「CUT」5月号(ロッキング・オン)を購入。
「藤子不二雄Aの主人公は深くて強い」という見出しで藤子不二雄Aマンガの大特集を組んでいます。『怪物くん』ドラマ化に関連していろいろな企画や現象が発生したわけですが、そうしたなかでもこの特集は、個人的に最高レベルの興奮をもたらすものです。
表紙からしてすばらしい。描き下ろしの怪物くんイラストが表紙を飾っているのです。怪物くんが怪物くんの表紙の「CUT」を持っていて、その「CUT」の表紙も同じ怪物くんが「CUT」を持っていて、さらにそのなかの怪物くんも…といったふうに、鏡に映った鏡のような入れ子遊びになっていて、実に楽しいです。この表紙だけでも買い。
特集記事も充実していて、ここまで大々的でしっかりした藤子A特集が商業誌で組まれるのは稀有なことです。
作品徹底検証では『忍者ハットリくん』『怪物くん』『まんが道』『魔太郎がくる!!』『プロゴルファー猿』『笑ゥせぇるすまん』といった藤子A先生の代表作から、こういう特集ではあまりクローズアップされることのない『シルバークロス』『黒ベエ』『さすらいくん』『ウルトラB』『パラソルヘンべえ』などまでが扱われています。「藤子不二雄A総論」では、私の大好きな『夢トンネル』も少しだけですが言及されています。
そして、藤子不二雄A先生インタビュー、A先生と大野智くんの対談、大野くんインタビューと続き、読み応えのある特集となっています。
大野くんの発言で特に印象的だったのが、以下のくだりです。
大野:『怪物くん』は、実写版では話が全然違うけど、マンガはねえ、逆に面白いっていう(笑)
インタビュアー:逆にっていうのは?
大野:オチがないまま終わったりすんじゃん。最初はびっくりしたんだよね。で、先生に訊いたら、「僕も描いててわかんないんだ」っておっしゃってて。先を考えないで描くから、描いててわくわくするんだって。そして、最終的にはああなったって(笑)すごいよね。
大野くんが言うとおり、藤子A先生のマンガは『怪物くん』に限らず、オチらしいオチがないまま終わったり、伏線が投げっぱなしで忘れ去られたりする話が結構あるのです。そういうAマンガの特徴を直観的につかんだうえ、それを「面白さ」「すごさ」として感受しているところに感心しました。藤子Aファンとして、「大野くん、わかってるなあ」という気持ちを喚起されました^^
オチがないとか伏線が放棄されるといった要素は、本来なら物語の作法として欠点や破綻というふうに指摘されがちなものですが、A先生のマンガはそういう要素を魅力に変えてしまうパワーを持っていて、その点をさらりと指摘した大野くんに感心したのです。
私は同誌を書店で少し立ち読みしたあと、思わず2冊買ってしまいました^^
以下は宣伝めいた話になりますが、「CUT」の藤子不二雄A特集を読んで、藤子A作品の深さや濃さに関心を持たれた方は、その深さ・濃さをさらに知るための手掛かりとして、昨年発売された拙著『藤子不二雄Aファンはここにいる』Book1座談会編とBook2Aマンガ論序説編も合わせて読んでいただければ、と思います。
[目次]
- 作者: 稲垣高広
- 出版社/メーカー: 社会評論社
- 発売日: 2009/09/01
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・プロローグ ―自己紹介・好きなA作品・フェティシズム―
・『まんが道』 ―“師”を持つことの素晴らしさ―
・『少年時代』 ―エンターテインメントとしてだけではない何か―
・本格的ギャグマンガ ―『忍者ハットリくん』『怪物くん』『フータくん』など―
・先鋭的ギャグマンガ ―『黒ベエ』『仮面太郎』『マボロシ変太夫』など―
・ブラックユーモア短編 ―『マグリットの石』『水中花』『ひっとらぁ伯父サン』など―
・『劇画毛沢東伝』 ―中華人民共和国の青春時代を思う―
[目次]藤子不二雄AファンはここにいるBook〈2〉Aマンガ論序説編
- 作者: 稲垣高広
- 出版社/メーカー: 社会評論社
- 発売日: 2009/12/01
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・第一章 藤子不二雄Aギャグの世界
藤子不二雄Aギャグマンガ概論―一九六四年からのギャグマンガ道―
『忍者ハットリくん』と『怪物くん』―藤子A二大メジャーギャグマンガのおかしみと人情味―
『黒ベエ』―影の男の意地悪趣味―
『仮面太郎』―仮面と顔面への執着―
『マボロシ変太夫』―その奇妙で滑稽でシュールな笑いの世界―
・第二章 藤子不二雄A自伝的な世界
『まんが道』―自伝的虚構が内包する篤実な力―
『少年時代』―子どもたちの葛藤と権力闘争の日々―
『夢トンネル』―過去から学ぶための時間旅行―
・第三章 藤子不二雄Aブラックユーモア短編の世界
藤子不二雄Aブラックユーモア短編概説―奇妙な味のクロニクル―
『黒イせぇるすまん』―友情を売るメフィストフェレス―
『ひっとらぁ伯父サン』―日常に闖入した奇妙なファシスト―
『マグリットの石』―空に浮かぶ岩石の異郷送り―
『水中花』―水槽のなかの怪しく美しい世界―
『赤紙きたる』―ある日突然召集令状が届いたら―
・第四章 藤子不二雄Aマンガの精神
藤子不二雄Aマンガ《強者と弱者の二元論》
藤子不二雄Aマンガ《あすなろの精神》
藤子不二雄Aマンガ《ダメ少年の系譜》
ドラマ『怪物くん』第1回の視聴率は、17.5%だったようです。目標15%だったので、上々の滑り出しですね。
http://news.livedoor.com/article/detail/4725716/