映画『ルックバック』を観て『まんが道』に思いを馳せる

 映画『ルックバック』(6/22公開)を観ました。(7月13日のことです)

 素晴らしい映画でした。観ているあいだじゅうずっと絶え間なく心が揺り動かされ続けたのではないか……。そう思えるほど、私にとって上質の映画体験となりました。

 原作の筆致を見事にアニメ表現に昇華した人物描写とディテール豊かでひとつひとつに何らかの意味を見いだせそうな美しい背景に思いきり魅了されながら、マンガを描くことに若き情熱を注ぐ二人の物語に胸を熱くさせられ、ざわつかされ、かきむしられ、一時間弱の上映が終わって劇場内が明るくなってもまだしばらくその場に座ったまま、素晴らしい映画だったなあ…と幸せな余韻にひたりました。

 

 この映画を観て、藤本タツキ先生の原作を心からとことん極限まで映像化したかったんだろうなあ、と制作陣の敬意と熱意とこだわりを濃厚に感じました。
 藤本タツキ先生は『ルックバック』映画化にさいして「基本的に自由に作ってください」と押山清高監督に伝えたそうです。お願いしたのは内容のことよりも「ホワイトな制作現場であってください」ということのみ。押山監督にとって“『ルックバック』を自由に映画化する”ということは、心ゆくまで原作を尊重し活かし切ることだったんだろうな、と私は感じ入ったのでした。

 

 映画『ルックバック』は、私の藤子ファンゴコロをだいぶくすぐる作品でもありました。本作を観ている最中、『まんが道』の記憶やイメージがたびたび重なり合ってくる感覚を味わいました。その感覚が、掛け替えのない映画体験となったのです。

 マンガに青春を賭けた二人の若者の物語。マンガを描くことが至高の喜びだし、二人一緒ということもまた何ものにも替えがたい喜びである……。そのありようは、『ルックバック』と『まんが道』を根底のところでつなぐものだと感じました。
 藤本タツキ先生の生い立ちや考えなどはよく知らないのですが、『ルックバック』は藤本タツキ版『まんが道』の成分を多分に含み持った作品だと、そんな思いが私の脳裏をよぎりました。

 藤本タツキ先生は『ルックバック』を描くさい「とにかくドラマじゃなくて背中を見せようと思っていた」と述べています。その発言に触れたとき、私の中で『ルックバック』と『まんが道』のイメージがグイグイと結びつき、満賀道雄才野茂が机に向かってカリカリとペンの音を立てるシーンが鮮明に浮かび上がりました。

 

 余談ながら、私が今年に入って劇場で映画を観たのは、この『ルックバック』で8回目になります。けれど、そのうちの6回は『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』でして、この調子でいけば今年一年で観た映画の半分以上は『のび太の地球交響楽』になりそうです(笑)