長年のあいだその存在が噂されながら幻であり続けていたアニメ『フータくん』のパイロットフィルムが、ついに発見されました。アニメ史上に刻まれるであろう、歴史的な発見です。
『フータくん』は、正式なテレビアニメ化は実現しなかったものの、アニメ化の企画が持ち上がってパイロットフィルムが制作され、広島をはじめ一部地域ではそのパイロットフィルムがテレビ放送されました。
そういうところまでは、熱心な方々の調査で確認されていました。
しかし、当のパイロットフィルムの所在は不明のまま、長いあいだ幻の作品、謎の作品であり続けていたのです。
当ブログでも、2006年時点で得られた情報から『フータくん』パイロットフィルムの謎を追ったことがあります。
https://koikesan.hatenablog.com/entry/20061207
そんな長らく謎に包まれていた幻のパイロットフィルムがついに発見されたことが、Tokyo Cine Center (TCC試写室)様のTwitter投稿で報告されました。
4月16日のことです。
https://twitter.com/kokuei_tcc/status/1515212816898093060
この報告に、藤子ファンやアニメファンがわきました。
藤子作品史上、日本アニメ史上の大きな発見だと思います。
それまで「パイロットフィルムは白黒で制作された」との説がよく聞かれていましたが、実際はカラーだったことまで判明しました。
https://twitter.com/kokuei_tcc/status/1516558524540940294
※Tokyo Cine Center (TCC試写室)様の一連のTwitter投稿は、公式サイトでもさかのぼって確認できます。
はたして私が生きているうちに発見されることがあるのだろうか、いや難しそうだ……とすら思っていたモノが現実に発見されたわけで、
「令和の大発見だ!」と快哉を叫びたい気分です。
私が初めて『フータくん』を読んだのは、朝日ソノラマのサンコミックス1巻(全5巻)でした。その1冊を再読することで、『フータくん』の面白さを改めて堪能しました。
むろん、原作者の藤子不二雄Ⓐ先生を偲ぶ意味もあります。
『フータくん』を連載していたころ(1964年~67年)のⒶ先生は、同時代に『オバケのQ太郎』『忍者ハットリくん』『怪物くん』『サンスケ(わかとの)』なども連載していて、正統派王道ギャグ漫画家として最も脂がのっていた時期だったのではないか、と私は思っています。テンポよく連発される安孫子チックギャグがたまりません。
この時代をすぎるとⒶ先生は正統派ギャグマンガからブラックユーモアや奇妙な味わいのギャグマンガへと進んでいかれます。
2人の藤子先生は自作品を「定住型」と「放浪型」に分けて考えていました。『オバケのQ太郎』をはじめ『忍者ハットリくん』『ドラえもん』などは皆「定住型」。それに対して『フータくん』は「放浪型」藤子マンガの代表例でしょう。
放浪少年フータくんの、明るく楽しくたくましく独力で生き抜くバイタリティが、この作品全体にみなぎる力強いエネルギーと化している気がします。ギャグが弾けている作品だなあ、とも思います。
もとより活発なフータくんが赤い物を見ると興奮してますますハッスルするところとか好きです。
サンコミックス『フータくん』1巻のなかだけでも、フータくんが旅先でいろんなユニークな人物に出会います。今回の再読で私がなぜか気に入ってしまったのが、岩手から出てきたおまわりさんタラコ・タラオ氏。「春はポカポカ家出のシーズン」という話に登場する日本初の家出おまわりさんです。とぼけたキャラでいい味出しているのです。
名前が「タラコ・タラオ」なのも藤子不二雄ファン的に琴線に触れるし、話すとき語尾に“がんす”とつくのが『怪物くん』のオオカミ男を彷彿とさせたりもします。家出の供にブタを連れてきたところもポイント高し!
「ぼくはギクシャクロボットだい!」という話に、鉄腕アトムのパロディキャラが出てくるのも愉快でした。
その名も、鉄腕アウト!
ロボットの審査会に出されたものの、すぐにあるマンガそっくりだとバレて「盗作じゃ アウト!!」という結果に(笑)
サンコミックス1巻で読めるのは、『フータくん』の第一シリーズである「百万円貯金編」で、3巻まで続きます。
「百万円貯金編」は、各回のラストで「今回の貯金額」としてその回の収入・支出と差し引きの合計貯金額を表示します。そのアイデアについてⒶ先生とお話させていただいたさい、
「詐欺師がお金を集めて各章の最後に収支が表示される小説があってね、それがアイデアの元になっているんだよ」と教えてもらいました。
そのように、『フータくん』はお金にこだわった作品なのです。『フータくん』の記念すべき最初の単行本であるサンコミックス1巻の表紙イラストが“お札の肖像画になったフータくん(当時の1万円札の聖徳太子のパロディ)”というところからも、本作のお金へのこだわりがうかがえます。
藤子不二雄Ⓐマンガにはそうしたお金を扱った作品が多く、その事実に着眼して「現金漫画としての藤子不二雄Ⓐ論」という評論を書かれたのがブルボン小林さんです。
私は「スポンジスター」(2007年)という同人誌で「現金漫画としての藤子不二雄Ⓐ論」を読みました。
この評論は『忍者ハットリくん』『怪物くん』の話から入って、最も字数を使って中心的に論じるのは『まんが道』です。(『フータくん』にも少し言及しています)
現金漫画という観点からⒶマンガの持つ特質を浮き彫りにする、読みごたえのある評論です。
『まんが道』では編集者(やテラさん)が主人公2人を厳しく叱るシーンが何度かあるが、叱った人はほぼ必ず「言い過ぎたよ」と謝罪を入れる、『まんが道』の世界はそういうふうに作られている……といったことをブルボン小林さんは指摘しています。この評論を初めて読んだときも、今回読み返したさいも、そのくだりを特に印象深く感じました。
さてさて、
『フータくん』パイロットフィルム発見を報じたTokyo Cine Center(TCC試写室)様のツイートによると、発見されたフィルムは「多少の収縮と結晶は出ているが、デジタル化は可能」とのこと。
https://twitter.com/kokuei_tcc/status/1517297343493980160
今後の情報にも期待したいです。