藤子・F・不二雄先生による「モナ・リザ」「落穂拾い」パロディ

 8月11日夜(日本時間12日未明)にパリ郊外サンドニスタッド・ド・フランスで閉会式が催され、17日間におよぶパリオリンピックの全日程が終了しました。
 日本の獲得メダルは金20個、銀12個、銅13個で総計45個という結果。金メダルの数とメダルの総数はどちらも海外開催のオリンピックでの最多記録を更新したとか。メダルの数だけですべてを評価するわけではありませんが、私は日本の選手がメダルを獲得するたびに嬉しい気持ちになりましたし、ここは素直にお祝いと感謝の気持ちを表明します。
おめでとうございます!
ありがとうございます!!

 

 そうしたところで、開催地のパリにちなんだ(ちょっとこじつけ気味の)藤子ネタをひとつ😆

 藤子・F・不二雄先生は、私の思いつく限りでは名画「モナ・リザ」と「落穂拾い」のパロディを少なくとも2回はやっています。

・図① :『紅白でやっつけるぞ!』(初出:「週刊少年サンデー」1969年1月12日号/藤子・F・不二雄大全集21エモン』2巻所収)より
・図②:『ドラえもん』「つづきスプレー」(初出:「小学三年生」1972年7月号/てんとう虫コミックスドラえもん』5巻所収)より
(研究・論評のための図版引用ですが、問題があれば削除いたします)

 

 「モナ・リザ」と「落穂拾い」のパロディを並べてみたわけですが、「モナ・リザ」はルーヴル美術館、「落穂拾い」はオルセー美術館とどちらもパリの美術館に所蔵されている名画です。パリにちなんだ藤子ネタとはそういう意味です。ルーヴル美術館の外観は、今回のオリンピックの中継で何度か目にしました。開会式やマラソンのとき映し出されたのです。

 

 藤子F先生による「モナ・リザ」「落穂拾い」のパロディについてもう少し見てみましょう。
 図①『紅白でやっつけるぞ!』の事例は、藤子F先生が世界的に有名な名画の人物をご自分の生み出したキャラクター(ゴンスケ、オナベ)に差し替える、というパロディです。「ゴンスケの落ちイモヒロイ」だなんて、イモ掘りロボットであるゴンスケの特性をユーモラスに活かしていてお見事です。イモを掘るのではなく拾うだけにしても、ゴンスケはホテルの仕事の何倍も喜んで意欲的に取り組んでくれることでしょう。このパロディ絵に描かれたゴンスケの表情と姿勢がじつに味わい深いですし、落ちイモって、なんかもうその響きのナンセンスさだけでも愉快です。イモって普通はそうそう落ちてるものでもないでしょうけど、ここにゴンスケを起用するためだけにイモが落ちてることにしてしまうという、その強引さが好き。

 モナリザの微笑みならぬオナベの微笑みも絵になりますね♪


 図②の「つづきスプレー」の事例は、一枚絵として完璧なレベルで完成しているはずの、しかも静止しているはずの世界的名画に次の場面・次の動きを加えるという、“よけいなことしちゃって”感がありながら、しかし“ナイスアイデア!”と賛嘆したくなるパロディです。一枚絵の名画にコママンガのごときオチをつけていて、2種の表現ジャンルを融合するかのような、表現の枠組みをかきまぜるような、挑戦的な試みをやってのけています。それは、名画の2コママンガ化・名画のショートムービー化とも言えそうです。
『紅白でやっつけるぞ!』もそうですが、真面目な名画を身も蓋もない笑いに変える、何か高尚そうな存在を卑近な次元へ持ってくる、というわざもやっています(笑)

 現在、1枚の画像から5秒ほどの短い動画を生成するAI「Dream Machine」なんてものが登場していますが、つづきスプレーはそういう動画生成AIの先駆け的なアイデアでもあるなと感じます。動画生成AIを見て「つづきスプレーが実現した!」と感じた人は何人もいらっしゃることでしょう。


 ところで、名画のつづきの場面が「モナ・リザ」では数十年後、「落穂拾い」だと数分後くらいの出来事になっているのは、つづきスプレーを吹きかけた時間の長短、それとも量の多寡の差でしょうか。あるいは、決定的なシーンまで自動的につづいていく効能がつづきスプレーにあるのでしょうか。
 などと一瞬思ったけれど、「つづきスプレー」を読めば、カレンダーの夏の風景につづきスプレーをプシュとかけたら秋の風景に変わり、「もっと、かけてみよう」とさらにシュウシュウかけたら冬の風景になるシーンがしっかり描かれていますね。シュツと吹きかける回数が多いほど絵に描かれた事物の時間が先に進んでいくようです。

 

※先述のとおりパリオリンピックは終わりましたが、8月28日から同じパリでパラリンピックが始まります。
https://www.parasapo.tokyo/paralympic/paris2024