「古道具きょう争」「怪談ランプ」放送

 8月19日(金)、『わさドラ』第18回放送。
 私は、21日になってようやく観ることができた。




●「古道具きょう争」

原作データ
初出「小学三年生」1970年7月号
単行本「てんとう虫コミックス」1巻などに収録

 のび太スネ夫が古道具コレクションを競い合う話。スネ夫に負けたくないのび太が、未来の古道具屋と思われる「ちん品堂」に、現在の持ち物をジャンジャン古い道具に替えてくれ、と頼んだことから、事態はますますエスカレートしていく。
 のび太の着衣がどんどん古い時代の物に変わっていき、しまいにはアダムとイヴのようにイチジクの葉一枚になるとか、野比家が完全に竪穴式住居になるとか、「古くなるにもほどがある」と思わず言いたくなるほど極端な展開が、おもしろおかしく描かれている。


 今回の『わさドラ』は、原作のとおり、蓄音機をアップで映すところから始まった。その蓄音機が丁寧に描かれていて、魅力ある冒頭シーンになっていた。
 スネ夫が自分の家に陳列してある古道具を自慢するとき、その古道具の謂れなどを説明するのは原作にない部分だった。「ナポレオンが使った拳銃」「織田信長がオランダ人からもらったランプ」「アラジンのランプ」「牛若丸の下駄」と、歴史上の人物に縁のある道具ばかりが紹介された。もしそれが本物ならたいへんなお宝だろうが、「アラジンのランプ」などはあまりにうさんくさい品物だ。


「うちのテレビはもう10年も使ってるんだ」と見当違いな自慢をするのび太スネ夫が嘲笑する場面では、原作通り「ウシャシャシャ」という笑い声を採用してくれてよかった。『わさドラ』では、その「ウシャシャシャ」が、スネ夫の家全体を揺るがすほどの規模にパワーアップしていた。


ドラえもんが22世紀では古道具コレクションがさかんであることを話すさい、「今の物でも22世紀では十分骨董品だから」「きみがいつも使ってる物でも未来だと超レアアイテムだったりするんだ」と説明したのは適切な追加だった思う。考えてみれば当然のことだが、22世紀の世界から見れば、現在最先端にある道具ですら骨董品になっているんだなあ、とちょっと不思議な気持ちに駆られたのだった。
 珍品堂の声が、典型的な商人らしさをかもし出すためか関西弁に変更された。それはそれで楽しかったが、反面、私が抱く古道具屋のイメージからすると原作の丁重な言葉づかいのほうが心に馴染む。


 原作で古道具競争をするのは、あくまでものび太スネ夫だけだが、『わさドラ』では、原作では一観客にすぎなかったジャイアンも競争に参戦。おじいさんが大事にしていたという「どてら」を自慢するが、皆の反応はいまいち。そこに「じんべい」らしき和服を着たのびたがやってきて、どちらも大したことがないという評価がくだされる。そうして、ジャイアンの参戦はあえなく終了したのだった。


 のび太の着ている衣服が、石器時代のものになり、しまいには葉っぱ一枚で局部を隠すだけの状態になったとき、原作では、数人の友達が「つぎが楽しみだなあ」と好奇心たっぷりに、逃げるのび太についていく。その友達の中にしずちゃんも含まれていて、しずちゃんのび太がどうなることを期待しているのかしら、と思ってしまうが、『わさドラ』では、のび太についていく友達の中にしずちゃんの姿は見られなかった。


 家の中の道具が次々と古い物に変わっていくのを見たママが、自分の気が狂ったと思い込んでしまう場面が、『わさドラ』でどう扱われるかとても気になっていた。てんとう虫コミックス収録の原作では、この場面のママの台詞がある時期から改変されており、その改変後の台詞があまりしっくりとくるものではなかったので、『わさドラ』ではこのあたりの表現をどうするのだろう、と気がかりだったのだ。
 ちなみに、原作におけるママの台詞の改変は以下のように行なわれている。

てんとう虫コミックスドラえもん』1巻より
・75ページ9コマめ/ママがパパに電話をするシーン
改変前「わたしくるっちゃったらしいの。すぐかえって。」
改変後「わたしへんになったらしいの。すぐ帰って。」


・76ページ3コマめ/十二単を着たママがおかしな言動をするシーン
改変前「ちょうちょ、ちょうちょ、ヒーラヒラ。」
改変後「どーしましょ。どーしましょ。」

 私は、改変後の「どーしましょ。どーしましょ。」という台詞が、この場面にあまり合っていないと不満だったので、『わさドラ』でそのままやってほしくないと思っていた。実際に『わさドラ』のこの場面を観てみると、十二単を着たママが昔へ来てしまったとすっかり思い込んで「よよよよよよ」と嘆き悲しむ、という新たなかたちにアレンジされ、改変後の原作よりも笑えるシーンになっていた。


 野比家が竪穴式住居になってしまった場面では、その竪穴式住居の外観や内部の様子がなかなかリアルに描かれていて好感がもてた。先ほどまで嘆き悲しんでいたママが、竪穴式住居では淡々とそれなりの生活を送っているのはおもしろかった。





●「怪談ランプ」

原作データ
初出「小学六年生」1973年9月号
単行本「てんとう虫コミックス」2巻などに収録

 夏の風物詩である怪談を題材にした「怪談ランプ」は、この季節に放送するのにぴったりのエピソードである。


 ママの「七日前につくったごはんだったので、こわくてこわくて。」という台詞にある「こわい」という表現が『わさドラ』でどう扱われるのだろう、と多くのドラえもんファンが気にかけていた。ごはんが「かたい」ことを意味する「こわい」は、世代によって、あるいは地方によって通じない表現なので、現在の子どもを対象とした全国ネットの『わさドラ』で、この「こわい」がそのまま使われるかどうかが注目されていたのだ。
 結果として、原作と同じように「こわい」という表現が使用された。そのさい、ママの話にピンとこない様子ののび太に、ドラえもんが「こわいっていうのは方言で、かたいっていう意味なんだよ」と説明し、それが、視聴者に対する解説にもなった。好ましい処置だったと思う。


 ジャイアンの家で開かれた「怪談の会」で、ジャイアン、しずかちゃん、スネ夫が、それぞれ『皿屋敷』『安達ヶ原の鬼婆』『狢(むじな)』という有名な怪談を披露する。原作では各怪談が一コマで簡潔に語られるのみだが、『わさドラ』では、独自の絵によるアニメーションで少し長めにストーリーが紹介された。そんな怪談を聞いたのび太の怖がりようは、原作よりもずっとオーバーだった。


 ジャイアンの家に入った泥棒が家中探し回った結果、10円玉9枚しか見つからず、その9枚を数えるシーンでは、10円玉が一枚一枚しっかり描かれていて、それを数える泥棒がいい味を出していた。