「Neo Utopia」41号

koikesan2006-01-06

藤子不二雄ファンサークル「Neo Utopia」(以下、NU)の会誌最新号(41号)が、昨年12月31日、大晦日に自宅に届いた。一冊まるごと「藤子不二雄」で埋め尽くされた本を手にとるだけも陶然とするが、その藤子濃度の高い誌面に触れるといっそう精神が高揚する。


 今号は『怪物くん』の特集がメインで、全176ページのうち80ページ以上が『怪物くん』関連で占められている。表紙もドカーンと怪物くんのカラー図版が飾っている。
 特集の頭では、「少年画報」「少年キング」に連載された旧『怪物くん』で唯一の単行本未収録作品「カミキル博士とハイタ氏」の再録を楽しめる。私は、この作品の短縮版を「コロコロコミック」1982年10月号で読んで以来、久しぶりに再読した気がする。
 本作は、スティーヴンソンの『ジキル博士とハイド氏』から着想を得たドタバタギャグ。藤子A先生は『ジキル博士とハイド氏』をモチーフにした作品を幾たびか描いていて、たとえば『フータくん』『魔太郎がくる!!』『ウルトラB』などでそういった話が見られる。
 また本作の前半はプロレスの場面になっていて、実在の悪役レスラー、フレッド・ブラッシーをもじった〝吸血鬼・ハブラシー〟が登場するのも個人的に愉快だった。私が少年期に夢中になった外国人レスラーといえば、タイガー・ジェット・シンアンドレ・ザ・ジャイアント、スタン・ハンセン、ハルク・ホーガンといった面々で、フレッド・ブラッシーは私にとって過去の伝説的レスラーであり、悪役レスラーのマネージャーとして活躍していた印象が強いが、ブラッシーの噛みつき攻撃をテレビ中継で観た老人がショック死したというエピソードなどを聞き、現役バリバリのブラッシーを同時代に観てみたかったなあ、と思ったものだ。


 54ページからの『怪物くん』クロニクル的コーナーは、豊かな情報量と多彩な図版と的確な解説で多角的に楽しませてくれる。図版は、初出誌、別冊付録、単行本などからふんだんに採取され、『怪物くん』という作品が発する大らかなオーラや連載当時の熱気がストレートに伝わってくる。
 労作だと思うのは、『怪物くん』関連の各種作品リストだ。初出サブタイトルや単行本収録状況、アニメ放映サブタイトルなどのデータが微に入り細にわたりリスト化されている。『怪物くん』は、連載雑誌が多岐に渡っており、時代を隔てて2度アニメ化されているし、同じ話でもトレス版・リライト短縮版が数多く存在していて、非常に複雑な様相のため、それを整理してリスト化するのはたいへんな労力と工夫を要する作業だったと思われる。
 小学館学年誌に掲載されたトレス版・リライト短縮版が、小学館から出版された単行本「カラーコミックス」「ぴっかぴかコミックス」のどの巻に収録されているかを示すリストまであって、その徹底ぶりに感嘆した。


 1968年からTBS系で放送されたモノクロ版『怪物くん』の声を演じた白石冬美さんのインタビューも読み応えがあった。「『怪物くん』(1980年)が新しく始まるって聞いたとき、局が変わるからとは聞いていたのですが、演れる演れないに関わらずとてもやりたかったです。そして藤子先生にお手紙を書きました。どうしてもやらせてくださいということではなくて、書かずにはいられなかったんです」という発言などから『怪物くん』への深い思い入れが伝わってきて、胸が熱くなった。


 全体的に、『怪物くん』の魅力とデータをあますところなく表現し尽くしたいという熱いこだわりがひしひしと伝わってくる特集で、『怪物くん』ファンにはたまらないし、これまで『怪物くん』にあまり愛着のなかった人でもすぐさま愛を抱けそうだ。





 マンガ家・永田竹丸さんのインタビューでは、やはり藤子スタジオ時代のエピソードや藤子両先生の人となりに関する話がおもしろかった。
「(藤子先生は)おニ人ともキャラクターの顔から襟が直接付いているような絵を描かれていました。僕が勝手に、開いた襟元から首がチラッと見えるように仕上げていました。一年後くらいには、お二人とも下図でもそのように描かれていましたね」という話などは、藤子スタジオのスタッフが藤子先生の描法に可視的なかたちで影響を与えた事例として実に興味深い。こうした事例は、当事者から話を聞かないと分からないことであり、NU以外でこうした当事者への突っ込んだインタビューはなかなか読めないので貴重である。NUでは今後も藤子先生のアシスタントだったかたがたのインタビューを予定しているようで、私はとてつもなく期待を寄せている。



ドラえもん新作アニメレビュー」は、前号から続く第2弾。「はなバルーンblog」のおおはたさんと私が自分のブログで書いた「わさドラ」評を短縮・修正し、NU誌上で独自に構成したものだ。両人の「わさドラ」評が各話ごと順番に掲載されていて、各話に対する二通りの寸評を対比的に読むことができる。
 そのあとには、このたび発掘されたリスト漏れの『ドラえもん』作品が再録されている。「幼稚園」1978年12月号で発表された3ページの作品で、藤子・F先生が描いた『ドラえもん』作品が今になって発掘されること自体、大いに驚きである。




 昨年12月17日・18日、大阪で会った藤子ファン仲間たちの相変わらずの活躍ぶりも目をひいた。
 大阪懇親会の幹事であり、当ブログにも何度かコメントを寄せてくれた名和広さんは、「NU会員さんインタビュー・我が藤子らいふを語る!」に堂々登場。藤子作品との出会いから熱き想い、藤子コレクターとしてのこだわりなどを語っている。「うちは母子家庭で、帰っても誰もいないし、ひとりぼっちになっちゃうんですよ。でも、その時、僕を待っていてくれたのが『ドラえもん』であり『怪物くん』であり、『ハットリくん』だったんです。ですから僕にとって藤子キャラは、夕方から遊べる友達のような存在だったんですよね。彼等がいたから、寂しくなかったみたいな…。ただ、これも藤子マンガだからこそだったと思うんです。藤子マンガ特有の暖かく、心に沁みる愛の温もりがあったからこそだと思いますね」という発言は、私の心をもほかほかとさせてくれた。私は、小学生の頃よりむしろ思春期に藤子マンガに心を支えられたクチだが、少年期に藤子マンガを心の拠りどころにしていたという点でとても共鳴できる。
 名和さんの藤子単行本・藤子フィギュアコレクションを紹介する写真も掲載されており、これを見るだけでも十分に圧巻の域だが、実際に彼の部屋をこの目で見た身としては、まだまだこんなもんじゃない、という印象も同時に抱かされる。

 
 大阪のKさんは、 会誌前号のさまざまな記事に対して思いやりのある感想を寄せていて、KさんがNU誌を隅から隅まで耽読し楽しんでおられることがつぶさにうかがえる。おおはたさんと私の「ドラえもん新作アニメレビュー」にも好意的なコメントをくださってありがたく思った。
 大阪のYさんは、相変わらず大量の藤子美少女イラストを投稿していて圧倒される。毎号のように、見開き2ページすべてが彼のイラストで埋められたページがある。Yさんはイラストを心から楽しんで描いているのだなあ、そして藤子美少女たちを心底魅力的に思っているのだなあ、ということが強く伝わってくるイラスト群だ。


 兵庫のKさんのブラックテイストなイラストも、今回は見開きで特集されていた。「乱交パーチィ」と眼鏡の男が叫んでいるイラストは、ネタがネタだけにNUで採用されるか本人も我々も気を揉んでいたが、無事掲載されて一安心。このイラストは、藤子A先生の『戯れ男』「戯れに南海の島へ向かえば夢失う…」のワンシーンが元ネタで、そのシーンでも登場人物が同じことを口走っているので、決して元の藤子マンガをことさらに猥褻化したものではない。むしろ、元の藤子マンガへの忠誠心があふれたイラストといえる。Kさんの場合、その忠誠心が、アブノーマルな方向で黒々と顕在化するのである。


 彼らが集合した大阪懇親会については、昨年12月20日のエントリで書いたので、興味のあるかたはご覧ください。
●「大阪で藤子ファン仲間と会う」 http://d.hatena.ne.jp/koikesan/20051220