てただちに頭に浮かんだのが、『ぶきみな5週間』シリーズの第5週『目のない舞姫』です。

 『目のない舞姫』の主人公・冬彦は、ふらりと覗いた古道具屋で魅惑的な踊るインド人形を見つけ、虜になります。ちょいと指でさわるとユラユラとしなやかに体を動かして優美な踊りを見せてくれる人形です。

 

 この踊るインド人形の現物が「藤子不二雄Ⓐ展 ―Ⓐの変コレクション」で展示されていました。

 リトルワールドの本館展示にこの人形と同様のものはなかったのですが、それでもこのコーナー全体の雰囲気から踊るインド人形をただちに想起したのです。

 

 

・カーリー女神

 『怪物くん』の「蛇男もびっくり」という話に、そのものズバリ“カーリー”が登場します。カーリーを見た怪物くんが「カーリーというのはインドの女の魔神だぞ」と言うシーンがあります。

 

 

・文字の発明

 『T・Pぼん』の「シュメールの少年」を思い出します。具体的にシュメールに関する展示があったわけではない(あったかどうかはっきり憶えていない)のですが、文字の発明をテーマとする展示を見れば、私の頭のなかでは「シュメールの少年」と結びつくのです。

 この話で凡とユミ子が人命救助に向かった先は、紀元前3319年のシュメール(今のイラク)。圧縮学習でシュメールに関するデータを得た凡は、シュメール人の二大発明の一つとしてまず車輪に言及します。

 そして、二大発明のもう一方が“文字”というわけです。

 凡とユミ子が訪れた村では、一人の少年が離れた村に暮らすガールフレンドと連絡を取り合うため、しるしの組み合わせで自分らの言葉を伝える方法を考え出し、実践していました。その現場を目撃した凡は「絵文字だ!!」と驚き、ユミ子に向けて「シュメールのもう一つの大発明 「文字」がここから誕生しようとしている!!」と興奮を隠しきれないまま解説するのです。

 「シュメールの少年」を読むと、文字の誕生がいかに人類を発展させることになる歴史的大事件であったかが、感動とともに伝わってきます。

 

 

 リトルワールドを見てまわるなかで私の藤子脳をくすぐった展示品をいろいろ紹介してきました。こうして見てくると、藤子先生、とりわけ藤子Ⓐ先生の作品は民族博物館的な魅力をぞんぶんに持っているのだなあと感じられてきます。

 藤子Ⓐ先生が収集しておられた、いわゆる“変コレクション”なんて、まさにそういう要素を多分に含んでいますよね。

 藤子マンガは私が幼いころからずっと博物的な好奇心を刺激し続けてくれているのだな、とあらためて認識を強くしました。