藤子・Fインタビュー「子どもの心で描くんです」

 先日、ビデオソフト情報誌「ファインビデオ」1990年9月号(日之出出版)を手に入れた。定価100円、全50ページ弱の薄い雑誌で、ビデオソフトの広告ページが目立つ。
 そんな雑誌のこの号に、藤子・F・不二雄インタビュー「子どもの心で描くんです」という記事が載っている。その記事中で、私がとくに興味深く感じた藤子・F先生の発言を紹介したい。

●インタビュアー「今まで多くのキャラクターを作ってこられた中で、思い入れの強いキャラクターというのを教えていただきたいんですが」
●藤子・F「ヒットしてくれたという意味では〝ドラえもん〟や〝オバQ〟かな。ヒットするというのは、作者にとって描きやすい、動かしやすいキャラクターであるということなんです。それがいることで自然にアイディアがまとまってくる。そういった意味で大好きなキャラクターですね。逆に恵まれなくて、話題にもならず消えていったキャラクターの中では〝ウメ星デンカ〟ですね。僕は個人的に好きだったんだけどね」

 藤子・F先生が、こうして好きな自作キャラクターを訊かれたとき、「話題にもならず消えていったキャラクターの中では」という条件付きとはいえ、〝ウメ星デンカ〟の名を挙げるのは珍しいことではないか。どうしてウメ星デンカなのか、その理由が語られていないのが少し残念だ。
ウメ星デンカ』が好きだという藤子・F先生の気持ちが通じたのか、この作品は1994年に劇場用アニメ*1になり、平成の世に復活したのだった。ただし、この劇場用『ウメ星デンカ』はファンのあいだで評判があまりかんばしくなく、その後テレビシリーズ化されたりすることもなかった。


ウメ星デンカ』は、1994年に劇場用アニメになったほか、原作マンガが連載中の1969年にテレビシリーズとしてアニメ化されており*2、藤子・F先生は「恵まれなくて、話題にもならず消えていったキャラクター」と述べているが、膨大に描かれた藤子・F作品の中では比較的有名な部類に入るだろう。 藤子・F先生にしてみれば、もっと大きな人気を獲得してほしかった(獲得してもおかしくない)作品として特別な思いがあるのだろうか。たしかに『ウメ星デンカ』は、アニメ化の機会に2度も恵まれながら、前述のとおり劇場用アニメの評判はよくなかったし、テレビアニメ化のさいも期待された人気は得られず、『オバケのQ太郎』『パーマン』『怪物くん』と続いてきた一連のモノクロ藤子アニメの最終作となってしまい、その頃から藤子・Fマンガ全般の人気が低迷しはじめているので、藤子・F先生がこの作品に特別な思いを抱きたくなるのもわかるような気がする。


●インタビュアー「今の子どもたちはスピードに慣れ過ぎてると思われませんか?」
●藤子・F「それはありますね。刺激が強いとか人目を引く要素がなければ観てくれないというのはあるでしょう。だから、『ちびまる子ちゃん』なんて作品が人気あるのは、いいことだと思いますよ」

 藤子・F先生が『ちびまる子ちゃん』という具体的な作品名を挙げ、その作品のヒットを「いいこと」と評価しているのが印象的だ。

*1:ウメ星デンカ 宇宙の果てからパンパロパン!』。同時上映『ドラえもん のび太と夢幻三剣士』『ドラミちゃん 青いストローハット』

*2:1969年4月1日〜9月23日/TBS系列/モノクロ