ドラマ『まんが道』感想(11話〜15話)

koikesan2006-01-24

昨日のエントリで、ドラマ『まんが道』第1話から10話までの感想を記した。今日はその続きで、第11話から15話(最終回)までの感想を。


●11話〜15話
・講論社「少年王」の編集者がわざわざ高岡までやってきて、足塚茂道(満賀と才野の合作ペンネーム)に連載を依頼。満賀がすぐに引き受けようとするのを制し、才野は「大事なことですから2人でしっかり考えて…」と態度を保留する。連載の依頼という感激的な出来事を前にしても落ち着き払って見える才野に、満賀は不満をぶつけずにはいられなかった。そのとき才野は、汗びっしょりになったてのひらを開いて、自分の心の状態を示してみせるのだった。
 才野が汗びっしょりのてのひらを満賀に見せるシーンは原作でも印象的だが、実写で観ると独特の生々しさがある。


足塚茂道は、「少年王」からの連載依頼を引き受け、2人でアイデアを出し合って『四万年漂流』という作品を執筆することにした。4万年の時空を旅する壮大なスケールのSF作品として構想するが、ストーリーが分かりにくくおもしろくない、などと読者に酷評され、不人気のため6回で打ち切りとなった。
『四万年漂流』は、1回が4ページ程度しか割り当てられない月刊誌の連載には向いていない作品だったわけだが、『UTOPIA 最後の世界大戦』のように、描き下ろし単行本で発表するものだったなら、当初の雄大な構想をぞんぶんに活かして、本格的なタイムトラベルSFを完成させることができたかもしれない、と私は夢想したくなった。


才野茂の母が茂に「正直言って漫画のことはよう分からんけど、あんたのやることやから」と言葉をかけるくだりは、わが子への無条件の信頼が感じられて、心あたたまるシーンだった。満賀家は満賀家で、風邪をひいて寝込んでいながら、道雄が漫画を描きやすい環境をつくってあげようと気遣う母と弟がいる。才野と満賀がまんが道を歩むうえで、こうした家族の理解・協力が大きな支えになっていたのだ。


・竹葉美子と日上が親しげに会話する現場を目撃した満賀は、心を動揺させ、不機嫌になる。そんな満賀に対して虎口部長は、竹葉美子と2人で映画を観てこい、と(あくまでも仕事として)命じるのだった。そういう虎口部長の気のきいた配慮が素敵だ。友達、家族、会社… どこへ行っても満賀のまわりには、いい人がいる。『まんが道』は、いい人が大勢登場する物語でもあるのだ。


・渡辺寛二が演じるテラさん(寺田ヒロオ)が登場。テラさんは、初めて会った満賀に、居心地のよかった電電公社を辞めて漫画家一本の生活に入った自分の思いを熱く語る。「何かをとるときには、何かを捨てなくちゃならない」とのテラさんの言葉が身に沁みた満賀は、新聞社と漫画家修業という二筋道を行く自分を顧みて、決断のときが迫っていることを実感。新聞社の仕事が楽しいだけに、悩みや焦りが生じてくる。
 そして、ついに決断のときがきた。満賀は才野に、「俺は新聞記者になるより、おまえと漫画を描く人生を選んだんだ」ときっぱり告げる。そのシーンが観られた第14話終盤から、第15話(最終回)の満賀と才野がいよいよ上京するラストまでは、もう、感動につぐ感動で、胸がいっぱいになった。最終回が終わっても、胸がジーンとし続けて、しばらくその場を動きたくなかった。


・原作の『まんが道』は、週刊少年雑誌に連載されていたにしては地味な作品で、篤実でゆったりとした語り口でエピソードが綴られていくが、ドラマのほうは、原作のエピーソードをずいぶん省いたり入れ替えたりして、独自のシーンや登場人物を加えながら、原作より速めの展開と、ほどほどにドラマチックな演出、二枚目の主人公を配するキャスティングなどで、一般の視聴者を飽きさせないようなつくりがなされていた。原作でよく見られる、当時の漫画事情の解説ナレーションなどは、まったく挿入されなかった。話の展開が速いのは、限られた放送日数のなかで原作の主要エピソードを入れ込まなければならないという事情もあっただろう。
 原作と比べて展開が速くテレビ的な演出がほどこされたとしても、だからといって、浮ついた雑なドラマに堕してはおらず、原作が持つ実直な青春劇の空気感を醸しながら丁寧にドラマ化されていて、全体として良心的なビルドゥングスロマンに仕上がっていた。



●続篇について
 ドラマ『まんが道』は、1986年の本放送時、よい評判を得たようで、翌年夏には続編が作られた。それが『まんが道 青春篇』(1987年7月27日〜8月14日放送)である。前作は、藤子先生の故郷である富山県高岡市が主舞台だったが、続篇は2人が上京後の話で、両国の下宿先やトキワ荘を舞台にドラマが繰り広げられる。
 オープニング主題歌は前作と同様、竹本孝之の『ホールド・ユア・ラスト・チャンス』だが、歌詞が2番のものになっている。オープニング映像は、UFOが飛び去ったあとにできた道を主人公の2人が力を合わせて懸命に進んでいく姿を映していて、その映像と交差するように、オバQドラえもんパーマン、猿、怪物くん、ハットリくん21エモン、ウルトラB、ジャングル黒べえといった藤子キャラのカラー図版が画面の下から上へと流れていく。
 手塚先生は前作と同じ江守徹が演じているが、寺田ヒロオは渡辺寛二から河島英五に交替。そのほか、石森章太郎赤塚不二夫鈴木伸一、角田次郎、永田竹丸、森安直哉など実在のマンガ家が多数登場するのが前作との大きな違いだ。石森章太郎は、石森の実の息子・小野寺丈が演じている。幾多の藤子アニメで声をあてた肝付兼太や、原作者の安孫子先生がゲスト出演する回もあるし、トキワ荘に住む美人姉妹の妹役で森高千里が、中華食堂・松葉の店員役で鈴木保奈美も出演しており、今から見るとレア映像満載である。
 今後、CSなどで再放送されるのだろうか。再放送されないとしたら、ジャングル黒べえの図版がネックなのか。




※写真は、ドラマ『まんが道 青春篇』第2週放送分(第6回〜第10回)の台本。