「ムードもりあげ楽団登場!」「友だちの輪」放送

●「ムードもりあげ楽団登場!」

初出:「小学四年生」1977年5月号
単行本:「てんとう虫コミックス」14巻などに収録

 本作は、ムードもりあげ楽団が場面に応じていろいろなBGMを演奏する話なので、背景音楽担当の沢田完さんの個性が、物語全体に渡ってたっぷりと発揮されるであろうと思われた。紙に印刷された原作では使えない本物の音楽を、それぞれの場面でどのように奏でてくれるのか楽しみだった。
 実際に本日の放送を観ると、ムードもりあげ楽団が演奏するBGMは、その場面を支配するほど大きなボリュームで視聴者に届けられず、極端にいえば、小さなオモチャが発するこぢんまりとした音、というレベルで終始していた。どちらかというと、BGMより、その場面におけるのび太(=大原めぐみさん)の演技を前面に押し出しているように感じられた。とくに、気分を高揚させる系のBGMは、どこか控えめな印象だった。それが悪いというわけでないが、物足りなさを感じたことは否めない。
 ムードもりあげ楽団が演奏をはじめると、のび太のいる画面のサイズが変わり、楽団が画面の前方に出てくる、という演出は、なかなかいいアイデアだった。


 冒頭、ママが作ってくれたケーキを、テレビを観続けながら食べるのび太。ママがケーキの感想を尋ねても、のび太はテレビに夢中で、まるで愛想がない。ママは「はりあいがないんだから」と機嫌を損ねて部屋を出て行く。
 のび太は「ケーキなんて食べたっけ?」と、いま自分がケーキを食べた事実すら覚えていない有様。
 私は、このときのび太が観ていたテレビ番組に目を見張った。原作では、家並に挟まれた道を女性らしき人物が歩いているだけの画だったが、今日のアニメでは、藤子・F先生の異色短編『休日のガンマン』*1のワンシーンをアニメ化したような映像が流れていたのだ。この映像を観た藤子・Fファンの中には、「おおっ、『休日のガンマン』だ!」と驚いた方も多いのではないか。
わさドラ』はこれまでにも、『ジャングル黒べえ』『のび太の宇宙開拓史』のパオパオや、『未来の想い出』のざしきボーイ、郷カオリ、小金井英光を彷彿させる画を作中で描いたことがあり、今回もそれと同様、藤子・F作品をよく読んでいるスタッフが行なったちょっとマニアックなお遊びなのだろう。


 ドラえもんは、いつもつまらなさそうな顔をしているのび太に、感情を生き生きとあらわすことの大切さを説く。しかし、そんなことを言っても、のび太はまるでピンとこない様子。ドラえもんは少し考え、「音楽の力を借りよう」とムードもりあげ楽団を出す。
ドラえもんがムードもりあげ楽団の機能を説明するさい、BGM効果の具体例として、原作ではパーマン1号と2号が活躍するドラマを描いている。これを読んだとき、私は、作品を越境してパーマンが『ドラえもん』の世界に登場したことに喜びを感じた。『ドラえもん』には、ときどきこうして別作品の藤子キャラが登場する。それを発見したときは、なんとなく得した気分になるのだった。
 今日のアニメでは、パーマンの画が完全に消えていた。そのかわりとして、冒頭で『休日のガンマン』を見せてくれたのだろうか。


 ムードもりあげ楽団が奏でる音楽のおかげで、のび太は、そのときの状況に応じて、豊かな感情表現ができるようになった。
 先ほど食べたケーキのことをどうにか思い出し、その感動をママに伝えると、ママも大いに喜んでくれるのだが、そのときムードもりあげ楽団の効果がママにまで及んだのか、ママは外国人が日本語を喋るときのようなカタコト口調でオーバーに喜びを表現しはじめた。ここは、原作のように、ママの機嫌がよくなる程度の描写にとどめておいたほうがよかったと思う。


 ムードもりあげ楽団のBGMは、あまりに効果がありすぎて、のび太の感情表現がいちいち極端になってしまう。
 そんな、極端な感情をあらわすときの大原さんの演技が、いまいち極端に感じられず、ちょっと残念だった。


 ラスト、のび太が顔を真っ赤にしてジャイアンに立ち向かっていく場面は、のび太の輪郭線が太くなったりして迫力満点だった。




●「友だちの輪」

初出:「小学六年生」1984年年8月号
単行本「てんとう虫コミックス」38巻などに収録

 本作の原作は1984年に発表されている。
「友だちの輪」というサブタイトルは、言うまでもなく、1982年10月4日から放送の始まった「笑っていいとも!」で生まれた流行語が元ネタだ。ゲストキャラのミズエの容姿デザインは、1980年代前半ラブコメ・ブーム時のかわいい美少女像を、少しばかり取り込んでいると思われる。とくに、ミズエが正面を向いたときの鼻の描き方などがそういう雰囲気だ。
 ミズエは、今日のアニメでもかわいらしく美しく描かれていたと思う。


 冒頭。原作では、のび太ジャイアンスネ夫の前をただ通りがかるだけで彼らを虜にしてしまったミズエだが、アニメでは、3人と一緒に野球をすることで、容姿の美しさだけでなく運動神経のよさという魅力も加味された。容姿だけで男子を魅了するほうが、美少女キャラとしての存在感がきわだってよいと思うのだが、もしかして〝容姿だけで女性を判断する〟という行為が問題視されて野球シーンが追加されたのか。それとも、ミズエ役の声優さんにたくさん演技をしてもらうためか。野球シーン自体は、神成さんの怖い性格を視聴者に知らしめる働きもあったので、〝容姿だけで女性を判断する〟云々は、私の勘ぐりすぎだろう。


 神成さんは、もともと『オバケのQ太郎』に出てきた頑固じいさんで、自宅にアメリカオバケのドロンパを居候させている。当然ながら、『ドラえもん』の世界の神成さん宅には、ドロンパはいないようだ。


 のび太ジャイアンスネ夫が神成さんの家の中を見ていて「誰じゃ、人の家を覗くのは!」と怒鳴られたとき、スネ夫が「野比のび太です」と告げ口して逃げ去っていくところは笑えた。


 しずかちゃんという将来の結婚相手がいるにもかかわらず、のび太はミズエと友達になりたがる。ドラえもんも、ネコのガールフレンドが大勢いるので、のび太に強く説教できず、しぶしぶ、他人と簡単に友達になれる道具「友だちの輪」を貸し与えるのだった。
 ミズエ攻略の第一歩として、「友だちの輪」を使い神成さんと親しくなったのび太だが、神成さんに異常に好かれてしまい、なかなかミズエに会わせてもらえない。のび太は、神成さんの趣味につき合わされたり昔話を聞かされたりと、退屈するばかり。
 そんな場面の合間に、しずかちゃんがのび太の家を訪れる場面が挿入された。これはアニメ・オリジナルだ。この場面挿入のおかげで、しずかちゃんという相手がいながらプチ浮気に走りかけているのび太の不品行さが強調され、話の構成上よい効果をあげていた。


 しずかちゃんがのび太の家を訪ねた件は、原作では、「さっきまでしずちゃんがまっていらしたのよ」というママの一言で片づけられたが、アニメでは、しずかちゃんがのび太と一緒に食べようと持参した手づくりクッキーと、留守だったのび太宛に書いた伝言の手紙が登場し、しずかちゃん訪問の理由がはっきりと示された。そのため、のび太がミズエと親しくなろうとしたことは、やっぱり「いけない行為」であったのだと、原作以上に強く印象づけられるのだ。


 オチ。結局ミズエにもしずかちゃんにも相手にしてもらえないと分かってショックを受けるのび太は、原作と同じく、うしろ姿で描かれ、表情が見えないままで話が締め括られた。原作では、ラストの大ゴマによってそれがオチだと示すことができるが、アニメで同じようにやると、「あれっ、ここで終わり?」などと視聴者に肩透かしを食らわすおそれがあるため、のび太がショックを受けた瞬間に背景が暗転するという演出を用いて話を終わらせていた。背景が一気に暗転するタイミングがうまくて、切れ味のよい終わり方になっていたと思う。





●『のび太の恐竜2006』予告映像


 番組の最後で、来年春公開の映画『のび太の恐竜2006』の予告映像がちらりと流された。最初に藤子・F先生の写真を大きく映し出すところは心憎い。
 短い予告映像だったが、タケコプターで風を切って飛ぶドラえもんのヒゲやのび太の髪が乱れる描写が印象的だった。細部の描写にまで手を抜かないぞ、というスタッフの意気込みが伝わってきた。
 白亜紀の景色からは、大がかりなスケール感と緻密なリアリティが感じられ、映画館で観るとかなり迫力がありそうだった。


 予告映像は、「のび太の恐竜2006」の公式ホームページでも観られる。
 http://dora2006.com/





●本日、「コロコロコミック」8月号を購入。


 映画ドラ情報コーナーによると、「のび太の恐竜2006」の予告映像が、7月16日(土)から、東宝系映画館で上映されるそうだ。
 また、映画公開に合わせて、「のび太の恐竜2006」がDSのソフトになるとの発表もあった。映画と同時にゲームソフトが発売されるのは、『ドラえもん』の長い歴史でも初めてのことだという。
 あと、8月になると、『わさドラ』の番組内で、新しいドラえもん音頭が流れるようだ。その期間、ミニシアターは休みになるのだろうか。



わさドラ』、今後の放送スケジュール

●7月22日
お休み

●7月29日
「ころばし屋」(てんとう虫コミックス13巻)
「きこりの泉」(36巻)

●8月5日
ドラえもんの大予言」(1巻)
「白ゆりのような女の子」(3巻)

●8月12日
「かげがり」(1巻)
「テストにアンキパン」(2巻)

*1:『休日のガンマン』:初出「ビッグコミック」1973年6月10日号