核シェルター

 広島と長崎の原爆忌、ということもありまして、今月の上旬にひらまつつとむ先生のマンガ『飛ぶ教室』を読み返しました。
 
 この作品は、1985年に「週刊少年ジャンプ」で連載されました。突然核戦争が起きたときたまたまシェルター内にいて生き残った子どもたちと一人の教師のサバイバルを描いた、異色のジャンプマンガです。
 強力な水爆によって破壊され汚染され廃墟化した街…。そんな極限の絶望的状況にありながら、80年代的な軽妙なラブコメふう描写が見られるのが、この作品の独特の味わいになっています。その軽みや明るさに救われるところもあります。コミックスの表紙をご覧になれば、その軽みや明るさが伝わってくることでしょう。そしてこの表紙を見る限りでは、核戦争後の世界を描いた過酷なサバイバルものだとは想像がつきづらいことでしょう。
 核兵器による爆風で池袋にあるはずのサンシャインビルが埼玉のある都市まで吹っ飛んでくるのですが、そのビルが地面に突き刺さったために『未来少年コナン』のロケット小屋と同じようなかたちで“飲める水”を掘り当てます。今回の再読では、そんなサンシャインビルに関する場面にインパクトと感動をおぼえました。
 『飛ぶ教室』というタイトルは、ケストナーの同名小説から採ったものです。サブタイトルの中にも『夏への扉』『最後の授業』といったふうに小説の題名を使ったものが見られます。ひらまつ先生が感銘を受けた小説たちへのオマージュですね。


 『飛ぶ教室』では、小学校の校庭に核シェルターが造られていました。核兵器が関東地方に落ちた瞬間たまたまそのシェルターに入っていた何人もの子どもたちと一人の教師が助かったのです。身近なところに核シェルターを…という発想つながりで藤子・F・不二雄先生のSF短編『マイ・シェルター』(初出:「スーパーアクション」1983年7月号)も再読しました。こちらは実際に核シェルターを造るのではありませんが、マイホームのごとくマイ核シェルターを持とう!という発想のもとに描かれています。
 マイホーム建設を大望とする男が主人公です。彼が家庭用の核シェルターのセールスマンに出会ったことで、もし核戦争が起きたら…、もしシェルター生活を送ることになったら…と真剣に思案することになるお話です。
 この作品で披露される核シェルターのセールストーク(パンフレットの文言を含む)が巧みです。核戦争を絵空事のようにとらえていた人の意識を「もしも核戦争が起きたら…」とわが身に引き寄せて真剣に考えさせてしまうのですから。読者である私としては、核戦争に限らず地震や台風など他の災害に対しても「もしも○○が起きたら…」と考えておく習慣を身につけねば…と自戒させられる作品でもあります。
 『マイ・シェルター』の作中作として『おいどんのハルマゲドン』というアニメがちらりと登場します。このアニメ、全面核戦争で生き残った子どもたちの冒険物語だそうです。全面核戦争で生き残った子どもたちの物語といえば、ひらまつ先生の『飛ぶ教室』がまさにそういう作品ですから、思いがけずここでも2作品がつながった感があります(笑)