乙一『F先生のポケット』

1年以上前に発売された本だが、闘うイラストーリー・ノベルスマガジン・小説現代増刊「ファウスト」Vol.2講談社/平成16年3月19日発行)を購入した。作家・乙一氏の短編小説『F先生のポケット』が掲載されているからである。『F先生のポケット』は、そのタイトルから予想できるとおり、藤子・F・不二雄先生の『ドラえもん』から材をとった小説だ。
 この小説の挿絵を『DEATH NOTE』『ヒカルの碁』の小畑健氏が描いているのも見どころか。


 乙一氏といえば、以前『死にぞこないの青』幻冬舎文庫/平成13年10月25日初版発行)という彼の小説を読んだとき、以下のような文章に出会ったりして、「ああ、この作家も、ドラえもんチルドレンなんだなぁ」と親近感を抱いたことがある。

「ねえ、たしか、去年の今ごろ、『大長編ドラえもん』の連載がはじまってなかった?」
 僕がたずねると、ミチオはうなずいた。僕は記憶力が低下してしまったのか、去年のこともろくに覚えていなかったから、彼が同意するまで自信がなかった。『ドラえもん』の連載は、普通、一話完結の物語だった。でも、一年のうち、数ヶ月間だけ、映画版の『大長編ドラえもん』がつづきものとしてコロコロに連載されていた。
「それが、今年はまだなんだよ。去年なら、もう大長編の連載がはじまっているはずなのにさ」
 もしかして今年は映画版のドラえもんはないのだろうかと心配していた。
「今年はマンガにしないで、いきなり映画を公開するんじゃないの?」

 
『F先生のポケット』では、『死にぞこないの青』以上に乙一氏のドラえもんチルドレンぶりが前面化している。


『F先生のポケット』は、学級委員でチクリ魔と呼ばれる女子高生・松田梢と、いじめられっ子で野暮ったい眼鏡のクラスメイト・井上京子の〝二大嫌われ者〟が、ひょんなことから四次元ポケットを手に入れ、井上京子が秘密道具を使って町をひっくり返すような大騒動を引き起こす… というストーリーである。
 ついでに『死にぞこないの青』の内容を紹介しておこう。小学5年生のマサオが、飼育係になりたいため嘘をついたことで担任の先生に嫌われ、クラスで何かあるたびにすべてマサオのせいにされるようになる。クラスメイトもマサオをいじめはじめた。そんなある日、マサオの視界に傷だらけの顔をした青い肌の子どもが出現する… そんなお話である。



STUDIO VOICE」6月号も購入。「最終コミックリスト200」という特集で、2000年代のマンガでとくに読んでおきたい200作が紹介されている。その200作のうち、私が単行本を買って読んでいるのは25作ほどだった。
 といっても、前のほうの巻だけ読んで、まだ最新刊に追いつけていない作品が結構あるのだが…
 この200作の解説文を読んで、自分の趣味嗜好に合いそうな未読作品に手を出してみようかと思った。いがらしみきおの『Sink』や、岩明均の『ヒストリエ』、こうの史代の『夕凪の街 桜の国』などは前から読もうと思っていてまだ読めていない。近いうちに絶対読みたい作品だ。未読の漫画家では、岩原裕二小田扉に興味があるなあ。


 この200作のなかに藤子作品は入っていなかったが、「藤子不二雄」という文字なら探し当てることができた。
ケロロ軍曹』の解説で宮昌太朗氏が「オタクカルチャーへの目配せと(藤子不二雄直系の)ギャグ作法、そのミスマッチが魅力、といったふうに語られがちな『ケロロ軍曹』だけれども、本当だろうか?」と書いているのだ。
 もうひとつ、「00年代、コミックに何が起こっているのか?」という鼎談で、伊藤剛氏が「原一雄の『のらみみ』という藤子不二雄のパロディみたいな居候キャラの漫画があるんですが、主人公ののらみみ君は「だっておいら、キャラだもん」とはっきり言っています」と発言している。
 藤子作品が直接とりあげられないなら、せめて文中から藤子作品のタイトルや「藤子不二雄」という文字を探し出したくなるのであった(笑)